会議
ガタガタと馬車に揺られながら一行はミアルバーチェの町にたどり着く。
町を覆う巨大な壁にある大きな鋼鉄の門を抜けた先は、ミルクヴァットのような活気はなく、どこか沈んだ雰囲気が漂っている。
リアニはこの町に入った途端、どこか他とは違う違和感を感じていた。
町のあちこちには住む家がないのかボロボロな服を身にまとい、床やベンチで固まって寝ている者がいる。
その者たちは町に帰ってきた馬車を見るなり、周囲に群がり一向に改善されない状況をいち早く改善するように訴えかけてくる。
彼らは空の様相の変化に余計に焦りを掻き立てられているのだろう。
彼らには今早急に行っていると伝えてもまるで聞く耳を持たない。
むしろその発言に逆上し、罵声を浴びせてきたり、最悪の場合暴力を振るい始めるものまで現れる。
リアニ、カリス、ミシェルはこの惨状を目の当たりにし、人類がいかに追い詰められた状況であるかを再認識した。
そんな三人を見てグラニは彼女たちに忠告をそれとなく流す。
「三人とも、今はあまり彼らに深入りしないようにね。彼らを救いたいならまず世界を危機から救うのが先決よ。聞こえは悪いかもしれないけど、今の私たちに彼らに構っている暇はないの」
「……そう……ですね……」
リアニは進んでいく馬車の後ろにずっと怒りや焦りの目を向ける彼らの姿を見て少し心が痛んだ。
馬車が止まり、降りるように促される。
馬車を降りた目の前にはドーム状の巨大な建物がそびえたっていた。
家や屋敷というより、何かの施設のようなそれは一階、二階部の壁がすべてガラスでできていて、ミルクヴァットとは全く違う初めて見る建物の様式にリアニは驚いてその場に立ち尽くし、その建物をじっと見つめてしまう。
「こういう建物を見るのは初めて?」
後ろを振り返るとハイロンが棒立ちするリアニへ笑顔を向けそう問いかけてきていた。
リアニが頷くとハイロンはリアニの横に並んでこの建物のことについて語り始める。
「確かに他の町にはこんな建物はないからね。ここはミアルバーチェの町の中心にある軍の本部、あとメディウスエネルギーって言う新しいエネルギーの研究施設でもあるの」
「メディウスエネルギーって何ですか?」
「メディウスエネルギーって言うのはこの町でのみ使用されてる、空間魔法力にとって代わる新しい力なの。もしかしたら気づいてるかもしれないけど、この町は他の場所と比べて圧倒的に空間魔法力が少ないの」
リアニはハイロンにそう言われてそこで初めてどこか感じていた違和感の正体に気づく。
「あぁ……言われてみれば確かに……」
「それで他の町では使える魔法具がこの町では一切使えないの。だから町の明かりとかお家の照明とかは、この町では全てメディウスエネルギーを使用するものに変わられているの。それでそのエネルギーについての研究をここで行っているっていうわけ」
リアニはそう言われて後ろを振り返り、町の様相を改めて眺める。
確かにミルクヴァットの町の魔法具の橙色の明かりと違い、ミアルバーチェの町の明かりの色は黄緑色だった。
今まで魔法に囲まれて生活してきたリアニにとってはとても新鮮な体験で、その技術に感動していると、後ろからミシェルが大きな声で自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「お~い! リアニちゃん、ハイロンさん! 遅れちゃいますよ~!」
「ごめん、エルちゃん! 今行く!」
リアニとハイロンはミシェルの元まで小走りで駆けていき、建物の中に入る。
建物の中にも戦火から逃れてきた人々でいっぱいになっていた。
ハイロンの案内の元、二人は二階の軍部室と書かれた部屋に通される。
そこにはすでに各部隊長やカリス、そして何人かの兵士たちがすでに細長い机を囲むように掛けていた。
入って一番奥にイーバンダとグラニ、その右側にカリスが座り、左側に各部隊長、開いているところに兵士たちが座っていた。
