破壊
オアリアの奪還は順調に進んでいた。
町にいたのはメフィスに操られた人の軍勢のみ。
その数はおよそ五百人ほどで、彼らに意識はなく、まるで死体が動いているかのようなものだった。
先遣隊の報告を受けたイーバンダは、オアリアの複数箇所ある町の出入り口を、一か所を残して全て封鎖するように前衛隊に命令を出した。
指示を受けた前衛隊はさび付いた門を閉め、魔法で門を凍らせて簡単に開けられないようにする。
そうして開け残した門を取り囲むように前衛隊を配置し、その後方に狙撃隊、医療隊を配置する。
町の外で戦うことで、少しでも建物への被害を抑えるために取った戦法である。
全ての隊が配置についたことを確認すると、イーバンダは先遣隊を町の中に突撃させ、できるだけ多くの注意を引いて外に出るように指示する。
まんまと釣られた者たちはまるで獣のように走りながら町の外へと誘い出される。
誘い出された者たちは狙撃隊の一斉射撃を浴びせられ倒れる。
その後もどんどん出て来る者たちに射撃を浴びせ、討ち漏らしたものは前衛隊が倒す。
――全ては順調に進んでいた。
「……! イーバンダ! 上を見て!」
狙撃隊の隊長であるシリカが異変に気付き、イーバンダに向かって叫ぶ。
その声に何人かがハッと上を見上げる。
その目に映る光景に各々言葉を失ってしまった。
空を覆う雲の中から建物ほどはある大きさの隕石が大量に頭上に降り注いできたのだ。
その隕石は敵味方関係なくすり潰し、辺り一帯は悉くとして地獄と化す。
状況は一転して大混乱に陥り、錯乱して逃げ出すものまで現れた。
それぞれの部隊長は必死に部隊をまとめようとするも、隕石が地面と接触した衝撃や隊員たちの悲鳴で指示の声がかき消されてしまい、全くまとまらない。
次々と隕石が落下してくる中、町から一つの影が優雅に歩いて出て来る。
「フフフ……ワタシのプレゼントはキニイッテくれたカシラ?」
その声に冷静に事に対処しようとしていた部隊長、そしてイーバンダはハッとし、その声の主の方を見る。
「おのれぇ……メェフィスゥゥゥ!!」
イーバンダはその姿を見るなり突進して鉄槌を振るう。
しかしその鉄槌は彼女に当たることなく空を殴りつける。
イーバンダは町の方へすぅーっと浮くように移動するメフィスを追いかけて町へ入ってしまう。
「イーバンダ! チッ! フェロズ! シリカ! ハイロン! 彼の援護に回れ! ストール! 今生き残っている者たちをできるだけ馬車に乗せてミアルバーチェに帰還しろ!」
先遣隊の部隊長のカルマはこんな状況でも冷静に事を判断し、各部隊長へ的確に指示を出していた。
「「了解!」」
そうしてフェロズ、シリカ、ハイロンはイーバンダの援護のために町へと突入し、カルマとストールは生き残っている者たちを次々馬車に放り込む。
出発時には三百人以上いた人たちは、そのほとんどが隕石潰されてしまい、残ったのはわずか十数人程度となってしまった。
「よし! ストール、行け!」
「待て! お前はどうするんだよ!?」
「俺もイーバンダに加勢する。生きてたらまた会おう!」
そうしてカルマももの凄い速さで町の方へと消えていく。
ストールは歯を噛みしめながらもその馬車をミアルバーチェへ向けて大急ぎで走らせる――。
「――待ってろ! すぐに援軍を連れてきてやるからな! それまで死ぬんじゃねぇぞ!」
*
一方でオアリアの空でも戦いが始まっていた。
メフィスが発動させた大規模な魔法を止めるため、カリスが雲の中に仕掛けられた魔法の破壊を試みる。
それを阻止しようとするメフィスをリアニとミシェルが必死に抑え、カリスの邪魔をさせないようにメフィスへ攻撃を仕掛ける。
「アハハ! ツヨクナッタネ、リアニちゃん! それにエルちゃんも! オネエサンはトッテモウレシイヨ! でもね、ジャマダカラ、キエテくれないカナ!」
「消えるのはそっちの方だ、化け物! 閃光に貫かれよ!」
メフィスから放たれる攻撃をリアニが魔力壁で捌き、後ろにいるミシェルが魔法で攻撃を仕掛ける。
ミシェルは、もはやストラの面影すらない化け物となってしまった魔女に攻撃を仕掛けることに躊躇いは全くなかった。
放たれる大きな丸太ほどの太さの光線をメフィスは余裕の表情で回避する。
避けられた光線はその先の地面に着弾すると大きな爆発を起こし、その周囲一帯を焼き尽くした。
そうしてメフィスは次の攻撃を仕掛ける。
「業火に灼かれよ!」
メフィスより放たれるいくつもの火球は、リアニが張った魔力壁をいとも簡単に溶かしてしまう。
「チッ! エルちゃん! しっかり掴まってて!」
そう言うとリアニは空中を全力で飛び回り、放たれる高速の火球を全て避けてみせる。
どこまでも執拗に放たれる火球をまるで風のように縦横無尽に翔け回り避ける様に、メフィスはイラつきを隠せないでいた。
「ムシみたいでウットウシイヨ! 紫電よ貫け!」
「虫みたいな見た目してんのはそっちでしょ、化け物!」
「リアニちゃ~ん、ズイブンおクチがワルクナッタネぇ? カリスのエイキョウかなァ!?」
メフィスが放った攻撃は、カリスの方へ向けられていた。
しかしその攻撃はカリスに届くことなくリアニの魔力壁に阻まれた。
「あんたの相手は私たち! 閃光に貫かれよ」
「お姉ちゃんには指一本触れさせない! 闇槍よ突き破れ!」
ミシェルは先ほどよりも太くなった光線を、リアニは数多の闇の炎を纏った真っ黒な槍を二人同時にメフィスへ向けて放つ。
先ほどのように余裕の表情で避けるものの、追尾する闇槍に右脇腹を貫かれ、その反動で光線に触れ、左腕を焼き切られる。
「ギャアアアアアアアァァァァァ!!」
その痛みに耐えられずメフィスは甲高い悲鳴を上げる。
右脇腹を抉られ、左腕を失ったメフィスは、怒りに狂った目線を二人に向ける。
「クッソッガアアアアアァァァァァ!!」
そうしてメフィスは怒りに身を任せて、負の魔力を解放させた。
その魔力は傷ついた彼女の体を一瞬で再生させる。
しかしリアニとミシェルはそれを待ってたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべると、二人で片腕ずつ前に出して、魔法陣を展開させる。
そうして二人は口をそろえてその術の名を唱える。
「「魔力を吸い込め!」」
次の瞬間、メフィスから解き放たれた大量の魔力が強烈な勢いでその魔法陣へと吸い込まれていく。
その勢いにメフィスは吸い込まれないように必死に耐えることしかできない。
このまますべての魔力を吸い込むことができれば、メフィスに勝てると、二人はそう思っていた。
――しかしリアニはとあることを忘れていた。
それをリアニが知ったのは約半年前。
カリスから告げられる形でその存在を知ったのだ。
「彼女にはまだ使ってない禁術がある――」
メフィスはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
そうして彼女はその術の名を静かに唱えた――。
「大いなる闇よ、全てを壊せ」
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