ある日の一幕【リアニ・カリス・ミシェル・グラニ編】
熾天使シエルより別行動をとるようにと言い渡された日のその後の出来事のお話。
リアニ、カリス、ミシェルの三人はグラニに呼び出され、軍の本部にある彼女の部屋へと向かっていた。
その呼び出し方がわざわざ一人ずつに手紙を送りつけての呼び出しだったため、三人は少し真剣な面持ちでその部屋へと向かっていた。
「ねぇ、一体どんな要件だと思う?」
おもむろにカリスが口を開くと、まるでそこで緊張の糸が切れたかのようにリアニとミシェルが深く息をついて話し始める。
「想像もつかないけど……怒られるとかではないよね?」
「わざわざ手紙で呼び出して怒るってのもよくわかんないしね。案外仲良くなるためのお茶会とかだったりして?」
ミシェルの冗談にカリスは変な顔をして答える。
「えぇ……? なら普通に呼べばいいじゃない。なんか内密な相談事じゃないの?」
「グラニさんの悩みを私たちが解決できるのかな……?」
「まあ確かにこの町では相当な実力者ではあるから、お姉ちゃんの言う通り内密な相談事っていうのもあるんじゃないかな?」
ミシェルは若干めんどくさそうにしながら弱音を吐き、リアニはカリスの意見に同調の意を示す。
三人は彼女の部屋の前に着くと、グラニがその扉をノックする。
すると中から「はぁ~い」という返事が返ってきたため、扉を開けて中に入る。
その部屋はフローリングの床に白を基調とした壁を濃い色の木の梁で縁取りされており、大きなベッドが一つ、そして丸い机と椅子が置いてあった。
机や床に敷いてある布地の色は赤を基調としており、施された装飾が高級感を醸し出している。
また奥にある窓にはいくつもの四角で構成された整然とした模様が施されていた。
席についていたグラニは立ち上がると、三人も一緒の席にかけるように促す。
「さて、そろったね。じゃあお茶会を始めましょうか」
「「「お茶会……?」」」
三人は揃って聞き返すと、あまりにぴったりだったためおかしくてみんなで吹き出してしまう。
「そう。今日はみんなともっと仲良くなりたいなと思って招待させてもらったの。自分でいうのもあれだけど、私の部屋に入れる人なんてそうそういないんだからね。イーバンダやフェロズとかも入れたことないの」
「どうして?」
「だってカリス、考えてもみてよ。普段ゴツイ鎧を着ている男たちの体なんて汗まみれよ? そんな人を一番落ち着ける部屋に入れたくないじゃない。それに女性の部屋に男性を入れることってあんまりないでしょ?」
グラニには寝室にこだわりがあるらしく、特に男性に入室は極度に嫌っているようだ。
彼女ほどの強さであれば問題はないだろうが、部屋でふいに襲われて……なんてこともあるかもしれない。
彼女には多くのファンがいるため、中にはそういったよからぬことを企む者もいるかもしれない。
警戒するに越したことは無いのだろう。
グラニは三人にもお茶を用意すると、自分のお茶を一口飲んで話題を切り出す。
「さて、それじゃ今日はいろいろ聞いてみたいことがあるの。まず改めて三人はどういう関係なの?」
「私はリアニの姉で、ミシェルはミルクヴァットで出会ったリアニの初めてのお友達なの」
リアニはそこで一年半前の記憶を思い出し、それをグラニへと語り始める。
その時はまだメフィスがストラという名を名乗り、密かにリアニを自分の味方に引き込もうとしていた頃だった。
夕食を取るために入った店で初めて二人は出会い、ミシェルはリアニの容姿や声、仕草に惹かれ、リアニはミシェルの優しさや明るさに惹かれて仲良くなった。
そこへやってきたのは当時は敵対していたカリスだった。
彼女はリアニが覚醒させた魔力を感じ取ってミルクヴァットの町へとやってきて、メフィスの真実について語り、いろいろあった後、リアニとカリスは共に行動することとなった。
「へぇ~、最初っから仲良しじゃなかったんだね。敵対って何があったの?」
「まあ……話せば長くなるし、あまり話したい内容じゃないから聞かないでくれると嬉しいかな」
「そっか、ごめんね。じゃあ二人とミシェルはいつから一緒にいるようになったの?」
今度はミシェルが半年前の出来事をグラニへ語り始める。
