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危機

 そうして遊んでいた四人の下へようやくエンデを引き連れた第一陣の姿が見え始める。

 白い馬のようなものに乗って地上を駆け、注意が逸れたエンデを逃がさないように空中から魔法を打ち込んで注意を引きつけ、はぐれないようにしながら大きく三つに分かれた塊が北東、北、北西から一斉に押し寄せて来る。

 それぞれの先頭にはひと際目立つ天使が部隊をリードしており、さらに北から来た部隊には熾天使と思われる翼を六つ背中から生やした天使が全ての隊を見守るようにして飛びながらやってくる。

 その様子を確認したリアニたち四人には先ほどまでの朗らかなお遊びモードから一変、緊張の糸が張り詰めたような雰囲気へと変わる。

 「では二人とも、先ほど伝えた通りに動いてください。私たちは先に地上付近へ降り立ち離脱の支援を始めます。くれぐれも無茶をしないように。この後もまだ戦いは控えています。危険だと思ったら迷わず私かフィグミエルを呼んでください」

 そう言い残したシエルは真剣な面持ちのフィグミエルと共に地上へと降下していく。


 そうして目下に数多のエンデが誘導された途端、周囲にドーム状の光の壁が形成される。

 すると集ったエンデの行動がかなり鈍くなり、小さな個体はその場にぐったりと倒れこんでしまう。

 ただすべてのエンデに効いているようではなく、一部の個体は未だにその凶暴性を存分に振りまいて離脱する天使たちの妨害をしている。

 先頭付近で誘導していた数十人の天使たちは特に妨害を受けることなく離脱することができたのだが、その後ろにいた何百人という天使たちはそうもいかず、繰り出される攻撃を必死に防御したり、躱したりしていてとても離脱できるような状態ではなかった。


 そこでリアニとグラニは言われた通り、離脱の妨害をしているエンデ達に向かって空から魔法を繰り出し、奴らをひるませる。

 その隙をうまく利用した天使たちは続々と離脱していく。

 またシエルとフィグミエルも地上付近で天使を襲っているエンデの足を切り裂いたり、槍で頭を吹き飛ばしたりして何とか時間を稼ごうと、結界内の平地を縦横無尽に翔け回っている。

 しかしそれでもエンデの数は余裕で万を超えるほど集まっているため、段々と余裕がなくなっていき、さらには結界の効果を克服し始めた者たちまで現れ始めた。

 形態変化で自然に発火するエンデや、逆に周囲を凍てつかせるエンデ、巨大な体格を生かしてエンデごと天使を薙ぎ払いにいくエンデなど、多種多様なエンデが暴れ回り、平和でさわやかな平地だった地上は、瞬く間に荒れ果てていった。


