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女神

 一行が天界にたどり着くと、ラヴィエルはそそくさとどこかへと飛んで行ってしまった。

 それを気にすることなく、セラフュエルはリアニへ付いてくるように言うと、大きな神殿を通り、雲の上にかかる光の通路を止まることなく歩いていく。

 見るものすべてに驚いているリアニは思わずおいて行かれそうになるのを小走りで追いかけると、彼は真っ白な壁に美しい金色の装飾が施された、天界の中で最も大きく一際目立つ建物の前で止まる。

 大きな扉を三回ノックすると、その扉はゆっくりとその重さを感じさせるゴゴゴという音を立てながら自動的に開く。

 中には大きな薄い色のガラスがはめ込まれた窓がいくつもあり、外の明るさを十分に取り込んでおり、また整然と並べられた長椅子はこの空間をどこか神秘的な雰囲気を感じさせる一役を演じている。

 その奥には大きな結晶が祀られており、その結晶は中からまばゆい光を放っている。

 セラフュエルはその石の前まで歩いて行くと、一つ一つの動作を丁寧に行いながらゆっくりと跪く。

 リアニはその空気を察し、彼の横に並び同じ姿勢を取る。

 「女神ハイリヒ様、ただいま戻りました」

 彼はその結晶に話しかけると、それは一層まばゆい光を放つと、結晶の前に一人の女性の姿が現れる。


 その女性は腰辺りまである真っ白な長い髪をおろし、黄金の月桂樹の冠を被っている。

 顔立ちは形容しがたいほど美しく、その淡い翡翠色の瞳にはまるで吸い込まれてしまうような魅力がある。

 体のラインがくっきりと浮かぶ純白のドレスに身を包み、首から大きな金のネックレスをかけている。

 リアニは彼女が女神であるということを全身で感じ取った。

 「よく無事に戻りました。セラフュエル、そして”希望”の加護を授かりし子――リアニ。あなたの行いは全てここから見ておりましたよ。傷つき倒れてしまった私の子(シエル)を助けてくれたこと、感謝します」

 「と、とんでもございません!」

 「謙遜せずともよいのです。あなたは命を救ったのですから、それは誇るべき善い行いなのですよ。――さてセラフュエル、本題へ入りましょう。あまり時間も残されていないようですし……」


 セラフュエルはそう言われると顔を上げ、ハイリヒの言う本題へ話を切り替える。

 「はい。まずは地上に残る終わりの使徒(エンデ・アポストロ)についてですが、オブスカーラの地のものは一掃できたのを確認しております。残る地はルーメン、ゴスミア、ディムランズ、そしてフェリステアの四大陸ですが、ゴスミアに関してはシエルが集まったエンデの大半を消滅させたため数が少ないです。ですので彼の地はヴァミエル率いる天使たちと現地の人間たちで十分に対処可能かと思われます」

 「残るは三大陸……。私の子(熾天使)たちが動けない今、フェリステアとディムランズはかなり厳しくなるでしょう……。とすると次はルーメンに当たってもらうしかなさそうですね」

 「動けるのは私とリアニ、それにエスハイエルとラヴィエル、あとは彼らが鍛錬を積ませている彼女たちのみ……。悪魔たちの介入も考慮すると……いささか厳しいものがあるかと思われます」

 熾天使たちが動けない今、天界から動かせるだけの天使たちに余裕がない。

 動けるだけの天使たちを最大限動員したオブスカーラの殲滅戦は”大罪の悪魔”という冥界最大勢力の一柱、”傲慢”のルシフィアの介入により想定以上の被害を受けてしまった。

