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贋作

 ミミエルとカミュエルはぴったりと息の合った攻撃を絶えずルシフィアへ与え続ける。

 互いにカバーし合いながら繰り出す攻撃は、進化した相手にその力を使わせる暇を与えない。

 一撃一撃が非常に重く、全力で受け止め守らなくてはいくら”大罪の悪魔”とて致命傷になりかねない。

 しかし、どれだけ攻め続けられようが、ルシフィアは余裕ある表情を崩すことは決してなかった。

 それを見ていたリアニは、彼がまるで攻撃をわざと受け続けているような、そんな予感がしたのだ。

 こういう時の勘は嫌というほど当たってしまう。

 もしもその勘が正しかった場合、ルシフィアは何かの準備のため仕方なく攻撃を受け続けていることになり、その準備が終わった瞬間、一気に形勢が逆転してしまう可能性が高い。


 そこでリアニはふとシエルの大怪我の悲劇を思い出す。

 もうあんな残酷な姿は見たくない、自分を支えてくれる彼らに報いるため、今度は自分が彼らを支えてあげる番なのではないか。

 そう思ったリアニはフィグミエルにも気づかれないように分身体を用意し、現在所有している魔力の半分をその分身体に移す。

 そうしてその分身体は誰にも気づかれることなく、ルシフィアが生み出した霧の中へと消えていった。

 (もし万が一があった場合は……きっとあの分身体が要になる。失敗は……できない)


 一方フィグミエルは天使たちが戦いの余波に巻き込まれてしまわないように、魔力壁を逐一展開しながら、全ての天使たちの撤退の支援をしていた。

 ミミエルとカミュエルはなりふり構わずルシフィアへ攻撃を仕掛けているため、彼が避けた斬撃や拳から繰り出される衝撃波が、そのまま天使たちへ意図せず当たってしまうことがある。

 天使たちにはその流れ弾に対抗できる術は現状フィグミエルにしかなく、もし当たりでもしたら一瞬で欠片も残らずこの世界から永遠に退場することになる。

 ただでさえ少ない戦力がこれ以上減ってしまうのは、熾天使たちの望むところではない。

 そのため、彼女は天使たちを一か所に集めると、彼らの地面に魔力で巨大な魔方陣を描く。

 その魔法陣はやがて光始め、段々とその光が強くなっていき、最終的に光と共に天使たちの姿も消えてしまった。


 「フィグミエル様。今のは……?」

 「安心してリアニちゃん、転送魔法だから。これでようやく私たちも心置きなく戦いに参加でき――っ! リアニちゃんっ!」

 フィグミエルはリアニへと飛びつくと、一瞬ジュッという音共に焦げ臭いにおいがリアニの鼻腔を刺激した。

 地面に倒れ込んだ二人は急いで態勢を立て直すと、目の前の霧の中からグラニほどの身長の女性がゆっくりと歩きながらその姿を現す。

 「う~ん……速さが足りなかったですネ。もっと上位のエンデを食べて来るべきでしタ」

 「――っ! ……リアニちゃん、集中して自分の戦いたように戦ってみて。あたくしが合わせるわ。大丈夫、勝てない相手じゃないから。あの触手にだけ気を付けて」

 「あら~……心外ですネ。そんなガキにあたしが倒せるト? この”暴食”が相手にできると、そうお思いでいらっしゃるノ?」

 その女性の悪魔は自らを”暴食”と名乗った。

 ”傲慢”ほどの魔力は無いが、それでもリアニには彼女から感じる圧は彼にも勝るものだと思った。

 リアニはすぐに法器()を生み出し、空中でも戦えるように備えるも、その手は勝手にぶるぶると震えて言うことを聞かない。

 また緊張で全身から嫌な汗が滴り落ちる。

 「来ないのかしラ? あぁ! 自己紹介がまだでしたネ。初めましておチビちゃん。あたしは”暴食”のベルトニー。まあすぐに死ぬことになるから覚えておかなくても大丈夫ですヨ」

 長身で髪は片目の隠れた暗い緑のセミロング。ルシフィアのような角が髪の間から生えており、角の先は赤いオーラを纏っている。絶滅してしまったとされるエルフのような長い耳を持ち、歪んだ赤い瞳がリアニとフィグミエルをじっと捉えている。

