表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/72

開戦

 カルミアレの廃墟にはおおよそ七万ほどの悪魔の群れが、崩れた建物や廃城を利用して新たなる要塞を築き上げているところだった。

 約五万ほどの悪魔が要塞の建設を行い残りの二万の悪魔が陸と空を巡回して警備を行っていた。

 要塞の最奥には上位の悪魔とみられる者が各悪魔へ指示を出していた。

 「一刻も早く要塞の建設を完了させろ! お前たちの働きは全てあのお方たちの目に入っていることを忘れるな!」

 そう指示を出しながら彼は廃城の一番高い所へと昇り、周囲を見回していた。

 するとそこで彼は周りが明らかに不自然だということに気が付く。

 冥界や人界に現れていた終わりの使徒(エンデ・アポストロ)の姿が全くと言っていいほど確認できなかったのだ。

 最初は厄介な化け物がいないなら好都合と思っていたが、巡回兵からのとある報告により、なぜそのような不自然な事態が起こっていたのか、その理由に気づき一気に余裕がなくなった。

 「報告いたします! こちらへ向かって天界の者たちが攻めてきました! 最前には熾天使の姿も確認されたとのことです!」

 熾天使という名を聞いた瞬間、辺りがどよめき始め作業の手が止まってしまう。

 その名は冥界の者たちが最も恐れる七柱の最上位天使。

 彼らに太刀打ちできるのは魔神シュモツ様より力を与えられている”大罪の悪魔”のみ。

 それ以下の存在である自分たちでは、熾天使に傷をつけるどころか、逃げることすらも叶わない。

 どうにかして熾天使だけ別のところへ注意を向けさせなければ、数分後には塵と化しているだろう。


 しかしそこで大陸の南から非常に強い忌まわしき神聖な力を感じ取る。

 空へと飛びあがってその力を感じたほうを見ると、とても大きな結界のようなものが張られ、その中には終わりの使徒(エンデ・アポストロ)の姿がいくつも確認できた。

 「そういうことか……。あいつらをあそこから解き放つことさえできれば……」

 そう考えている間に要塞の端の方から大きな爆発音とともに悪魔たちの悲鳴が響き渡る。

 見れば建設中の要塞の壁が吹き飛ばされて、そこから何十人かの天使たちが要塞内部へと入り込んできていた。

 急いで要塞に設置したバリスタや大砲、空中からの魔法で迎撃を始めようとするも、突如として要塞の中央に現れた黒いドレスを身にまとった熾天使がそのすべてを目にもとまらぬ速さで全て弾き飛ばしてしまった。

 そしてその熾天使は要塞の上空へと羽ばたくと悪魔たちへ向かって声を張り上げる。

 「貴様たち冥界の者どもに人界の地は決して奪わせはしない! 大人しく貴様たちのいるべき場所へと逃げ帰るがいい!」

 彼女の声を聴いた悪魔たちは”あの天使には絶対に勝てない”というのをその肌で感じ取った。

 しかし彼らも逃げ帰るわけにはいかなかった。

 冥界へ帰ったとしても待ち受けているのは、永劫の監獄の中で魔神の呪いによる苦痛に苛まれながらゆっくりと迫りくる死をただ待つだけという生き地獄。

 何百年も昔の事、”大罪の悪魔”の内の一柱があまりの恐怖に逃げ出してしまったがため、その悪魔は監獄に囚われ、今もなお彼が苦しみ死を乞う声が牢屋の中に響き渡っているという。

 そんな苦しみの運命を辿るぐらいなら、今ここで熾天使に一瞬で殺される方が何百倍もましなのである。


 ただここで戦おうとしない者もまた強制的に監獄送りとなるため、悪魔たちにもはや選択肢などなかった。

 約七万の悪魔たちが一斉に天使たちへ攻撃を仕掛ける。

 半ばやけくその特攻だったが数の暴力で天使たちを劣勢に追い込むことができた。

 ただ熾天使ただ一人を除いて――。

 「チッ……。守りながら捌き切るのは無理か……。――ッラァ! やっぱ私一人で来るべきだった」

 ミミエルは絶えず攻撃を仕掛けて来る悪魔達を腰に携えていた剣で切り刻んでいき、天使たちへ手を貸そうとしようとするも、四方八方から襲い掛かる悪魔たちがそれを許してくれない。

 仲間たちが追い込まれていく中、それを助けにいけないもどかしさにイラついていたところ、天使たちのもとへ空からまるで隕石のように熾天使が落ちてきて、周囲の悪魔を一掃した。

