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希望

 荒れ狂う稲妻、降りやまぬ隕石、そして二人の悪魔の凶悪な魔法の数々が、四人の身を襲う。

 リアニに稼ぐように言われたたったの二分。

 それはカリスとグラニにとって”たったの”とは全く呼べないものであり、時間が何十倍にも引き延ばされているんじゃないかと思えるほど、その二分は長かった。

 魔力を少しでも温存するため、赤黒い雷を最小の大きさの魔力壁で防ぎ、巨大な隕石は避けるように飛んで回避する。

 そこへ放たれるメフィスとアスモの魔法をカリスとグラニも魔法を打って打ち消したり、魔力壁で受けきったりする。

 常に神経を研ぎ澄ませ、全ての攻撃を正確に捌ききらないとすべてが終わってしまう。

 そんな極限状態の中、待ちわびた声が響く――。


 「お姉ちゃん、グラニさん! お待たせ!」

 「これからこの世界の終わらせるものをこの魔法で消し去るので、離れてください!」


 なんと希望溢れる言葉だろうか――。

 限界ギリギリの中、二人を守り切ったというその価値は、勝利という計り知れない恩恵をもって二人に報いてくれるというのだ。

 ――しかし二時間もかかって発動した万物の終焉(オムニアエバニッシュ)でさえ二人に傷一つ与えることができなかったのにも関わらず、たった二分で練り上げた魔法力でそんなことが可能なのか――?

 カリスとグラニの頭に一瞬そうよぎった――。

 しかし考えても無駄だとすぐに頭を振ると、二人はミシェルに言われた通りにその場をすぐに離れる。


 闇に覆われた空の中、赤黒い稲妻が魔法を構える二人を赤く照らし出す。

 「ハハハ! 面白い! 消せるものなら消してみるがいい! 全てこの僕が”拒絶”してやる!」

 そういってアスモはメフィスの前に出て、二人の魔法に備えて構える。

 アスモにはこの魔法を受けきれるだけの力と自信があった。

 彼の見立てでは、二人が今構えている魔法の威力は例の万物の終焉(オムニアエバニッシュ)という魔法の二十分の一にも満たない。

 それでも終わりの使徒(エンデ・アポストロ)程度であれば容易に消し去ることが可能であろう。

 ――しかし、自分には全く通用しない。

 なぜなら自分は、その存在を超越するほどの力を持っているからだ――。

 そう確信していたアスモは二人の”本当の狙い”に気づくことができなかった。


 リアニとミシェルは息がぴったりと合わせ、その魔法を目の前の悪魔に放つ。

 「「世界に光を(スぺス・ノヴァ)!!」」

 二人が放った巨木のように太い真っ白な光の光線は、後ろにいたメフィスもろともアスモを包み込む。

 そしてその光はだんだんと強くなっていき、やがて周囲を巻き込むほどの物となる。

 術者である二人はもちろん、離れていたカリスとグラニもそのまばゆい光に包み込まれていく。

 地上で死闘を繰り広げていた五人の勇士たちもまた、圧倒的な力を見せつけるエンデ達と共にその光に包み込まれていく。

 そうしてその光はやがて世界そのものを真っ白な光で包み込んでしまった――。


   *


 まばゆい光に包まれたアスモはゆっくりと目を開ける。

 痛みはどこにも感じない、それどころか自分の体は魔法に包まれる前と何も変わっていなかった。

 「フフッ……アッハッハッハ! やはりただのハッタリだったか! そもそもの話、君たちごときの魔法がこの僕に傷をつけることなんて、万に一つだってあり得ないことなのだからね!」

 そう言いアスモは高笑いをする。

 しかしその様子を傍で見ていたメフィスは周囲の異変に気付き、ぐるりと辺りを見回す。

 そして空を見上げた時、その異変の正体に気づき、顔を青ざめる。

 「……ア、アスモ……。ソラ……ソラが……」

 「どうしたんだい? 空は別に……なっ!」

 そこに広がっていたのは闇に覆われた真っ暗な空ではなく、まっさらに晴れ渡った雲一つない青空だった。

 「ど、どういうことだ!? さっきの魔法は確かに僕たちに向けて放たれたはず……!」

 「――さっきの魔法は攻撃の魔法なんかじゃない」

 狼狽えるアスモの耳に少女の声が届く。

 そちらを見ると、リアニと呼ばれていた少女の姿が二つあった。

 「なっ……! いや……なるほど。魔力で構築した分身体か……。しかしいつの間に……?」

 「最初からだよ。万物の終焉(オムニアエバニッシュ)の準備をしている時、私はメフィスとは違う別の者の魔力を感じ取った。どこか余裕のあって、私たちを見下しているっていうのがその魔力から伝わってきた。だから私は分身体を生成し、その分身体にも別で万物の終焉(オムニアエバニッシュ)の準備をさせた」

