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禁術

 何とかメフィスから逃れたリアニは瓦礫にまみれた廃墟を進む。

 少なからず行く手を阻む妨害はあったものの、カリスの元一年間教わった魔法や魔力干渉を駆使し、それらを難なく突破していく。

 そうしてリアニはミシェルの反応があったとされる瓦礫の山の前にたどり着く。

 「エルちゃーん!! 聞こえる? 助けに来たよ!!」

 その呼びかけに反応はなかった。

 リアニはカリスが行っていたように、周囲にメフィスの魔力を持つ者がいないか探る。

 するとやはり目の前の瓦礫の中から、一つだけ反応があった。

 「エルちゃん! 今助けるからね!」

 リアニは魔力で瓦礫を上から慎重に退かし始める。

 その途中、たまたま通りかかった暴徒が襲い掛かってきたが、退かしていた瓦礫を思い切り相手にぶつけて撃退したり、突風を起こす魔法で吹き飛ばしたりして対処していた。


 そうして瓦礫の山をほぼ退かし、地面が見え始めた頃、人の腕のようなものが見える。

 「っ! エルちゃん! 今助けるから!」

 リアニはその体を覆っている瓦礫を慎重に退かす。

 そこにはとがった瓦礫に体を貫かれ、左足は大きな瓦礫に潰されてしまっているミシェルの姿があった。

 リアニは息をのんでゆっくりと彼女に近づき声をかける。

 「……え、エル……ちゃん……?」

 するとその声に反応してか指先がピクリと動く。

 まだ生きている――

 まだ助けられる――

 リアニは彼女の左足を潰している瓦礫を退かし、最後に彼女の体に突き刺さった瓦礫を慎重に引き抜く。

 次の瞬間、彼女を救いたいという一心の元、自分のありったけの魔力を全力で彼女に注ぎ、その傷を治す。

 その魔力はあまりにも強力であり、潰れてぐちゃぐちゃな左足はみるみる元通りになり、身体に空いた穴は一瞬にして閉じてしまう。

 そしてリアニはカリスにもしもの時のためにと渡されていた薬を取り出し、ミシェルのその小さく開いた口に流し込んでやる。

 彼女は反射で咳き込んでそれを吐き出しそうになる。

 「ごめんエルちゃん。これは体をよくするお薬だから……おいしくないけど飲んで……!」

 ミシェルは言われた通りにその液体を飲み込む。

 「よし、もう大丈夫だよ。私がエルちゃんを守るから、安心して!」

 そう言われたミシェルは、緊張が解けたのかリアニへ体を預けるようにして意識を失った。

 リアニは彼女を背中に背負うと、法器()を生み出して跨り、この街から離れるために飛び立つ。

 そのまま順調に街から抜けられると思っていた矢先――彼女が目の前に現れた。


 「な、なんで……お姉ちゃんは!?」

 目の前のそれは顔に手を当て高笑いする。

 「アッハッハッハ……カリすはハいにナったヨ。まルこげサ。わタしのデしながラ、あンナによわカったナんて、キたいハずレだ……」

 「……!」

 吹き飛びそうになる理性を必死にとどめる。

 確かに目の前に立ちはだかる化け物の力は強大であり、その力の圧に全身が危険を訴えている。

 ただここで怒りや悲しみに飲まれて暴走しては、自分もミシェルも命を落とすことになるだろう。

 悲しむのは後でいい。

 今は彼女が命を懸けて作り出した、ミシェルの命を救い出すチャンスを全力で繋いでいくことが最優先。

 そのためにも、ここから、彼女から逃げ出せる隙がないかを探る。

 「……お姉さんは、そんな姿になって何がしたいの……?」

 「ウん? わタしはね、コのすガたをりアにちャんにかッこいイとおもッテほシくて。そうスれば、リあにチゃんはわたシを()()()()()()()()()でしょ?」

 「……いや。怖いよ……お姉さん」

 その言葉にメフィスの笑顔が崩れる。

 彼女からあふれ出る魔力が段々とどす黒く変化していき、分厚い雲が空を覆い始める。

 その雲はやがて雷鳴を轟かせ始め、冷たい風が吹き始める。

 「こわイかァ……そッカぁ……ザんネんだなァ……ジゃあ、りアにちゃンも、イらナい」

 メフィスは右手を上から下に振り下げる。

 「紫電よ貫け(リンシュロネッド)

