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決行

 月が沈みかけ、水平線からは太陽の光がほんの少し漏れ出し始める。

 未だ夜の闇の暗さと冷たさが残る中、カリス、リアニ、ミシェル、グラニの四人はミアルバーチェの町を出発し、ゴスミアの砂原を目指す。

 有事に備え、少しでも魔力を温存しておきたいため、カリスは二体の馬型の召喚獣を召喚し、カリスとミシェル、リアニとグラニのペアでそれぞれ獣に跨って移動する。


 カリスが召喚した馬型の召喚獣は、以前ストラが召喚したものとは全く違う。

 ストラが召喚したものは純粋な馬であったのに対して、カリスが召喚したものはバイコーンのような角の生えた馬で、その毛並みは紫がかった黒い色をしている。

 その足は空を翔けているかのように速く、何人の妨害も寄せ付けることなく、あっという間に目的地にたどり着いてしまった。


 そうして四人は召喚獣から降りると、グラニは周囲の偵察をするために背中から巨大なドラゴンの翼を生やして、空へと飛び立ち、残った三人は万物の終焉(オムニアエバニッシュ)の発動の準備を始める。

 三人で一点を取り囲むように立ち、その一点へ空間魔法力を集めていくのだが――。


 「……?」

 「どうしたのリアニ?」

 カリスは不意に辺りを見回すリアニへ声をかける。

 不思議そうに首を傾げた後、リアニは「何でもないよ」と首を横に振る。

 「そう? ならいいけど……。もしかして……まだ寝ぼけてるの?」

 「違うよぉ! もうちゃんと起きてますぅ!」

 ニヤニヤしながら肘でつついてくる姉に頬を膨らませる。

 その様子がとても微笑ましくてミシェルはつい、プッと噴き出してしまう。

 「もうエルちゃんまで!」

 「ごめんごめん! 違うの、あんまりにもリアニちゃんが可愛くて」

 リアニは「むぅ~……」と顔を赤らめながらふてくされる。

 その表情は不満げではありながらも、どこか嬉しく楽しそうでもあった。


   *


 段々と夜の冷たさが太陽の温かさに打ち消され、陽光に照らされて明るくなってきたころ、空から偵察を行っていたグラニが三人の元へと戻ってくる。

 ふわりと着地すると、背中の大きなドラゴンの翼を閉じ、それを背中の中にしまい込むように消滅させる。

 「一足先にイーバンダの巡回隊が現着したわ。今は彼らが周囲の偵察を行ってくれてる」

 「ありがとう、グラニ。こっちも魔法発動に必要な魔法力を大体半分ぐらいまで集められた」

 カリスは目の前に集中して視線を動かさずにグラニへ現況を報告する。

 集まった魔法力は石ころのような小さなサイズながら、真っ白に輝きながら、その力のせいかその周囲はまるで空間がねじ曲がっているようにぐらぐらとして見える。

 グラニはそこから発せられる、今までに感じたことのない力の波動に目が釘付けになる。


 それからしばらくして三人は不意に何かに気づいたかのように顔を見合わせる。

 その様子を不思議に思ったグラニは「何か起こったの?」と不安げな顔で問いかける。

 三人は再び目の前の魔法力の塊に目線を向け、集中しながらカリスがその問いかけに答え始める。

 「周囲の空間魔法力を全て集めきったけど……魔法の発動ができるほどには溜まり切っていないの。そこで今、私とリアニの魔力で不足分の魔法力を補い始めたの」

 「なるほど。どうりであたりの空気感がミアルバーチェの町みたいに軽くなったわけだ」

 そう二人で話しているところへイーバンダが隊を率いてやってくる。

 「よう。順調そうだな」

 「ええ、もうあと少しで魔法の起動準備が完了するわ。そうでしょ、三人とも?」

 グラニのその問いかけに三人はそろって頷く。

 「そうか。こっちも全ての隊が配置について拘束魔法の起動準備を整え終わったと報告を受けた。いくつかの隊が化け物(エンデ)と遭遇したが特別大きな問題にはなってない――」


