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伝言

 「リアニちゃん。あなたは”希望の魔女”なんでしょ?」


 いきなりグラニにそう言われ、リアニは思わず固まってしまった。

 自分には先ほどの物語に出てきた天使のように、壊された大地を修復したり、死んだ人を蘇らせるなんて芸当はできない。

 もしそんなことができるのであれば、死んでしまった両親を真っ先に蘇らせているだろう。

 「えっと……まず違う……と、思います……。確かに、お姉ちゃんやメフィスよりも魔力をたくさん持ってはいますけど……それだけですし……死んだ人を蘇らすとか、そういうことはできません……」

 訳が分からない話だったため、とりあえず否定しておく。

 ただもし自分が本当にその”希望の魔女”だったとしたら、グラニは一体自分に何をさせたかったのだろうか……。

 「そっか。――今、もし私が”希望の魔女”だったら何をさせたかったんだろう? って思ったでしょ?」 

 リアニは自分の疑問を言い当てられて驚愕した。

 目を大きくして驚くリアニに微笑みながらグラニはその答えを語り始めた。

 「私ね、昔リアニちゃんにそっくりな妹がいたんだ。その子の名前はエレナ。明るくて元気な子だったんだけど、小さいときはいつも私の後ろにくっついて回っててね、それはもうとっても可愛かったんだ。――そんなある日だった。私たちドラコニスが住んでいたオブスカーラに一人の魔女が現れたの。その魔女はオブスカーラで一番大きな国、カルミアレという国を訪れたの。その国には冥界の秘宝と言われる終わりの種(エンデ・シード)っていう物があったの。その魔女はそれを奪うために抵抗した国を滅ぼしてその種を自分の身に取り込んでしまった。……エレナはちょうどその時カルミアレに買い物をしに行っていて、あいつの巨大な魔法に巻き込まれてしまった」

 リアニにはその魔女の正体がメフィスであることはすぐに察しがついていた。

 彼女はやはり多くの人々を殺し、国を一つ滅ぼしていた。

 グラニは彼女の目的まで詳細に語ってくれた。


 続きを話そうとするグラニの目には涙が溜まっていた。

 しかし彼女はそれをこぼさないように必死に耐えながら震える声で続きを語る。

 「私は今でも後悔しているんだ……仕事なんて投げ出して一緒について行ってやればよかったって……。何度も何度も夢に見た。燃え上がる街の中、必死になって私を呼びながら灰になっていく妹の姿を……。”怖いよお姉ちゃん、助けて”そう何度もあの子は叫んだんだと思う……。私が仕事から帰った時にはもうカルミアレは更地になって、あの化け物(エンデ)たちが蔓延っていた……」

 グラニはその拳を固く握りすぎるがあまり、爪が食い込んで出血し始めていた。

 リアニはその話を聞いて何も言葉が浮かばなかった。


 身内の死――

 その辛さはリアニも直に経験したため、痛いほどよくわかる。

 彼女はずっと後悔している。

 愛する妹の最後に寄り添えなかったことに――。


 「それでも諦められなかった私は、みんなの制止を振り切って化け物が徘徊するカルミアレに乗り込んで、妹が行くって言ってた店がある場所まで行ったの。けどそこには焼け落ちた廃墟があるだけになっていた。そして店の前で私はこれを拾ったの」

 そうしてグラニは髪に着けていたきれいな髪飾りを外して震える手でリアニへ見せる。

 目立たない場所にほんの少し焦げた跡がついているが、とてもきれいなコバルトブルーの髪飾りだった。

  

