決起
「万物の終焉は私たちが三人で新しく作り上げた魔法です。この魔法は対象を消し去る魔法で、その対象に例外はありません」
この話を聞いていた一同はどよめき始める。
誰もが考えつくような魔法だが、その実現は不可能とされていたからだ。
「そしてこの魔法を先の戦いで使えなかった理由ですが、この魔法は私たち三人でしばらく空間魔法力を溜める必要があるからです」
「なるほど。メフィスが使用した魔法のように起動に時間がかかるということですね」
「カルマさんのおっしゃる通りです。私たちの魔法の起動にかかる時間は約二時間。凝縮した魔法力を細い光線のようにして対象に照射し消滅させるので、メフィスが自由に動ける状態では避けられてしまいます。そこで、皆さんにメフィスの拘束をお願いしたいのです」
メフィスの拘束――
カリスの要求はとても困難なものであった。
彼女の分身体と死闘を繰り広げたイーバンダと部隊長たちはその頭を抱えた。
「あの化け物を……拘束……? ははは……冗談じゃない。俺たちはあいつの分身体に互角以下だったんだ。その本体を留めておくだなんて……できっこないさ……」
フェロズはとてつもない要求に途方に暮れてしまい、つい弱音を吐いてしまう。
その絶望は話を聞いていた兵たちにまで伝染していく――。
その様子を見かねたグラニはリアニに少し降りるように言うと、そのまま立ち上がり、机を思い切りバンッと叩きつける。
「いい加減にしなさい! やりもしてないのに諦めるような腑抜けの集まりだったのか? 今ここに集まっているのは、あの化け物に全力で抗って、滅亡しかけているかの世界を救いたいと思っている奴らじゃないのか? 希望を棄てた者たちに残るのは絶望という終焉のみだよ。生きることを諦めんな!」
皆に活を入れるグラニの目には必死になって生きろという熱い思いが宿っていた。
横で見ていたリアニは彼女のその凛々しい姿を見て、彼女に憧れを抱くようになった。
グラニのその思いに感化された皆は各々「グラニさんの言う通りだ――」「私たちが諦めるわけにはいかない――」などと口にし、次第にそのやる気をみなぎらせていった。
変わりゆく皆の様子に満足したグラニは横にいるリアニを抱きかかえて座り、彼女を再び自分の膝の上に座らせる。
「すまない、グラニ。俺たちがこの世界を守らなきゃいけねぇのに、目先の壁のでかさにビビッて弱音を吐いちまった……」
フェロズはグラニへ向けて頭を下げ、それに合わせて先ほどうろたえていた兵たちも頭を下げる。
グラニはその謝罪を「分かればいいんだ」と受け入れると、皆に頭を上げてカリスの話の続きを聞くように促す。
「グラニさん、ありがとうございます。そして皆さん、こんな難題を押し付けてしまい申し訳ありません。――メフィスの拘束に関してですが、皆さんにはこちらの魔法具を使用していただきます」
カリスは纏っていたローブの中からその魔法具を取り出す。
それは一見ただの杭とお札のようだった。
「それは……杭とお札……ですか……?」
ハイロンが不思議そうにそれらを見つめながらカリスに問いかける。
「その通りですが、ただの杭とお札ではありません。これはルーメンに住まう部族スワヴォータの人々が使う呪術、霊魂魔法をもとに彼らと共同で作成したものです」
「なるほど……霊怨呪縛ですか……」
魔法に関して様々な文献を読み漁っているカルマには、各部族が使用する魔法の記録も一通り把握しており、その呪具とも言うべき魔法具には心当たりがあった。
「その通りです、カルマさん。霊怨呪縛とはこの地にさまよい漂う霊の魂たちの怨念を利用し、対象を束縛しその行動を制限する術になります。この魔法具の使い方はいたって簡単で、メフィスを中心とした六ケ所に円になるようにこの杭を打ち込み、そこにこのお札を上にかぶさるように貼っていただくだけになります」
カリスが語った魔法具の使い方は思った以上に単純であり、その程度ならと兵たちは安堵した様子を浮かべるも――続くカリスの説明にその様子はかき消される。
「できる限り多くの霊魂を使用したいため、その六ケ所は可能な限り離して設置します。そしてここからが問題になるのですが――この杭とお札からあふれ出る魔力につられて、終わりの使徒がその杭の周りに集まってきます。皆さんには私たちがメフィスを消滅させる間、エンデ達からこの杭とお札を守ってほしいのです――」
