勇士
オアリアの町にて――
空中でリアニ、カリス、ミシェルの三人がメフィスとの戦いを始める中、地上でもまた勇士たちと魔女の苛烈な戦いが繰り広げられていた。
「ハハハハハ! ワタシのプレゼントはオキニメシタようダネ!」
メフィスは振り下ろされる鉄槌をするりと後ろに避けながら火球で攻撃を仕掛け、その口で激昂した様子のイーバンダをさらに煽る。
「きっさまああぁぁぁ!!」
建物を破壊しながら猛進するその様はまるで暴走した獣のようだった。
しかし怒りに身を任せて武器を振るうあまり、普段よりも大きな隙を晒す。
そしてメフィスはそれを逃さずに確実にイーバンダへダメージを与えていく。
イーバンダはなりふり構わず攻撃を仕掛け続けていたが、やがて体が耐えられなくなっていき、その動きが鈍くなっていく……。
「はぁ……はぁ……はぁ……! ……ガハッ!」
ついには体が動かなくなり、そこへ落ちてきた隕石をまともにその身に喰らってしまう。
大きく吹き飛ばされた体は建物の瓦礫に叩きつけられ、その身を守っていた鎧はボロボロに砕け散ってしまう。
体のあちこちに隕石の破片が刺さり、腕や足は火球をもろに喰らった影響で体毛が焦げ、皮膚が焼けただれていた。
そうして満身創痍で動けなくなったイーバンダの目の前に現れたメフィスは彼にとどめを刺そうと魔法を構える。
「サヨウナラ、”不死の勇将”。サイゴはキタイハズレだったケド、まあ、ワルクなかったネ。ジャアネ――」
しかしメフィスが魔法を放とうとした瞬間、彼女のその右手が巨大な矢に狙撃され、腕ごとはじけ飛ぶ。
「――チッ!」
不意の攻撃を受けて下がろうとした瞬間、彼女の背中が後ろから思い切り振り降ろされた氷を纏った刃に切りつけられる。
「――グゥ! おのれぇ!」
メフィスは残った左手に魔力の炎を纏わせ、後ろから攻撃してきた者めがけて薙ぎ払う。
しかしその腕はすんでのところできれいにメフィスの頭上を跳び越すように避けられる。
そうしてその者はイーバンダを守るように盾を構えてメフィスの前に立つ。
「よう指揮官様! まだ生きてるか?」
「……! フェロズ……おまえ……どうして……」
イーバンダは信じられないといった様子で目の前で自分を守るフェロズを見上げる。
そこへもう一人彼の傍へ不意に姿を現す。
「どうしてもこうしてもないわよ。一人で突っ走っていっちゃわないでよ、指揮官様」
「ハイロン……すまない……」
ハイロンはイーバンダの横に来てしゃがみ込むと、彼が負った傷を癒していった。
刺さった破片は全て抜け落ち、開いた傷口は全てふさがっていく。
そして見るに堪えないほどのやけどを負っていた箇所は、それが分からなくなるほどきれいに治っていった。
一方でメフィスもはじけ飛んだ腕はすでに再生されており、背中の傷も修復が進んでいた。
「ハァ……セッカクそのオトコとのイッキウチをタノシンデタのに……。まあイイヨ。まとめてカカッテキナ!」
そう言うと同時にメフィスは自分の周りに数多の火球を生み出し、後ろに跳んで下がりながら三人がいる場所へ一気に放つ。
その火球は着弾すると同時に大きな爆発を引き起こし、轟音と共に建物は粉々になって吹き飛ぶ。
しかし三人はその爆発に飲み込まれることなく、素早くその場を離脱して、イーバンダとフェロズは下がったメフィスへと一気に距離を詰める。
「おおぉぉぉ!!」
「ぉらぁぁぁ!!」
その鉄槌と氷刃は大地を砕くような勢いで振り下ろされるも、メフィスはそれを魔力壁を生み出して受け止める。
ガキィンという金属がはじかれる音と共に二人は大きくバランスを崩す。
メフィスはその隙を狙って火球を放とうとするも、先ほどと同じように腕を巨大な矢に吹き飛ばされてしまう。
「チッ! ――ソコダナ!」
二人が崩れた体勢を直す前にメフィスはその矢を放つ者のところまで、地面を思い切り蹴って近づく。
建物の影に隠れて狙撃していたその者は、メフィスが近づいてくるのを読んでいたのか、あらかじめその場に大量の爆薬を設置しておき、すでに離脱していた。
そうしてメフィスがその建物に近づいた瞬間、建物ごと吹き飛ばした大きな爆発が、その化け物を飲み込んだ。
「さすがにこれで倒れてほしいんだけど――」