 「ようミミエル! お前がキレてるところを見るのは久しぶりだな!」

 「うっさい! 遅いのよカミュエル! 余裕ぶっこいてないで真面目に戦って!」

 「俺が真面目じゃなかったことなんか一度もないわ!」

 その熾天使の後からついてきた何百という天使たちは、傷ついた仲間たちを一瞬で回復させると形勢は一気に逆転し、悪魔たちはその数をみるみると減らされていった。


 上位の悪魔は冷静に状況を窺い、飛び出して結界の下へと向かうタイミングをじっと待っていた。

 熾天使が戦場に立ってしまった時点で自分たちに勝ち目はない。

 それが二人に増えた今、もう諦めて死を待つ他ない。

 ただ一人の悪魔を除いてまるで殺してもらいに行くように熾天使たちへ突撃していく。

 「ただでやられてたまるかよ……! せめて下っ端どもだけでも道連れにしてやる……!」

 そうして確実に注意が逸れる瞬間をただひたすらに待ち、ついにその瞬間が訪れる。


 ミミエルの周囲にはわらわらと悪魔が群がり、カミュエルもまた多くの悪魔に囲まれていた。

 そこで二人は一気にその数を減らすためにそれぞれ大技を繰り出そうとする。

 ミミエルは思いっきり回転して周囲の悪魔を振り払った後、その剣は鞘と共に光の粒となって消え、腰に新たに二本のそれぞれ長さが違う真っ黒な剣が生み出されており、その剣に両手を置いていつでも抜刀できるように構える。その二本の剣の鞘からは深紅のオーラが滲み出ている。

 カミュエルは周りの天使に自分から離れるように片手をあげて合図を出すと、大地を踏みしめ力を溜め込むように雄たけびを上げながら、魔力を解き放っていくと、両腕にまとっているオーラがより一層強くなり、金色のオーラへと変わる。赤い髪は逆立ち、その目は雷を纏ったかのように目尻からバチバチとはじける魔力が溢れ出ている。

 「鬱陶しい……! これで無に帰れッ! 朱殷の鎮魂歌(プルプ・ラヴァーレ)!」

 「まとめて消してやるよぉ! 山吹滅衝波(イクト・アウレウム)!」

 二人の熾天使が放った大技に悪魔たちは為す術無く、その体は塵となって消えていく。

 息を殺して潜んでいた悪魔ただ一人を除いて……。

 その悪魔は同胞たちが塵となって消えていくところを突っ切って、一直線に結界の下へと飛び出した。

 ミミエルとカミュエルは大技を放った後の一瞬の隙を突かれたのだ。

 彼らが飛び出してきた影に気づいて、何とか攻撃を当てようとするが、一瞬の反応の遅れが彼の逃亡を許してしまった。

 その後を追おうとした瞬間、廃城から異様に濃い冥界の魔力の霧が溢れ出す。

 その霧の中から姿を現したのは、追加の悪魔たちと全身から鉱石を生やした山のように大きい亀の魔獣だった。

 「カミュエル! あいつを追って、ついでに結界の中の連中を早くこっちに連れてきて! この軍勢、多分”大罪”の奴らの軍勢だわ!」

 「言われなくてもっ――! すぐ戻るからそれまで死ぬんじゃねぇぞ!」

 そうしてカミュエルは逃亡した悪魔を全力で追いかけに行った。


 一方ミミエルは自分とカミュエルの配下の天使たちに命令を出す。

 「あのデカブツは私が片付けるから、周りの雑魚は任せる! 救援はすぐに来る! それまで何としても持ちこたえろ!」

 天使たちは雄たけびを上げ、現れた悪魔たちがミミエルの邪魔をしないように切り刻み、なぎ倒していく。

 永遠に増え続ける悪魔は数の暴力で天使たちを叩き潰しにかかる。

 二つの軍勢には明確な頭数の差があったが、天使たちの奮戦によりその戦いは拮抗していた。

 ミミエルは魔獣の正面に立つと、両手に持っていた二本の剣はまた光の粒となって消え、代わりに彼女の目の前には、身長の三倍ほどの長さの非常に大きな剣が現れると、彼女は両手でその剣の柄を握りしめる。

 「この()を使うのなんていつ振りだろう。……リアニは壊れた大地を直すところまで加護の力を引き出せるかなぁ……。――まぁいっか。直せなかったらそれはその時考えよ」

 そうして剣を構えると目の前の魔獣が咆哮を上げて両前足でミミエルを叩き潰そうとする。

 ただ大柄な分その動きは鈍重であり、ミミエルの目にはまるで止まっているかのように映っていた。

 そこで余裕たっぷりにその攻撃を空へ跳びあがって躱すと、魔獣が地面を叩きつけた衝撃波が大陸中に走る。

 「地面ごと逝っちゃったらごめん、シエル! おりゃぁぁぁあああ!!!」

 ミミエルはその剣を力に任せて思いっきり振り下ろした――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。


よろしくお願いいたしやす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