 すると雲の中で轟いていた雷が無数に地面へと振り落とされる。

 リアニは全力で魔力壁を展開するも、威力の高められた魔法の雷はやがてその壁にひびを入れる。

 「くっ……ごめんね、エルちゃん。絶対に無事に連れて帰るから……!」

 今大事なのは戦うことではなく逃げること――

 リアニはミシェルと自分の体を魔力でしっかり固定する。

 「ほんとは使っちゃ駄目って言われてたけど……許して、お姉ちゃん……!」

 リアニは右手を前に突き出し、左手の人差し指と中指を立てて口の前に持ってくる。


 「時の歯車よ静止せよ(ノリテフルクサス)!」


 リアニがそう唱えると、彼女の頭上と足元に二つの大きな魔法陣が現れる。

 魔法陣の中にある時計の針の動きが段々と遅くなる。

 それに合わせて周りの時間の進みも遅くなる。

 やがてその針は完全に動きを止めると、周囲の時間の流れも完全に止まり、リアニが触れているもの以外は完全にその動きを止めてしまった。


   *

 

 時の歯車よ静止せよ(ノリテフルクサス)

 この魔力干渉は時を止めたいという単純な強い思いの元、魔力で時間の進みに干渉し、その流れを完全に止めてしまうものである。

 聞こえは簡単なものだが、この魔力干渉を行使する際に魔女数十人分の魔力を消費する。

 その魔力を思いのブレ一つ許さず、一人の術者に集約させ発動させなければならない。

 万が一どこかの工程で一つでもズレやミスが生じると、集約させた魔力が爆発、または暴走し、多大な犠牲を生むことになる。

 世界の理を揺るがし、破滅に導くものとして、禁術に認定され、その使用、研究は禁止とされていた。

 彼女がこの術を知ったきっかけは、父親の棚を漁っている時に見つけたとある研究資料。

 それはクロニスが進んで行っていたものではなく、彼が所属していた組織賢者の集い(エル・グランデ)が全員で行っていた極秘である禁術の研究だった。

 賢者の集い(エル・グランデ)はたびたび目を盗んで禁術の研究に手を出していたのだ。

 その資料を見つけたリアニはカリスに内緒でその内容を読み込み、原理、使い方を理解してしまった。

 そして好奇心がたたり、一度だけその術を試してみた――。


 ――結果は大失敗だった。

 暴走した魔力はリアニの目の前で大爆発を起こし、彼女は壁にものすごい勢いで叩きつけられ、全身に大きなけがを負うことになった。

 その爆発の音で気づいたカリスはすぐにその場まで駆け、血だらけになったリアニを見つけた。

 急いで治療を施すその顔は「リアニちゃんまでいなくならないでよ!」と言い涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 何とか応急での治療が間に合い、一命を取り留めた後は動けるようになったリアニが自分の力や薬で体を治す。

 その間リアニはカリスにこっぴどく叱られ、もう二度と禁術には触らないと約束を交わした――。


   *


 「……せ、成功……した……?」

 暴走した魔力の暴発もなく、世界はリアニと後ろのミシェルを残してその動きを完全に止めた。

 成功するかどうか、一か八かの賭けだった。

 リアニはその賭けに勝ったのだ。

 「よし。今のうちに……」

 目の前で固まる禍々しい姿をした魔女を尻目にリアニはその場を離れて街から脱出する。

 しかし禁術の魔力の消費に耐え切れず、それを解除して街の外に着地し、瓦礫に身を隠すようにして腰を下ろす。

 「はぁ……はぁ……私の……魔力でも……十秒程度か……」

 リアニは乱れた呼吸を整える。

 ある程度落ち着き、再び出発しようとした瞬間、自分の体が魔力で縛られ全く動けなくなる。

 前に倒れたリアニは何とか顔を上げると、そこにはメフィスの不気味な笑顔がこちらを覗き込んでいた。

 「ハぁ……まサか、りあニちゃンがキんじゅツに、てヲだしテいルなんて……おドろきマしタ」

 そう言うとメフィスはリアニの顔を踏みつける。

 口の中が切れて血の味が広がる。

 いくつもの死体を踏みつけにしてきたのだろうか。彼女の真っ赤なボロボロの靴からは異様なまでに血の匂いが染み付いており、リアニは耐え切れずに思わず吐き出してしまう。

 「こンどは、ニがしマせんヨ?」

ここまでお読みいただきありがとうございました。




ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。


よろしくお願いいたしやす。

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