シリカの願いが叶うことは無く、めらめらと燃え上がる建物の中から、その化け物は吹き飛んだ腕、焼けただれた皮膚、折れた左足を引きずるようにしてゆっくりと出てきて奇声を上げる。
直後その化け物から負の魔力が溢れ出し、その傷を一瞬で修復させた。
さらには頭から生える角はより大きく成長し、未だかすかに人の風格が残っていた顔は完全にその形が変わり、その瞳は燃え上がり、口からは炎が溢れ出す。
体は醜く成長し、全身にまるで岩の鎧を着ているかのような姿へと変わる。
その体のあちこちには小さな穴が開いており、そこからマグマのようなぐつぐつとした液体が漏れ出している。
メフィスがその姿へと進化した際、明らかに周囲の温度が高くなった。
「おいおいマジかよ……」
「あれが……メフィス……?」
「あなた……そんな姿になってまで……」
「くっ……!」
体勢を立て直すために一旦集まった四人は、先ほどまで戦っていた化け物がより凶悪な姿になっていく様に、各々言葉を失った。
進化したメフィスは右腕を四人めがけて前にゆっくりと持ち上げると、その腕から燃え上がる炎を勢いよく放射させる。
その炎は町全体を飲み込むような大きさで、建物や瓦礫など町のすべてを溶かし尽くしながら四人の元へと迫る。
この炎は避けることができないと判断したフェロズとハイロンは、四人を覆うように魔力壁を何重にも展開させる。
しかしその何重にも展開された魔力壁は一枚一枚ゆっくりと溶かし剥がされていく。
「このままじゃ――」
「破られるっ――!」
最後の一枚になり、それも溶かされそうになった時――
「――みんな! 遅れてすまない!」
その声と同時に再度何重にも魔力壁が新たに張られる。
四人はその声の主の方へ振り返る。
そこには先遣隊の部隊長カルマが全開の魔力を放ちながら立っていた。
「「カルマ――!」」
四人はその圧倒的な魔力を持つ彼の参戦に歓喜した。
彼が新たに張り直した魔力壁は、一枚も溶かされることなく五人の身を守り続け、やがてはメフィス側が息切れを起こし、その攻撃が止む。
「――! 今!」
その隙を逃さずにシリカはメフィスの頭をめがけて矢を放つ。
「――おおぉぉぉ! 潰身撃!」
イーバンダもまたメフィスの元へと駆け出し、頭に矢が命中して大きく体勢を崩した彼女の腹をめがけて、ぐるりと回転しながらその鉄槌を叩きこむ。
その二人の攻撃をまともに喰らったメフィスは大きく吹き飛ばされ、焦土となったオアリアの地面に倒れこむ。
メフィスはマグマのような血を吐きながらゆっくりと立ち上がると、再び奇声を上げてさらに負の魔力を解放する。
「おいおい……まだあんのかよ……」
「さすがに……もう、あんなのは受けれない……」
先ほどの攻撃でフェロズとハイロンは魔力切れを起こし、立ち上がれないでいた。
そうしてメフィスは再び先ほどの攻撃の構えをする。
「イーバンダ! 早く戻れ!」
イーバンダに素早く戻るように声を上げたカルマは次の攻撃に備えて魔力壁を展開し始めていた。
そうしてイーバンダがギリギリその中に入ると同時にメフィスはその攻撃を放つ――はずだった。
攻撃を構えていたメフィスは空中に吸われるようにして消えてしまった。
五人がその先を見ると、二人の魔女が魔法陣を展開し、一人の魔女が隕石を落としていた雲に必死に魔法をかけていた。
「あれは……どうしてあそこにもメフィスが!? それにメフィスと戦ってる彼女たちは一体……?」
ハイロンは心の底からの疑問を口に出すと、それにシリカが答える。
「私たちが戦っていたメフィスは恐らく魔力で作った分身体。そして彼女たちは……リアニ、カリス……もう一人は……わからない」
「リアニにカリス――それがあの魔女たちの名なんだな……?」
フェロズがシリカに聞き返すと彼女は空にいる魔女たちから視線をそらさずに、静かにコクリと頷いた。
空中にいるメフィスは魔法陣の前に必死に耐えることしかできないように見えた。
「あのままいけば、勝てるぞ!」
フェロズがそう言った次の瞬間、空に真っ黒い巨大な穴が現れた――。
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