リアニとミシェルはカリスの元へ行って座ろうとするも、椅子が一つ足りなかった。
リアニは「私は立ってるから、エルちゃんが座って」とミシェルに席を譲る。
隣の兵が席を譲ろうとしたが、リアニはそれを断ると、見かねたグラニがとある提案をする。
「じゃあリアニちゃん、こっちにおいで」
言われるがままグラニの元へ向かうと、そのまま体を持ち上げられて、グラニの膝の上に座らされる。
「えっ……! ちょ……! わ、わたしは立ったままでも大丈夫ですから……」
「大切なお客人を立たせたままにさせるわけにはいかないのよ。それに私はこのままでも大丈夫だから……ね?」
彼女の笑顔にはなぜか逆らえないような圧があり、リアニは諦めるようにして引き下がる。
その様子をミシェルとカリスはどこか不満げな目で、イーバンダと他部隊長は呆れた目で見ていた。
(リアニは私のものなのに……)
(リアニちゃんとくっつけるなんてズルい……)
そうしてリアニはお腹をがっちりグラニに固定され、首筋から頭にかけて巨大な弾力をある物を感じながら、この会議に参加することとなった。
「今回はあの悪魔、メフィスが生み出した巨大な闇の塊について、その効果と対処法をこちらのカリスさんからお話しいただく。各員、その内容をしっかり頭に叩き込むように。これはこの世界の存亡にも関わる最重要事項だ」
イーバンダが立ってそう会議の挨拶を済ませると、カルマが室内の照明を消し、メフィスの状況を撮影したものをイーバンダの後ろの壁に投影機で映し出して、カリスが立ち上がって皆に軽く挨拶をしたのち、メフィスの禁術について話し始める。
「この闇の塊……ブラックホールとも言いますが、これは今はまだ出現しただけで、術自体はまだ起動に至ってはいません。つまりこれはまだ空に浮いてるだけのただの物体です。しかし、これが二日後に起動すると、この世界はこのブラックホールがすべて破壊し吸い込まれ、世界そのものが消失することになります」
その事実を今初めて告げられた兵たちは騒然とし始める。
「お静かに!」
「騒ぐな!」
カルマとフェロズがそれを一喝して鎮める。
室内が静まり返った後、カリスは続きを話し始める。
「術者であるメフィスは術の起動のため、この場を動くことができませんが、この術の効果により、外からの影響も一切受け付けません。つまり術が起動するまで、メフィスを倒すことも、術を止めることもできません。ですので私たちはこれから術が起動するまでの二日間、術起動した後すぐにメフィスを倒せるように準備をする必要があります」
すると話を静かに聞いていたシリカが「一ついいか?」と手を挙げて発言する。
「私たちストールを除いた部隊長とイーバンダは、全員で一斉に掛かっても奴の分身体を相手に苦戦を強いられた。それは君たちも同じだろう。そんな相手をすぐに倒すことなんてできるのか?」
シリカの発言に納得し、確かにと頷く者もしばしばいた。
それはイーバンダやカルマ、フェロズも同意見なようで「カリス、どうなんだ?」と聞いてきた。
「結論から言いますと、可能です。私たち三人が使うある魔法であれば、メフィスもあの闇の塊も一瞬で消し去ることができます」
カリスのその発言に室内に感嘆の声が響く。
しかしシリカはさらにカリスを問い詰めるように質問を投げかける。
「なら、なぜあの場でその魔法を使用しなかった? あの場で使用しメフィスを消し去っておけばこんな事態にはならなかったのでは?」
皆の視線が一様にカリスに向けられる中、カリスは口を開いてこう語った。
「それは使用しなかったのではなく、できなかったからです。ではこれから、私たち三人が生み出した新しい魔法”万物の終焉”についての説明を始めます――」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。
よろしくお願いいたしやす。




