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”始まりの戦争”

 「クッソ……見誤った……。おいミミエル、無事か……?」

 「……ゴフッ……。これが……無事に見える……?」

 カミュエルとミミエルはそれぞれ大きな怪我を負い、血を流しながらなんとか立ち上がる。

 叩きつけられた地面には大きなクレーターが出来上がっており、周囲の木は衝撃でことごとくひん曲がっていた。

 カミュエルの怪我は右脇腹に大きな切り傷と背中の翼がニ、三本折れ曲がってしまっている。

 また頭部や脚部からも出血しており、左足に関しては折れてしまっているのか、酷く腫れあがっている。

 一方ミミエルの方はルシフィアの攻撃を防ぎ損なったため、かなり状態が酷い。

 背中の翼は全て折れ曲がっている、あるいはちぎれてしまっており、左腕は肘から先が、右足はくるぶしより先が無くなってしまっている。

 何より一番大きな怪我は左の脇腹が丸々抉り取られてしまっているところであり、その部分からの出血が酷く、顔色がみるみる悪くなっていく。

 また頭部にも傷があり、顔の右側はすっかり血で赤く染まってしまっている。

 「ああ、喋れるのが不思議なぐらいだな……。ミミエル、今はその魂を守ることを優先しろ。体は天界に戻れりゃ治せるからよ……」

 「えぇ……。そう……させて……もらうわ……。私の体……頼んだわ……」

 そうしてミミエルは深い眠りについたように目を閉じる。


 熾天使たちはその魂が核となっており、言わば体は魂の入れ物に過ぎない。

 例えどれだけ体を激しく損傷させようとも、魂が無事ならば彼らは何度でも蘇ることができる。

 しかし、活動中は常に魂と体が繋がっている状態であるため、体が傷つけば魂も傷つくことになり、魂と体が繋がったまま死んでしまうと、いくら熾天使と言えども二度と蘇ることはできない。

 そこで熾天使は体を大きく損傷した時、一時的に体と魂の繋がりを意図的に切ることによって魂を保護し、体の修復が終わったらまた体と魂を繋ぐことで再び活動を始めることができる。

 ただ、魂を切り離せる時間にも限度はあり、最悪でも切り離してから一日以内に再び体と魂を繋げることができないと、魂自体が消えていってしまい、二度と現世に戻ってこられなくなる。

 これはあくまでも命を伸ばすための万が一の方法でるため、熾天使と言えど不死ではないのである。


 カミュエルは眠りについたミミエルの体を支えると、すぐに天界の天使と連絡を取る。

 「ラミエル、ルミエル、聞こえるか?」

 「はい。カミュエル様。聞こえております」

 カミュエルの連絡にすぐに応じたのはルミエルだった。

 「ミミエルと俺の回収と体の治療を頼む。あと、ラヴィエルをこっちに寄こしてくれ」

 「かしこまりました。ラヴィエル様は現在地上のお二方の訓練途中ですがよろしいのですか?」

 「”傲慢”が暴れ回ってる。それに”暴食”に模倣した奴もいた。”暴食”も近くにいるのかもしれん」

 ルミエルは事態がかなり危うい状態であることを察すると、血相を変えて行動し始める。

 「かしこまりました。現在ラヴィエル様に出動していただくようお願いいたしました。またシエル様も意識が戻らない状態かつ、事態の重大性を鑑みてセラフュエル様にも出動していただくようお願いいたしました」