 リアニがその髪飾りに触れた瞬間、目の前が真っ白になった――。


   *


 目を開けるとそこはまるで夢の中のような不思議な空間がただ広がっていた。

 周りには何もなく、足元には地面すらない。

 辺りを見回していると、目の前に光が集まってくる。

 その光はやがて小さなドラコニスの影となり、その影は自分とほとんど同じ顔をしていた。

 「き、きみは……」

 「初めまして、リアニさん。私はエレナ。お姉ちゃん……じゃなくてグラニの妹です」

 リアニは唖然とした表情でエレナと名乗った少女を見つめる。

 「私たち、本当にそっくりですね。お姉ちゃんがずっとリアニさんのことを見るのも納得ですね」

 「えと……うん……そうだね。ところでここは……?」

 目の前でほほ笑む少女は腕を後ろに組んで楽しそうにスキップをする。

 リアニはそれに置いて行かれないように小走りで後を追う。

 「ここがどこだか、私にもわかりません。不思議な力に引き寄せられて気づいたらここにいました」

 「そっか……。うーん……せっかくだしちょっとお話しない?」

 「いいですよ! 何を話しましょうか……あっ! お姉ちゃんの好きなものについて話しましょう!」

 とんとん拍子で進む話のテンポにリアニは戸惑いながら、彼女の話を聞くことにした。

 

 エレナはその場に腰を下ろし、リアニも横に腰を下ろすと、エレナは笑顔で話し始めた。

 「お姉ちゃんは私のことが大好きなんです。私もですけど……。私たちには親と呼べる人がいませんでした。だからお姉ちゃんにとって私は唯一の家族だったんです。だからお姉ちゃんはいつも私に優しくしてくれて、仕事で忙しかったり疲れたりしてても、私の前ではずっとニコニコしてくれてたんです。それで私お姉ちゃんにありがとうって伝えたくて、いつもカルミアレに遊びに行ったときに行くアクセサリー屋さんに行ったんです」

 そこまで話すとエレナの表情はどこか少し暗くなる。

 声も心なしか震え始め、先ほどまでの元気な様子から徐々に変化していく。

 「そこで自分で集めたお小遣いで髪飾りを買ったんです。すごくきれいな色で、お姉ちゃんに絶対に似合うと思って……買ったときは嬉しくて、早くお姉ちゃんにあげて喜んでもらいたいなって思ってました……。でも……お店から出た瞬間……」

 ――魔法に巻き込まれてしまった。

 そう言葉を紡ごうとしたが、こらえていた涙がポロポロとこぼれ始める。

 それを皮切りにエレナは声を上げて泣き始めてしまった。

 リアニは彼女の震える背中を、かつて父親がしてくれたように丁寧に撫でてやる――。


 しばらくしてようやく落ち着いてきたエレナは、未だにこぼれ続ける涙を拭って顔を上げる。

 「ありがとう、リアニさん。ごめんなさい。せっかく知り合えたのに、こんな暗い話をしてしまって……」

 リアニはそう謝るエレナに対して首を横に振る。

 「いや、謝らないで、エレナさん――」


 ――不意に視界がだんだんと白くなり始める。

 そして目の前に座るエレナの体もだんだん光となって消え始める。

 リアニとエレナはお互いにお別れの時間が来てしまったのだと思った。


 「――リアニさん。お姉ちゃんに伝言を頼めますか? 私はいつもお姉ちゃんの傍にいるよって――」

 「うん。必ず伝える――!」

 最後に見えたエレナの顔は晴れやかな笑顔だった――。


 ――ありがとう。リアニさん。

 目の前が真っ白になる中、最後にエレナの声が耳に届いた――


   *


 ハッと気が付くと自分は髪飾りに触れたまま、その場に立ち尽くしていた。

 先ほどのあれはほんの一瞬の出来事だったのだろうか――

 そう思いリアニは辺りを見回すも、周りは何も変わっていなかった。

 「……リアニちゃん……どうかした……?」

 グラニは髪飾りに触れた途端に様子が変化したリアニに不思議そうに声をかける。

 リアニは先ほど自分が体験したことを全てグラニに話した。


 「……エレナ」

 グラニは必死に抑えていた涙をボロボロとこぼしながら、両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込むと、声を上げないようにして泣き出してしまった。

 リアニは彼女の傍に近寄ってエレナにしたようにその背中を撫でてやる。

 そうしながらエレナに頼まれた”伝言”をグラニへ伝える。

 「これはエレナさんからの伝言で、私はいつもお姉ちゃんの傍にいるよ――って言ってましたよ」

 その”伝言”はグラニをさらに涙の海に溺れさせた――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。


よろしくお願いいたしやす。

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