当時ミシェルはセレネで学校に通い、様々なことを学んでいた。
遠く離れた地で暮らすリアニとミシェルを繋いでいたのは彼女たちが送り合っていた手紙だった。
そこには日常での出来事や勉強したことなどをお互いに綴っていた。
――ある日、ミシェルから紙いっぱいに「助けて」と書かれたおぞましい手紙が届き、二人はすぐにセレネの町へと向かった。
しかしそこには美しい町の面影はなく、壊された建物や瓦礫の山ですっかり廃墟と化していた。
リアニはその瓦礫の山からミシェルを見つけ出し連れ帰ろうとする。
しかしこの事変とミアルバーチェへ戦争を仕掛けた元凶であるメフィスは一年前と違って何らかの力にまるで浸食されているような姿で、二人の前に現れるとその命を奪おうと襲い掛かってきた。
そこでリアニは時を止める禁術”時の歯車よ静止せよ”を、カリスは終わりの使徒を一定の間使役する”終わりの使徒よ、私に従え”を使用して何とか逃げ切る。
しかし親を失ってしまったミシェルには行き場がなくなってしまい、リアニとカリスは彼女を温かく迎え入れた。
「セレネでそんなことが……あの時はこっちも忙しかったから手を貸せなかったのが申し訳ないね」
「いいえ、謝らないでください。この世界で自分の身を守ることができるのは自分しかいませんから」
「……そうね。それでそこから三人で暮らすようになって仲良くなったってわけね」
「そうです。でもこうやって改めて振り返ってみると、まだ私は二人と半年しか一緒にいないんですね」
この半年間は三人でいろんなことを体験していたため、それだけ過ごした時間の密度が濃く、ミシェルは何年も一緒にいたかのような感覚に襲われていた。
それはリアニ、カリスも同じようで、うんうんと頷いていた。
「へぇ~。意外だね。私も三人はもっと長く一緒にいたものだと思ってたよ。それじゃあさ、”万物の終焉”とか”世界に光を”みたいによく二人や三人で協力して放つ魔法って多かったりするの?」
「う~ん……多いのかなぁ。”万物の終焉”とか”世界に光を”は協力しないと威力が出せないからそうしてるんだけど……」
「あんまり多くないと思います。私はどっちかっていうとお姉ちゃんやエルちゃんとお互いの魔法でカバーし合いながらの戦い方の方が好きですし」
「私もリアニちゃんと同意見です。あの魔法は魔法力や魔力消費量が桁違いだから協力してるだけであって、厳密にいえばそのエネルギーとなる魔法力や魔力が足りていれば、一人でも使えるので協力しなきゃいけないってことは無いんです」
ミシェルの説明を受け、グラニはアスモと対面した際の状況を思い出す。
メフィスが生み出した闇の塊を消さなければ世界が滅亡してしまうという局面の中、あらゆるものを消滅させる新魔法”万物の終焉”を放ったが、”拒絶”のアスモという悪魔に防がれてしまい、絶体絶命の危機に陥ってしまった。
しかし事前に邪魔をしようとする気配を感じ取っていたリアニは秘密裏に分身体を用意し、その分身体に莫大な魔力を与えて”万物の終焉”を準備しながら待機させていた。
そしてアスモを挑発したリアニは、自分たちに注意を向けさせミシェルと”世界に光を”という魔法を放った。
しかしこの魔法はただの目くらましの魔法であり、本当の狙いは待機させていた分身体に闇の塊を消させることだった。
つまりリアニはたった一人で三人が協力しなければならないほどのエネルギーを保有し、それを発動させるに至った。
一度目の”万物の終焉”を準備する途中でリアニの魔力が底をつきかけて、グラニの魔力を借りるに至ったのは、そのような経緯があったことを後にリアニ自身から語られた。
「確かに言われてみればリアニちゃん一人であの魔法を打っていたね。忘れていたよ」
「まあその後のことを考えると、あんな無茶はするべきじゃないんですけどね。実際あのタイミングでシエル様が現れてくれなかったら、私もお姉ちゃんたちも、それにイーバンダさんたちだって危なかったと思いますから」
「でもその無茶のおかげで私たちが助かったのは事実よ。もっと誇ってもいいんだよ?」
グラニにそう言われるとリアニは頭を掻きながら、俯いて顔を赤くした。
「ところで魔法で思ったんだけど、三人はそれぞれどんな攻撃魔法を使うの?」