 ――イーバンダがそう話した瞬間、空に浮かぶ闇の塊が空いっぱいに闇を広げ赤黒い雷を放ち始める。

 その雷は不規則に辺りの地面を焼き焦がし始める。

 そしてその闇の塊の前で祈るようにしていた魔女が動き始める――。


 「サア! オワリのハジマリだ!」

 その魔女は溜めていた魔力を一気に解き放ち、周囲に毒々しい色をした魔力の霧を発生させる。

 それと同時に後ろの闇の塊から放たれる赤黒い雷の勢いが一気に増し、まるで雨のように地面へと降り注ぐ。

 「クッ……! 想定以上の攻撃ね! 三人は私が何としても守るから、そのまま自分たちの魔法に集中して!」

 グラニは咄嗟に展開した魔力壁で荒れ狂う雷が三人に当たらないように守る。

 一方でイーバンダの隊はメフィスの魔法の強大な威力に部隊が混乱して崩れかける。

 「慌てるな! 魔力壁が張れる者はそれをできるだけ大きく展開しろ! その傘に隠れながら各部隊の様子の確認へ向かう! 予定通りに拘束魔法が展開されてないのを見る限り、どこかの部隊が崩されている可能性がある! 何としても杭を守って魔法を展開させろ!」

 イーバンダは雷に打たれながらも、その影響をものともせずに大声で指示を出す。

 崩れかけた隊はその指示の下に落ち着きを取り戻し、再び纏まって行動を開始する。

 「四人とも、頼んだぞ!」

 そうしてイーバンダたちはすぐに各部隊の元へと駆け出す。


 

 「アッハッハッハ! さらなるゼツボウにウチヒシガレルがイイ! 彗星よ打ち砕け(コメッタフラクタス)!」

 闇に覆われた空から数多の巨大な隕石がゴスミアの大地へと降り注ぐ。

 その隕石は巡回遊撃隊や拘束魔法起動隊、その防衛部隊やリアニたち四人の元、さらには大地を徘徊するエンデも構わずに押し潰しにかかる。

 「クッソ……! 何でもありか、あの化け物は! 龍炎よ焼き尽くせ(ドラコフラム)!」

 グラニは左手で魔力壁を展開し、右手で落ちて来る隕石を龍の炎で溶かし尽くす。

 そしてその炎をそのまま空中で楽しそうに笑うメフィスへとめがけてもう一度放つ。

 しかしその炎は彼女に届くことはなく、彼女の目の前で消滅する。

 「魔力よ消えろ(マギアディスパレータ)

 「なっ……!」

 「グラニさん! あなたの魔力、貸してください!」

 「え!? う、うん。わかった」

 リアニはグラニへそう叫ぶと彼女は言われるがままにリアニへ魔力を分け与える。

 グラニがリアニへと魔力を分け与えた瞬間、目の前の魔法力の塊は白い輝きだったものが、虹色の輝きへと変わり三人はニヤリと笑みを浮かべる。

 「ありがとう、グラニさん! 万物の終焉(オムニアエバニッシュ)、いつでも打てます!」

 そしてそれを待っていたと言わんばかりに、ちょうどよく起動していなかった拘束魔法が起動、この地の霊の怨念が空中で余裕の表情を浮かべるメフィスの動きを封じる。

 いくつものおどろおどろしい霊の腕ががっちりとメフィスを拘束する。

 いきなりの行動阻害魔法にメフィスからは余裕の表情が一転して、怒りと焦りの表情へと変わる。

 「クッソ……! ウゴケン! ハナセ!」

 三人はそのタイミングを逃すことは無かった。


 「「 万物の終焉(オムニアエバニッシュ)!!!」」


 地上から細い虹色の光線が空で身悶えするメフィスへ向けて放たれる。

 その光線がメフィスに触れた瞬間、彼女を中心として虹色の光の爆発が起こり、周囲に彼女の断末魔が響き渡る――。


 「ギャアアアアアアアァァァァァ…………!!」


 その耳障りな声は光と共に消えていき、その声の主の体も消える――はずだった。


 「……フフフ……フフフフフ……アッハッハッハ! キテクレタノネ!」

 「あぁ。メフィス、愛しいキミが消されるところなんて黙ってみていられないからね……」

 そこには無傷のメフィスと深紅の長髪の男が抱き合うようにしていた。

 四人は驚き絶望したような表情で彼らを見つめる。

 「初めまして。僕はアスモ。メフィスと共にこの世界に新たな始まりをもたらす者さ――」

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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