 背中にはルシフィアと同じように悪魔の翼が六つ生えているのだが、彼の翼とは色が若干違い、こちらの翼はやや赤みがかった黒色をしている。

 彼女の肩からは緑色の触手のようなものが数本生えており、常にうねうねと蠢いている。

 豊満な彼女の体をこれでもかと露出させた服装をしており、肌の上に少し大きめな綺麗な服を一枚着ているだけで、それ以外は何も身に着けていないようだ。


 彼女は自己紹介を終えると手を前に突き出し、先ほどと同じ光線をリアニの頭にめがけて放った。

 それをリアニは魔力壁でしっかりと受けきると、さっと法器に跨り、思いっきり空へと舞い上がる。

 フィグミエルもそれに続き、その後をベルトニーがゆっくりと追いかけながら、触手を二人へ向けて伸ばして攻撃していく。

 フィグミエルはそれを手に持っていた槍で断ち切り、リアニは手のひらサイズの魔力で作った闇槍をぶつけて勢いを殺す。

 「へえ~……魔女らしい魔力攻撃ですネ。天界の者たちの鬱陶しい光よりかは幾分か好感を持てますヨ」

 「ならこれはどう? 光槍よ消し飛ばせ(ルクスエクスティング)!」

 リアニは闇槍よ突き破れ(デスクブリミエント)を光で構築した数多の槍をベルトニーへ向けて放つ。

 それに合わせてフィグミエルがベルトニーへ近づき、ベルトニーが展開した魔力壁を槍でこじ開けて破壊する。

 多重に展開された魔力壁は簡単には破り切れなかったが、フィグミエルとの相撲には勝てず、何本かの光槍が魔力壁を突破して、ベルトニーの体に突き刺さる。

 悲鳴をあげながらベルトニーは再び触手を二人へと伸ばして攻撃を仕掛ける。

 先ほどと同じように捌けると判断したリアニは、再び手のひらサイズの魔力で作った闇槍をぶつけて勢いを殺そうとするも、その触手はそのままリアニの体へと嚙みつきにかかる。

 すぐにそれに反応したリアニはすんでのところで一回転して避けるも、その触手はどこまでも伸びてリアニを追いかけて来た。

 背中にまで迫り、追いつかれかけたところをフィグミエルがその触手を根元から断ち切ってくれた。


 「随分痛かったらしいな! あんなに追いかけるなんて大人げないな!」

 「ダマレ……! あたしは”暴食”の悪魔! 冥界最上位の悪魔なんダ!」

 「お前みたいな見かけだけの雑魚が”暴食”な訳ないだろ?」

 「――えっ!?」

 フィグミエルはその悪魔が”暴食”ではないと言い張り、リアニはその発言に驚きを隠しきれなかった。

 「正体を現しなよ。――”模倣”のイミディスさん?」

 「チッ……。さすがに熾天使は騙せないカ。さすがと言ったところだナ」

 ”暴食”のベルトニーだったその悪魔は、魔力の霧に包まれると、本来の悪魔の姿に戻る。

 その姿は先ほどのものとは全く違い、魔力相応の見た目に戻った。

 「完璧にあいつになりたいなら、まずその変な語尾を直してくるんだね。まあそれが直ったところで実力はあいつの足元にも及ばないから、すぐにばれると思うけど」

 イミディスは歯をギリギリと音がなるほど嚙み締めると、奇声をあげながらリアニの方へと真っすぐに突っ込んできた。

 「熾天使には敵わなくとも、せめてこのガキは殺す! 光槍よ消し飛ばせ(ルクスエクスティング)!」

 その悪魔は先ほどのリアニの魔法をそっくりそのまま模倣して放ってきた。

 しかしその魔法はリアニの体へ届く前に粒となって消えてしまう。

 「あなたにこれは使いこなせない。あなたじゃ魔力が圧倒的に足りないのだから。光槍よ消し飛ばせ(ルクスエクスティング)!」

 リアニは怒り狂ったイミディスの顔を見下しながら、本物の魔法をもう一度放ち、全ての光槍でその体をズタズタになるまで刺し貫いた。

 「がぁ……くっそ……が……き……メェ……!」

 そうしてイミディスの体は徐々に黒くなり落下しながら消えていった。


 「ふぅ、これで一安心ね」

 「あぁ、なら次は俺とやり合ってもらおうか」

 「なっ――!」

 フィグミエルの真後ろにはいつの間にかルシフィアがおり、彼女の背中を拳で打ち貫いた。

 貫かれた体は大穴を開けながら吹き飛ばされ、木々の中に消えていった。

 一瞬の出来事にリアニは頭がついて行かなかった。

 ようやく整理ができた時、その悪魔はもう目の前にいて顔にめがけて拳が飛んできているところだった。

 「いやっ――!」

 咄嗟に目をつぶり魔力壁を展開させるもバリーンという音共に発生した激しい衝撃波が小さな魔女の体を大陸の彼方まで吹き飛ばす。

 そうして山に大の字で叩きつけられたリアニは衝撃で上手く呼吸ができなくなる。

 (急いで体勢を立て直さないと……!)

 そう彼女が思ったときにはもうすべてが遅かった。

 姿が見えなくなるほどの速さで近づいてきていたルシフィアは、容赦なくリアニの腹へ速さの乗った拳を叩きこむ。

 その痛みと衝撃は、リアニの意識を吹き飛ばすには十分すぎるほどのものだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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