 「助かる。二人なら、きっと何とかしてくれるだろ」

 そうしてカミュエルは連絡を終えると、支えているミミエルの体を倒れないように自分の方へ寄せる。

 「本当はお前には……こんなことさせたくないんだがな……」

 空を仰ぎ見ると二つの流れ星のようなものが、大陸の西の方へ飛んでいくのが見えた。

 それと同時に近くに二人の天使たちが降りる所が見えたが、カミュエルの意識はそこで途切れてしまった。


   *


 カミュエルの要請を受けた二人はまるで早さを競い合うかのようにして、全力で強い魔力の気配の下へと向かう。

 そこへ近づくにつれて、闇の魔力でできた切りが濃くなっていき、視界もかなり悪くなっていった。

 「なるほどねぇ……。”傲慢”がここまでできるようになってるから、あの二人でも手を焼いたわけだ」

 「ラヴィエル。気を抜くな。相手はもはやただの”大罪の悪魔”ではなくなっている」

 「わかってる……よ……。――っ!」

 ラヴィエルの視界に飛び込んできたのは、山にめり込む小さな女の子の死体だった。

 その子には見覚えこそないが、カリスとミシェルが話してくれたリアニという女の子の特徴と一致するものが多い。

 その子の体は全身傷だらけで、腹部はかなり大きな力で殴られたのか、岩盤と一緒にぺちゃんこに潰れてしまっていて、上半身と下半身が真っ二つになってしまっていた。

 顔は最後の与えられた痛みに苦しむように歪んだまま亡くなっており、ラヴィエルの奥底に燃える怒りに火をつけた。

 「今度もまた熾天使か……。君たちが幾ら束になってこようが今の俺には勝てんよ」

 二人の後ろにはさらに進化したルシフィアの姿があった。

 全身が闇そのものに覆われ、口の部分は大きく裂け、目の部分には鋭く黄色い眼光がギラリと覗かせている。

 ラヴィエルは自分の魔力を極限まで引き出し、固くこぶしを握る。

 滾らせた魔力はその目をギラリと光らせ、目の色と同じ色の魔力が目尻から燃え盛るように溢れ出る。

 光る背中の翼を大きくバサッと羽ばたかせると、目にもとまらぬ速さで一気にルシフィアとの距離を近づけると、その勢いのままに彼の顔面を殴りつける。

 その速さは彼の目にも捉えることができず、動揺した彼は急いで魔力壁を張ろうとするも、全ては手遅れとなっていた。

 彼女の握り拳は彼の顔面を真正面から正確に捉え、殴りつけられた衝撃で彼は縦に回転しながら大きく吹き飛ばされる。

 「セラフュエル。こいつは私に任せて。その子の分身体の保護とどっかにいるフィグミエルを回収して。もし”暴食”も出てきたらその時はそいつの相手を任せる」

 「……よかろう」

 そうしてセラフュエルは少女の体を白い光の炎で燃やし、丁寧に葬ってやると、その場からサッと姿を消した。

 

 ラヴィエルは吹き飛ばしたルシフィアの後を追って空を翔る。

 彼女が通った後の空間が歪んで見えるほど、彼女が空を翔る速さはあまりにも早く、一瞬でルシフィアに追いつくと、その腹にさらに蹴りをねじ込む。

 その衝撃で彼が身にまとっていた闇はところどころが剥がれ落ち、痛みに歪んだ顔と腹からは大量に出血していた。

 やや上から放たれた蹴りで地面まで吹き飛んだルシフィアは木々をなぎ倒しながら、なんとかその勢いを殺すと、腹から上がってきた内容物と血を大量に吐き出す。

 一息つく間もなくラヴィエルの攻撃は正確にルシフィアの顔面へと吸い込まれるようにして叩きこまれていく。

 たった二本の腕とたった二本の足から繰り出される殴りと蹴りのラッシュは、素早いと一言で片づけられないほどの速さで、一撃も防ぐ猶予を与えない。

 最後に空中で思いっきり体をひねり、全体重を乗せた回し蹴りを側頭部に叩き込むと、その悪魔は無抵抗のまま吹き飛び、カルミアレの要塞の壁をいくつも突き破っていった。

 ラヴィエルは上空に跳びあがり、倒れているルシフィアの姿を確認すると、そこへ向けて隕石のような蹴りを繰り出し、すでに意識のない悪魔をその魂ごと踏みつぶし、見事に浄化させた。


   *


 彼らの交戦の後は凄まじく、あちこちに大量の血痕や巨大なクレーター、なぎ倒された木々や抉られた地面の跡などが残っており、オブスカーラは神々の交戦が起きた舞台として後にその地形を残したまま語り継がれることとなった。

 そして五人の熾天使が大きな怪我を負い、”大罪の悪魔”の一柱が浄化されたこの戦いは、”始まりの戦争”と呼ばれ、この後に続く天地を分かつ大戦争の火種になったと記録されることになる。

 この戦争から天界、人界陣営は早急な戦闘力の強化を、冥界陣営は圧倒的な力を持つ熾天使への対策を求められることとなるが、それはまた別のお話――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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