再会
リアニとラヴィエルは共に闘技場へとたどり着き、そこで激しい鍛錬に励む二人の姿を見つける。
一人の熾天使を相手に奮戦しているカリスは、別れて一日と経っていないはずなのにも関わらず、まるで別人のような強さを身に着けていた。
またそのカリスを遠方から支援しているミシェルは、大量に魔法力を使用していそうな魔法を何発も連続して放つことに成功していた。
一体この十数時間に彼女たちの身にどんな変化が起きたのかとリアニが思っている中、ラヴィエルが鍛錬中の三人を呼び出す。
声に気づいて振り向いたカリスとミシェルは、リアニの姿を見るなりものすごい勢いで彼女の体に同時に飛びついてきた。
リアニは「ぐぇっ!」という断末魔を発しながら、勢いに負けて地面に倒れ込んでしまった。
「リアニィィィ~!!! 会いたかったぁぁぁ!!!」
「リアニちゃぁぁぁん!!! うえぇぇぇ~ん!!!」
「ちょっ……二人とも……くるしっ……しんじゃう……!」
ものすごい力でリアニに抱きつく二人の頭にラヴィエルは手刀を叩きこんで引きはがした。
リアニは首元を抑えながら深く息を吸っている。
再会の感動の涙か、苦しい鍛錬からの解放の涙か、はたまた手刀の痛みによる涙なのかは定かではないが、二人の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
そこにエスハイエルも近づいてくると、二人のあまりの様子の変化に驚いていた。
「……本当にカリスはあなたの姉なのですよね……?」
「……たぶん……?」
リアニ自身も本当に自分が妹なのか分からなくなってきてしまった。
二人が落ち着いた後、先ほどハイリヒと決めたことについてラヴィエルの口から語られた。
最初は二人も不安そうにしていたが、ラヴィエルも同行するという旨を聞いた途端に胸をなでおろしていた。
リアニは直接彼女の力を見たわけではないのだが、あの進化した”大罪の悪魔”を軽く一捻りできるのだから、彼女の強さは疑うまでもないのだろう。
しかしやはりスワヴォータの件には未だにリアニの心に小さな不安は残っている。
スワヴォータの協力は今回の作戦の要と言っても過言ではない。
彼らの協力が得られないとなった場合、熾天使たちの目覚めを待つ以外の方法が取りづらくなってしまう。
今動ける全員で向かうとなると、もし想定外の事態により多くが戦闘不能、もしくは全滅してしまった際に取り返しがつかなくなってしまう。
前回のオブスカーラでは実際にあと一歩で取り返しがつかなくなるところだったのだ。
熾天使は終わりの使徒よりも優れた力を持つが、決して侮って掛かっていいものでもないのだ。
奴らの力は熾天使の体にすら回復困難な傷を負わせることができる。
それがリアニやカリス、ミシェルの三人であれば即死は免れないであろう。
リアニの力がたまたま覚醒のような状態に入り、傷を修復できたからよかったものの、未だに彼女はその力を完璧に使いこなせているわけではないため、次またシエルのような傷を負った者が現れたとしても、同じように治せるとは限らないのだ。
そこで今回の要であるスワヴォータの出番となる。
彼らの独自の技術は失われてしまった過去の技術が用いられている。
なぜ過去の魔法が現代の時代をはるかに凌ぐほどに強力なのは想像に難くないが、その技術をフルに生かしてもらえるのであれば、エンデの脅威性は著しく下がる。
彼らの呪術は相手を拘束したり、弱体化させることに特化しており、また攻撃の魔法はグラニが熾天使の助力の下放ったものに匹敵するのだ。
もし彼らが今回だけでなく、今後の戦いにおいても協力してくれるのであれば非常に心強い存在となるだろう。
それだけに今回の作戦は失敗できないのだ。
だからこそ、リアニはどんなに些細な不安も残すわけにはいかないと考えている。
「ラヴィエル様、スワヴォータの件なんですけど……」
「ん? やっぱり話しといたほうがいいか……」
そこから語られたのはおよそ二百年も前の話になる。
「私がフラフラと人界を散歩してたら、たまたま強力な魔物に襲われている一団を見つけたんだ。その子たちはまだ五、六歳ぐらいの子供ばっかで、中には大怪我をしてる子もいたから、私がその魔物を追い払ってその子の怪我も治してあげたんだ。ただその子たちは独自の言語体系を築いているみたいで、人間の言葉が分かる私でも何を言ってるのか分からなかったんだ」
「なるほど……つまりその子たちは……」
「リアニちゃんのお察しの通り、彼らはスワヴォータの子供たちだった。そこで彼らの村に案内された私は彼らに最大限のおもてなしを受けて、感謝されたってわけ。リアニちゃんたちが知っての通り、彼らは一度受けた恩は何年、何十年、何百年と語り継いでいく。だから私が行っても多分問題ないってこと」
そこでカリスはハッと何かを思い出したように声を上げる。
「あの村長の家の壁画みたいなのってラヴィエル様の姿だったんだ!」
カリス曰く、スワヴォータの村長の家には一枚の写真のような壁画が飾られており、六枚の翼をもった鳥のような絵が飾られていたという。
「十中八九、私の絵だろうね。なんだか嬉しいね。こうも大事に語り継がれているっていうのは」
ラヴィエルは優しい笑みを浮かべてルーメンの方角を仰ぎ見た。
その目には当時救った彼らの影が映っていたのだろうか……。
「さて、時間もないし、早速ルーメンへ行くとしますか」
「待ってください。カリス、ミシェル、あなたたちは本来であれば未だ鍛錬を積むべき期間である身。そこで今回の作戦において、課題を二人に与えます」
二人はこれ見よがしに嫌な顔をしている。
「その変顔に対する罰は別途設けることにしましょう。カリス、あなたは今回の作戦においてスワヴォータの魔法を会得しなさい。話を聞く限りでは彼らの魔法は私たちのそれにも匹敵するもののようですので、是非ともそれを盗んできなさい。ミシェル、あなたは一度も空間魔法力を使い切ることなく魔法を放ち続けられるようになりなさい。そのコツは以前にお伝えした通りですので、実戦でそれを発揮できるようにしてきなさい」
罰が設けられるという話にさらに変顔を二人に容赦なく課題を叩きつけたエスハイエルは、その後期待した眼差しで二人を見て頷くとそのままどこかへ飛んで行ってしまった。
彼の姿が完全に見えなくなったところで二人は顔を見合わせて大きなため息をつく。
「せっかく鍛錬から離れられると思ったのに……」
「二人とも、私の存在を忘れてない? あなたたちの先生は彼だけじゃないんだからね。出された課題がしっかりこなせるかどうか、私も見てるからね」
そこで二人はさらに頭を抑えてしゃがみ込み「あああああ……」と力ない叫び声をあげる。
そんな二人の様子を受けてラヴィエルがこっそりリアニへ耳打ちをしてくる。
「ねぇ、リアニちゃん。ほんとにカリスってあなたのお姉ちゃんなの?」
「……」
半目になったリアニは呆れて何も言えず、ただ首をかしげるだけだった……。
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