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傲慢

 ミミエルが大剣を思いっきり振り下ろすと、魔獣の背にある鉱石が砕ける音と共に、魔獣の悲鳴や大地が割れて砕ける轟音が響き渡る。

 とんでもない量の土煙が上がり、地面が激しく揺れ動いたため、地上で戦っていた一部の天使と悪魔はその揺れに耐え切れずに倒れ込んだ。


 そうしていつの間にか晴れ渡った空の下、土煙の中からようやく姿が見えだした魔獣は、地面ごと真っ二つになり、その体はまるで闇に帰るかのように黒い粒となって崩壊し始めた。

 その様子を確認したミミエルは大剣を戻して再び二つの剣を生み出すと、残る悪魔たちを殲滅するために天使たちの下へと向かおうとした。


 ――しかしその時、先ほどの魔獣の下からはるかに強大な魔力を感じ取って振り返ろうとした瞬間、ミミエルの後頭部に衝撃が走り、縦に回転しながらその体は大陸のはるか西の方まで吹き飛ばされた。

 その場に残っていたのは熾天使とは対照的な真っ黒な悪魔の羽を六つ生やした長身の男性の悪魔だった。

 その者の真っ白な髪の間から生える巨大な二本の角は独特な紫色で、彼の体からは漆黒のオーラが溢れ出ている。

 口元には閉じても隠し切れないほど大きな牙が見えており、その吊り上がった鋭い目はにらみつけた相手をすくみ上らせるほどの圧力を感じさせる。

 上半身には腕以外には何も身に着けず、刺々しい闇の魔力が体のあちこちを這うようにうごめいており、腕には真っ黒に輝く鋼鉄の籠手をはめている。

 下半身には籠手と同じような鋼鉄の刺々しい鎧の上に腰マントを身にまとっており、そのマントにも魔力を纏わせているのか、マントの先は黒い炎で燃えているかのように揺らめいている。

 「”月華”のミミエル――熾天使とて所詮この程度か……」

 その姿を見た天使たちは驚きすくみ上り、悪魔たちは歓喜の声を上げて彼を囃し立てる。

 彼はあごに手を当てて口元を隠すと、その下でニヤリとほくそ笑む。

 ”あの熾天使では自分には勝てない”と先ほどの一瞬だけでそう理解するに至ったためだ。


 その悪魔――”大罪の悪魔”の一柱、”傲慢”のルシフィアは、先ほどミミエルを背後から自分の全力の半分以下の力と速さで蹴り飛ばした。

 しかし彼女はその速さに反応するも捌くことはできずに、もろに喰らい吹き飛んで行った。

 この事実だけで彼と彼女の間には確実に大きな差があると評価できるのだ。


 彼がそんなことを考えていると、目の前に突如として真っ赤な拳が現れ彼の顔面をめがけてパンチが放たれる。

 その拳の速さは衝撃波をも発生させるほどの速さで打ち込まれていたが、ルシフィアには小さな子供が繰り出す可愛げのあるパンチのように見えた。

 いともたやすくその拳を最小限の体の動きで左に避けると、その動きを利用して自分の右拳を相手の顔面目掛けて全力で振りかぶる。

 その拳は相手の顔面に吸い込まれるように当たるも、骨と肉を捉えた感触はなく、代わりにゴンッという鈍い感触が腕を通じて脳に送られる。

 そこでルシフィアはすぐに相手との距離を取る。

 「今のを防ぐか……。戦いのセンスはそれなりにあるらしいな……」

 「おいおい、あんなノロいパンチが全力だったなんて言わないよな? ”傲慢”の悪魔さんよぉ……?」

 「そのセリフ、そっくりそのままお返ししよう。ガキの喧嘩のような何の考えもない攻撃を先に繰り出したのはそちらだろう……? ”黄拳”のカミュエル」

 そんな皮肉を言い合いながら互いの目は相手の小さな動きを捉え続け、少しでも攻撃の素振りがあった瞬間にまた拳と蹴りの打ち合いが繰り広げられる。

 彼らの下で戦う天使と悪魔の目には拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合う度に起こる衝撃波しか捉えることができず、彼らが打ち合っている姿をその目に映せた者は誰一人としていなかった。

 文字通り次元の違う戦いを繰り広げる中、遅れて追加の天使たちとフィグミエル、リアニもカルミアレに到着する。

 到着するなり彼らの打ち合いを見たフィグミエルは、戦場にいた天使に状況を確認する。

 「”傲慢”か……。厄介ね。ミミエルはどうしたの?」

 「み、ミミエル様は……あの悪魔に……「吹っ飛ばされて、今戻ってきたよ」――ッ! ミミエル様!」

 いつの間にかその天使の後ろにいたミミエルは、纏っている黒いドレスに土や血がついており、一部の装飾はボロボロに崩れ去っていた。

 口元や頭部からは出血し、身体のところどころには強く打ちつけられてできた痣があったものの、当の本人はそれらは全く気にしていないようで、ルシフィアに蹴られた後頭部をスリスリと撫でていた。