 また彼が倒されたと冥界にも知られているであろうこの状況では、悪魔らが報復のためにと意気込んで別の”大罪の悪魔”が出てくる可能性は高い。

 「しかし終わりの使徒(エンデ・アポストロ)の殲滅は人界の存続にかかわる急務。ここで尻込みしている暇はありません」

 二人がとんとん拍子で話を進める中、リアニが恐る恐る口を開く。

 「あ、あの……ルーメンなら、何とかなるかもしれないです」

 「何とかなるとはどういうことか聞かせてもらってもいいか?」

 セラフュエルがあごに手を当ててリアニへそう聞き返すと、リアニはある部族の話を始めた。


 ルーメンには古くからスワヴォータという部族が住まい、厳しい寒さをものともせずに生活している。

 彼らは外から部族以外の者や文化が介入することを極端に嫌い、それが彼らの習慣を変わることなく永らえさせてきた。

 彼らの独自の文化を理解することも難しく、基本部外者は彼らに近づかないのが一般とされている。

 しかし、カリスには彼らと昔の恩義からの繋がりがあるため、その妹であるリアニとその友人であるミシェルも彼らに気に入られている。

 そこで彼女たちは彼らが使う独自の呪術や霊魂魔法を教わり、それがメフィス戦で活用されたのだ。

 おとぎ話で語られるような時代から伝わるその魔法は、現代で学べる魔法よりもはるかに効果や威力が強い。

 その魔法をもってすればエンデ達をも容易に屠ることができるほどであるが、リアニたちにはその魔法が理解できず、習得するまでには至らなかった。

 しかし今回は彼らが住まう地での戦いであるため、彼らに協力してもらうことができれば、今抱えている問題を全て解決することができるのだ。


 「なるほど……。それなら望みはあるか……」

 「しかし彼らに協力を望む以上、私とおね……カリス、ミシェルの三人のみでなければいけません」

 彼らは異なる種族をとことん嫌う、たとえそれが天使であったとしても例外ではない。

 よってこの作戦をとる以上、熾天使たちの介入は認められないのだ。

 「それはいけません。あなたたち三人はまだ若いのです。ここで命を散らすような行動はとるべきではありません」

 ハイリヒはリアニが提案した作戦を強く糾弾する。

 リアニにはその理由も理解はできた。

 熾天使たちの強さ、そして終わりの使徒(エンデ・アポストロ)と”大罪の悪魔”の恐ろしさを目の当たりにした。

 それは今のリアニたちでは足下にすら及ばないものであり、熾天使抜きでの殲滅作戦は非常に危険であるためだ。

 するとそこへいきなりラヴィエルが扉を開けてズカズカと歩いてくる。

 「おい! ここへ入るときはノックをしろと何度も……!」

 「ハイリヒ様はいいって言ってくれてるからいいの。ハイリヒ様、私を彼女たちに付けてくださいませんか?」

 ハイリヒの前できれいに跪いたラヴィエルは開口一番にリアニの度肝を抜く発言をした。

 「ですがスワヴォータがあなたを受け入れるとは……」

 「大丈夫です。古の習慣をきれいに引き継ぐ彼らなら、私のことをきっとわかってくれるはずですから」

 ラヴィエルは自信に満ちた表情でハイリヒへ申し立てると、ハイリヒはその目を信じて首を縦に振った。

 「……わかりました。三人を行かせるのは不本意ではありますが、他に手もないので目をつぶりましょう。ラヴィエル、あなたがついて行く以上、誰一人としても死者が出ることを許しません。無傷で終わらせることを約束してください」

 「承知いたしました。ハイリヒ様」

 そうしてリアニが口を挟む間もなくルーメンのエンデ殲滅作戦にラヴィエルが加わることになった。

 勝手にカリスとミシェルも巻き込んでしまっているのだが、彼女たちならきっとわかってくれるという考えの下、リアニはラヴィエルと共にその場を後にし、二人がいるという闘技場へと向かった。


 残されたハイリヒとセラフュエルは先ほどとは別の事柄について話し出す。

 「ハイリヒ様。リアニのことについてなのですが……」

 「あの子がどうかしましたか?」

 セラフュエルはしばらく黙っていたまま言い出そうか迷っているようだった。

 その様子を察したハイリヒは優しく声をかける。

 「大丈夫です。言ってごらんなさい」

 「彼女は本当に”希望”の加護を授かっただけなのですか?」

 その発言に一瞬ハイリヒの表情が曇るも、すぐににこやかな笑みを見せると、彼女はこう口にした。


 「あなたは本当によく気づける賢い子ですね。そうですね。あの子には”希望”の加護のほかにも別の加護も授けています」


 セラフュエルは「やはり……」と口にするとその詳細をハイリヒから聞かされた。

 ――それは彼に恐怖という感情をあらわにさせるほど酷な内容であった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。


よろしくお願いいたしやす。

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