終わりの使徒から杭とお札を守る――
それはつまり避けていたエンデと戦闘しなければならないということ。
この世界を生きる者にとって、それは最も残酷な要求ともいえるものだった。
――しかしもう狼狽える者は一人もいない。
彼らは「やってやりますよ!」「もう逃げようとしたりしません!」「私たちに任せてください!」と各々口にし、その目にはこの世界を守りたいという強い意志が宿っていた。
カリスはその決意に感謝の意を表するため「ありがとうございます」と言いながら頭を下げ、リアニ、ミシェルもそれに続く。
「礼を言うのはこっちの方だ、カリスさん。俺たちに世界を守る機会を作ってくれてありがとう。――よし! ではこれからその杭の位置と、そこを守る人員を決める――」
イーバンダは立ち上がってカリスに頭を下げた後、カリスの指導の下、地図上で杭の位置を決め、その場の環境を得意とする者たちを杭の護衛として定めていった。
彼は自分が抱える兵全ての得意不得意を把握しており、また交友関係や相性に至るまで頭に入っているようで、まるで答えの分かり切ったパズルをするかのように、サクサクとその役割を振っていった。
その様にカリスは驚きつつも、イーバンダがなぜ総指揮官を務めるのか理解し、改めてその才能に圧倒された。
この場にいない兵たちも含め、イーバンダとグラニを除いた全員に役割を振り終える。
「最後に俺とグラニは遊撃隊として――「ちょっと待って」――なんだ、グラニ?」
グラニは自分に割り当てられた役割に異を唱える。
「杭を守るのも大切なんだけど、一番大切なのはこの三人を守ることよ。最悪私たちが全滅して杭を守り切れなかったとしても、この三人ならあの化け物を消すことができるのだから」
グラニの意見は最もだった。
杭をエンデという脅威から守り切ることに必死になって、肝心な部分を見落としてしまっていた。
「あぁ……確かにその通りだな……とすると部隊を再編する必要が――「私が守る」――何?」
グラニはイーバンダへ真っすぐな視線を向ける。
イーバンダはその視線に負けたように首を振る。
「……わかった。三人はそれで問題ないか?」
三人はもともと守ってもらうつもりはなかったのだが、グラニの謎の圧に押し負け、各々問題ないという風に肯定の意を示す。
「よし、決まりだな。決行は二日後、奴の術の起動に合わせて作戦を始める。みんな! それまでに作戦の詳細をしっかり確認して当日すべてを予定通りに行えるように準備しろ! いいか? これは俺たちの、世界の命運を決める一戦だ! 死ぬ気で臨め!!!」
イーバンダの言葉の後に続いて集った者たちの決起の声が響き渡る。
――そうして二日間、全兵たちは作戦の詳細を詰め、魔法具の使用法とその位置をしっかりと頭に叩き込み、対エンデに向けた陣形などを徹底的に詰めた。
その決戦を応援するように、町全体が活気に満ち溢れていく。
そんな中、リアニは一人グラニに呼び出され、彼女が待つ”町で一番目立つ塔”へと向かった。
その頂上でグラニは町の活気を取り戻した様子を眺めながらリアニの到着を待っていた。
「来てくれたのね、リアニちゃん。急に呼び出したりしてごめんなさいね」
「いや大丈夫です。……えっとそれで用件は何でしょうか?」
――しばらくグラニは黙っていたが、おもむろに口を開くとある物語を語り聞かせる。
「リアニちゃん。こんなお話しを知ってる? あるところに世界の滅亡を企む悪い魔人がいました。その魔人はとんでもない力を持って土地を破壊しつくし、多くの人々を殺してしまいました。その悪い魔人を懲らしめるため、天界に住まう神様は一人のとても強い女の天使を地上へと送り、あっという間にその魔人は天使に倒されてしまいました。その天使は魔法を使って破壊された土地を直し、殺されてしまった人々を次々と蘇らせました。そしてその天使は役目を終えると天界へと帰っていきました。人々に生きる希望を与えたことから、その天使は”希望の魔女”と呼ばれ語り継がれるのでした――」
リアニは突然語り聞かされたその物語を訳も分からず聞いていた。
物語を語り終えたグラニはリアニの方へ向き直ってこう問いかけた。
「リアニちゃん。あなたは”希望の魔女”なんでしょ?」
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