 カリスはリアニのその発言に驚いた様子を見せる。

 万物の終焉(オムニアエバニッシュ)の使用者である彼女は、その魔法が一体どれだけの魔法力を使用するかを知っていた。

 ゴスミア中の魔法力を集めても起動させるに至らなかったため、足らない分を各々の魔力で補ってようやく発動するに至ったのだ。

 それは到底一個人が保有する魔力の比ではない。

 それを妹は自らの魔力のみで発動させたと口にしたのだ。

 カリスは改めて、妹の保有する魔力の量に驚かされたのだ。

 そしてなぜグラニの魔力まで借りることになったのか。その理由にも合点がいった。

 「なるほど。本来ならリアニの保有する魔力で十分事足りるはずなのに、グラニの魔力まで借りることになったのはそのせいなのね」


 そうしてその場の全ての者が現在の状況を飲み込む。

 「フフッ……しかし! 僕とメフィスがいる限り、この世界はいつでも終わらせることができる! さあメフィス! もう一度最初からやり直そう! 手の内を全部喋ってくれたんだ! 今度は失敗しないよ!」

 言われるがままメフィスはもう一度、禁術を発動させようとする。

 それを阻止するためにリアニ、ミシェル、カリス、グラニの四人は各々が使用する最高の魔法を放とうとする――。


 ――しかし次の瞬間、彼女の姿は光の柱に飲み込まれて消えてしまった。

 声すら残さずに消えてしまったメフィスに一同は動揺を隠しきれなかった。

 「メ、メフィス……? メフィス!? どこだ! どこへ行ってしまったんだ!?」

 激しく動揺して取り乱す赤髪の青年の耳に突如、鐘のような音と共に透き通った綺麗な声が響く。


 「――”拒絶”のアスモ。ここは悪魔であるお前のいるべき場所ではない。自分の世界に帰るがいい」

 「……! へえ……。熾天使様が自らお姿をお見せになるとは、これは恐れ入ったよ」

 アスモとリアニたち四人の間に空から降りてきたのは、頭から小さな羽が角のように生え、その髪は金色で長く、純白のドレスに身を包み、背中には大きな翼が六つも生え、その手には白金の細長い剣を携えた美しい女性だった。

 その女性を見るなりアスモはその手の爪を足先に届くほど長く伸ばし、背中からはまるで禍々しい竜のような翼を生やす。

 青年のようだった顔立ちは、五人の勇士たちが対峙した進化したメフィスの分身体が見せたような、悪魔の顔立ちそのものとなり、その爪で現れた女性に素早く襲い掛かる。

 しかしその爪はその女性が張った強固な魔力壁に阻まれ、火花を散らしながらはじかれる。

 大きく体勢を崩したアスモはの隙を逃すことなく、その女性は携えた剣でその体を左肩から右脇腹にかけて切り裂く。

 その体は鮮血を吹き出し、彼は苦悶の表情を浮かべながら急いで後ろに下がると、切り裂かれた体を指先で撫でる。

 するとその傷はまるで何事もなかったかのように、綺麗さっぱり消え、切り裂かれた服と染み付いた鮮血だけが残る。

 「チッ……! クソが……」

 彼はそう言い残すと、その体は黒い霧のようになって消えてしまった。


 突然現れたその天使は「ふぅ……」と一息吐き、剣に付いた鮮血を振り払うと、左腰にある鞘にその剣を収め、唖然とする四人へ振り返る。

 グラニとはまた違った美しさのあるその顔はにっこりとほほ笑むと、四人の元へ近づき頭を下げる。

 「ご挨拶が遅れました。私は天界に住まう熾天使、シエルと申します」

 目の前に現れた物語でしか聞いたことのない天使という存在に、四人はポカンとしてしまう。

 慌てて名乗ろうとするとシエルは「挨拶は不要ですよ。あなたたちのことはもう知っていますから」とそれぞれの名前を言い当てていった。


 「先ほどまでのことは全て見ておりました。――リアニ、さすがは”希望”の加護を与えられた子です。全てではありませんがその力をよく行使できていますね」

 グラニは彼女の発した言葉に反応を見せる。

 「”希望”……? 今”希望”の加護とおっしゃいましたか!?」

 「えぇ。リアニは我らが天界の主がかつてこの地上に送った天使、アスピエルの力を受け継いで生まれた子。あなたたちが語り継ぐ彼女の名は……”希望の魔女”でしたでしょうか?」

 四人は突然語られた信じがたい話に驚きで声を上げるのだった――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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