「それは使える魔法を全部言えってこと……?」
「そうじゃなくて、戦う上でとりあえずこの魔法を使うってやつと、これで決めるって時に放つ一番強い魔法の二つをそれぞれ教えてほしいなぁって」
グラニの要望に応え、リアニから順に魔法を教えていく。
リアニが基本として使う魔法は”闇槍よ突き破れ”というもの。
魔力で生み出した数多の闇の炎を纏った漆黒の槍を対象へ放つ魔法で、対象をある程度追尾する能力がある。
またこの槍は自由に数を変えることができる特徴があり、特大な一本の槍としても放つことが可能で、その際の破壊力は桁違いのものとなる。
そして彼女が放てる一番強力な魔法は”月夜の終幕劇”というもの。
これは彼女が密かに開発した魔法であり、リアニを中心とした巨大な魔力爆発を起こすというもの。
その威力は”万物の終焉”をも凌駕するのだが、魔力の消耗がかなり激しいため、滅多に使うことは無いとのこと。
次にカリスが主に使う魔法は”氷塊よ凍て付け”というもの。
魔力で周囲の温度を極限まで低くしていき、自分を除いたすべての対象の動きを封じるというもの。
またその際にできた氷の結晶等を自由に変形させて対象にぶつけることもできる。
(メルティスを貫いた氷の槍はこの効果を利用したものである)
また彼女が放てる一番強力な魔法は”終焉の幕開け”というもの。
彼女は未だにこの魔法を一度も使ったことは無いが故に、何が起こるかは彼女にもわからないというが、最後の切り札として使用するようにと他人から押し付けられた魔法だと語る。
彼女が終焉の魔女を語るようになった理由にも深く関わっているようだが、そこまでは話そうとしなかった。
最後にミシェルが使う魔法は”閃光に貫かれよ”というもの。
丸太のように太い光線を敵に浴びせ、地面に触れると大きな爆発を起こす魔法である。
彼女は魔力を操ることができないため、全て空間魔法力で魔法を使用している。
そして彼女が放てる一番強力な魔法は”希望の光”というもの。
リアニの隣に立つために一生懸命に勉強して編み出した彼女だけの魔法であり、ミシェルがイメージした自由な魔法へと変化させることが可能。
つまり、何でもできる魔法である。
また消費する魔法力が凄まじい代わりに、その威力もまた桁違いなものとなっている。
一同の魔法を聞いたグラニは引きつった笑顔を浮かべる。
「ははは……熾天使様を見た時と似たような感覚に陥ってるよ。文字通り私とは次元が違うというか……」
「でもグラニさんも私たちと並ぶだけの素質があるってシエル様が言ってましたよ」
「いや~……リアニちゃんの気のせいじゃない……?」
「言ってましたって! ほんとですよ!」
リアニがあまりにも真剣に否定するため三人はその健気さにやられて吹き出してしまう。
訳も分からず笑われて膨れるリアニをどうにか三人で宥めるころには、外も段々と暗くなってきていた。
「さて、ここらでお開きとしますか。明日からはまた別々の行動になるわけだし、今日は早く休みましょう」
「そうね。楽しい時間だったよ、ありがとう、グラニ」
「お茶おいしかったです。ありがとうございました、グラニさん」
カリスとミシェルがお礼を言う中、未だご機嫌斜めなリアニは若干不貞腐れながらも、二人に続く。
「まあ楽しかったですよ。……ありがとうございました」
「フフフ、またこうして四人で集まってお話ししましょうね」
こうして四人はそれぞれの部屋へと戻り休息をとる。
彼女たちの仲はまだまだ深まり始めたばかりである――。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
熾天使降臨前までの彼女たちの物語をかなりざっくりと振り返れる内容でございました。
これだけ読んでおけば、この物語の序章の部分は八割がた理解できたと言っても過言ではないと思います。(作者がこういうのもなんですが中身無さすぎでは……?)
また作中には出てきていないような魔法もここで名前を初お披露目させていただきました。
これらを一体どんな場面で使うことになるのか、ご期待していただけると幸いです。
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