 「派手にやられたね。そのドレスお気に入りだったんじゃなかった?」

 「そうだよ! 全く……また新しく仕立ててもらわなきゃいけなくなった! ――ところで、シエルと龍の女の子は?」

 ミミエルがフィグミエルへそう問いかけると、リアニは俯いて表情が暗くなる。

 それを見てすぐに察したのか、ミミエルはさっとルシフィアとカミュエルの方へ振り返る。

 「わかったよ。まぁあの堅物がそう簡単に昇天するとは思えないし、大丈夫でしょ。張り切りすぎて疲れたからちょっと多めに寝てるだけ。どうせすぐ目を覚まして飛んでくるよ」

 「そうね。リアニちゃん、大丈夫。鬼ババアの傷は完璧に治ってるから、そのままぽっくりサヨナラーとはならないよ。地獄の底からでも這い上がって説教たれに来るような堅物だもん」

 フィグミエルのセリフに一同は思わず吹き出してしまい、ドッと笑いが起こる。

 そこで打ち合いを終え一旦ルシフィアと距離を取ったカミュエルが瞬間移動をしてきたかのように、一同の下に現れる。

 大したダメージは受けていないものの、ところどころかすり傷や痣などができていた。

 「全部任せて談笑とはいい御身分ですねぇお嬢様方ぁ……?」

 「”傲慢”一人ならあんただけで片付けられるでしょ? 問題はそれに続いて追加の”大罪”が出てきた場合よ」

 「フィグの言う通りだね。”憤怒”が出てきたらヴァミを呼びに行かなきゃだし……」

 とんとん拍子で進む話にリアニはついていけていなかった。

 「えぇっと……”大罪”とか”傲慢”とかよくわからないんですけど……? ”拒絶”みたいなものですか?」

 ミミエルとカミュエルは空で自分たちを見下すルシフィアから目を離さずにいるため、フィグミエルがその質問に答えていく。

 「”大罪”――正式には”大罪の悪魔”って言うんだけど、彼らは冥界におけるの熾天使のようなものと思ってくれればいいわ。”傲慢”や”憤怒”なんかはリアニちゃんの言った通り、”拒絶”と同じようなものだと思っていい。ただその力の差は比べ物にならないけどね」

 リアニは先ほどまでのカミュエルとルシフィアの打ち合い、そしてミミエルの負った傷を見て、”大罪”は自分が相手にならないほど別次元の強さを持った化け物なのだと想定していた。

 そうしてフィグミエルからの説明でその想定が正しかったことを確認すると、やがて彼女はその差に恐怖し怯えて体が震え始める。

 「あいつが……冥界の……一番上……」

 「怯えることないわ。あいつ一人だけなら勝機は全然ある。追加が出て来ると話はちょっと変わってくるんだけどね。まぁ負けるつもりは毛頭ないから安心して」

 ミミエルはそう語るとカミュエルと息を合わせてルシフィアへと一気に距離を詰める。


 突然の攻撃にもルシフィアは余裕の表情を浮かべ、それらを華麗に受け流すと笑いながら二人へ語り始める。

 「フフッ……フハハハハハ! 二対一か。いいだろう、相手になってやる。お前たち天界で呑気に暮らす弱者どもに引導を渡してやろうぞ!」

 そしてルシフィアは自分の力を溜め込むような体勢をとる。

 すると天使たちと戦っていた周りの悪魔たちは、彼に吸い込まれるように消えていくと、彼が纏っていた闇が体全体を覆い、彼の肉体が一回り大きく成長する。

 彼が隙を晒している間に二人が攻撃を仕掛けるも、その攻撃は彼の周りに溜まる闇の魔力に思いっきりはじかれてしまい、空中で大きくバランスを崩してしまう。

 次の瞬間、ルシフィアは溜め込んだ力を解放させるように叫びながら四肢を思いっきり伸ばすと、溜め込んだ大量の魔力が周囲に拡散して、濃い闇の霧を生み出す。

 また彼の体にも変化が見られ、短かった黒い髪は足まで伸びきっており、紫の角はさらに大きく成長している。

 また上半身はすっかり刺々しい魔力に覆われ、まるでその魔力自体に命が宿ったかのように、鼓動を打ちながらドクドクとうごめいていた。

 「さあ、始めようか!」

 そうして”月華”、”黄拳”と”傲慢”の戦いが幕を開けた――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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