 少しずつ状況が悪化していき、ついには悲鳴が上がり始める。

 見れば何人かの天使が大型のエンデ達に囲まれ掴まっていたのだ。

 「……っ! 今助けるから! 闇槍よ突き破れ(デスクブリミエント)!」

 リアニは特大の闇でできた槍をその一団に向けて放つ。

 「拡散しろ(スパルジェンス)!」

 さらにリアニはその特大の闇槍を何百、何千という数に分解して、エンデのみを正確に撃ち抜いていく。

 撃ち抜かれたエンデは体に大穴をいくつも開けられながら倒れ込むと、掴まっていた天使たちはそこから全速力で離脱していく。

 しかしそのまますんなりとは逃げさせてはくれず、別のエンデ達が彼らに襲い掛かる。

 それに気づいたグラニはそのエンデ達の足元に向けて攻撃を仕掛ける。

 「させないっ……! 龍炎玉よ爆ぜろ(ドラコルプトラ)!」

 グラニが両手から解き放った、人並みの大きさの火球はエンデの足元へと飛んでいき、巨大な爆発を起こす。

 その爆発はエンデ達の足を吹き飛ばし、バランスを崩した奴らは頭を地面へと叩きつけるようにして倒れた。

 追われていた天使たちはその爆発に乗じて何とか離脱することができたが、安心する間もなく各地でさらなる悲鳴が上がる。

 「絶対に助ける……!」

 グラニは悲鳴の下へと向かい、エンデへと攻撃を仕掛け続ける――。


 シエルとフィグミエルは光の速さで戦場を駆け回り、逃げ損なった天使たちを襲うエンデを攻撃し、何とか時間を稼ぎながら、一人の死傷者も出さないように立ちまわっていた。

 ただ離脱が完了したものが増えればその分結界内に残った天使たちの数が少なくなり、取り囲むエンデの数が増えていくため、必然的に離脱が困難になっていく。


 ――その時だった。


 バリーンというガラスが割れるような音と共に周囲を囲むように貼られていた結界が崩れ去る。

 そして中にいたエンデ達は抑えられていた力を取り戻し、嬉しそうに咆哮を上げると、先ほどまでとは比べ物にならないほどの速さと威力で天使たちに襲い掛かる。

 ギリギリで耐えていた天使たちは瞬く間に犠牲となり、断末魔がこだまする。


 「どうして……!? まだ作戦の終了は伝えていないはずよ!?」

 動揺したシエルは動きが一瞬鈍くなる。

 そこへ空から鳥のようなエンデが目にもとまらぬ速さで突っ込んできて、周囲の地形やエンデもろとも吹き飛ばす。

 「――っ! しまっ……!!」

 その直撃を直に喰らったシエルは左半身を大きく抉られながら、リアニとグラニがいる方まで吹き飛ばされ、真っ赤な血をこぼしながら地面を転がる。

 「――っ! シエル様ぁ――!」

 リアニは真っ先にその場へ降り立とうとするも、数多のエンデが目の前にまで迫っていた。

 「邪魔するなぁ!! 月夜の復讐劇(ルナ・ヴィンディクタ)!」

 真っ黒に染まったリアニの体から放たれた数多の闇の刃が襲い掛かるエンデの体を切り刻む。

 欠片も残らないほどバラバラに切り刻まれ、その場には血の雨が降り注ぐ。

 そうして降り立ったリアニはシエルの体を抱き起す。

 純白のドレスは真っ赤に染まり、美しかった顔は土や血にまみれ苦しみに歪んでいる。

 また衝撃で吹き飛ばされた際に石の破片が突き刺さったのか、右目があった場所には拳大の石が突き刺さっている。

 彼女の首から下の左上半身は抉られたようになくなっており、そこからはとめどなく血が溢れ続ける。

 熾天使を象徴する大きな翼は片方の三つしか残っておらず、その美しかった翼も赤黒い血が染みてしまっている。

 下半身は左足の脛辺りが大きく折れており、本来曲がるべきでない方向へと曲がってしまっている。

 「……がふっ……り……あに……」

 「シエル様っ……! シエル様ぁ……!!」

 涙を流しながらリアニは持てる魔力を使ってシエルの傷を全力で塞ぐ。

 感じたことのない膨大な魔力に反応してエンデ達がリアニの下へと襲い掛かろうとするも、それは空からの爆炎と光の速さで体を貫く攻撃に阻まれた。

 「リアニ! シエルを全力で治してあげて! あなたのその魔力ならその傷を塞げるはず! グラニ! リアニの魔力に反応して化け物の注意がこっちに向いてる! 今は二人を全力で守って!」

 「――っ! わかりました!」


 そこへさらにもう一人熾天使が空から舞い降りて来る。

 「すまねぇ。俺たちが悪魔一匹見逃したせいでこうなっちまった」

 その少し背の低い男性の熾天使は、二人をかばうようにフィグミエルの横に立つと、拳を固く握りファイティングポーズを構える。

 短髪で赤髪の少年のようなその熾天使は、上半身はほぼ裸のような格好で隆々とした筋骨が露わになっており、下半身には膝のあたりまで布を纏っていて、太くて逞しい足には何も履いていない。

 そして彼の腕と足からは真っ赤なオーラが溢れ出ており、彼が殴打をするたびにその光が線のように残って見える。

 「カミュエル! 助かるわ、状況は?」

 「結界が壊れたのは悪魔のせいだが、その悪魔はすでに片付けた。シエ姐が吹き飛ばされて嬢ちゃんの魔力に化け物が釣られてくれたおかげで残りの天使はみんな離脱できた。ただあれをそのまま悪魔連中と戦わせるのは無理だ――っ! オラァ!」

 襲い掛かってくるエンデに思いっきり回し蹴りを叩き込みながら、カミュエルは何が起こってどういう状況なのかを端的にフィグミエルに伝える。

 さらに第二陣の天使たちも続々と彼女たちの下へと集まってきて、各々武器を構える。

 「シエル様を全力でお守りしろ!」

 「熾天使様が犠牲になるなどあってはならない!」

 「死んでも守り抜くぞ!」

 彼らは今までで一番やる気に満ち溢れ、その魔力もかなり高ぶっていた。


 雲行きはさらに悪くなっていき、ついには大雨が降り始める。

 強風や雷も相まって、まるで嵐の中にいるような状況だが、彼らの意思は落ちることなくさらに高ぶっていき、その気迫は嵐をも上回るものを魅せた。

 襲い掛かる数多のエンデを彼らは必死に退け続け、熾天使の傷を癒す邪魔をさせない。

 一方リアニは、メフィスとアスモ戦時の十倍以上の魔力を引き出し、そのすべてを正確に操って、シエルの体に入り込んでしまった石や土などの不純物を取り除き、潰れた右目、失った左半身、折れた左足を元の状態へと戻していく。

 その間なんと一分と三十二秒。

 みるみる回復していくシエルの体はこの短い時間で、すっかり元通りに戻っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。


よろしくお願いいたしやす。

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