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帰宅

 北の大地ルーメン。数ある雪山の一つにクロニスが使っていた秘密基地がある。

 二人はゴスミアからこの場へ、約一週間の時を経てようやくたどり着き、足を踏み入れた。

 外の凍るような寒さとは打って変わり、中はその寒さを全て溶かしてくれる暖かさだった。

 「ただいま……お父さん……」

 「お、お邪魔します……」

 石壁を木枠で補強した基地の中は、天井から吊り下げられたランタンに照らされて、思いのほか明るい。

 部屋の四方が棚で覆われており、ど真ん中に大きな作業机が置いてある。

 棚にはクロニスの実験の成果だろうか、見たこともないような物がいくつも置いてあり、そのどれもが用途不明のよくわからないものだが、それがリアニの心を躍らせる。

 「リアニちゃん、あんまりむやみに触らないようにね。中には中途半端にしかできてないものがあって、壊れたり爆発したりするから」

 カリスに注意を受け見るだけにとどめておく――。

 真ん中の大きな机は実験に使うであろう工具がきれいに整理されて並べてある。

 「リアニちゃん、こっちにきて」

 部屋の中を興味深く見回っていたリアニはカリスの元へ行く。

 部屋の奥の扉の前にいたカリスは、その扉を開けるとそこはクロニスが使っていた寝室だった。

 先ほどの実験室とは打って変わって、石の壁や床は全て木材に張り替えられており、ログハウスの中のような安心感のある雰囲気になっている。

 「ここは……」

 「お父さんが使ってた寝床だよ。一時期私とお母さんも一緒に使ってたんだ」

 入って右側には二人が眠れそうなほどの大きさのベッドがあり、左側には食器が入った棚が置かれており、部屋の真ん中には二人がかけられるほどの机と椅子が置いてある。

 扉の正面の壁には本がびっしりと詰まった棚が置いてあった。

 カリスは部屋中に溜まったほこりを魔力で一か所に集めて外へ放り出す。

 「さあご飯にしよっか」

 そう言うとカリスは実験室から何やら白くて薄い板を持ってくる。

 側面には押し込めるような突起がついている。

 その突起を押し込むと、白い板にうっすらと橙色の円が現れる。

 「お姉ちゃん、これは何?」

 「これはお父さんが作ったヒートプレート。この中に魔法が組み込まれた金属が入ってて、この突起を押すと空間魔法力を消費しながら中の金属が温まるの。その上に鍋とか乗せたら料理かまどみたいに使えるって言う物だよ」

 「こんなに薄い板がかまどになるの? お父さんってすごいね」

 カリスは「そうだよ」と得意げに鼻を鳴らす。

 ヒートプレートの上に底の深い鍋を持ってくると、その中へ道中スワヴォータの人に分けてもらった肉や野菜を切り分けて順に放り込んでいき、最後に水を魔力で生み出し食材がしっかり浸るぐらいまで注いでいった後、どこからともなく取り出した粉を振りかけて、蓋をする。

 「あとは待つだけで完成するよ」

 「これは……ポトフ? でも最後にかけた粉は何?」

 「そう。この粉はお父さん特製、掛けたら何でもおいしくなるやつ! って言ってたよ。お母さんにも手伝ってもらって完成させたんだって。それがこの部屋には死ぬほど置いてあるの」

 カリスが戸の付いた棚を開けると、そこには先ほどの粉が入っている袋が敷き詰められていた。

 予想外の量に思わず苦笑いする。


 ポトフが出来上がるまでの待ち時間、暇でしょうがなかったリアニは気になっていたことをカリスに問いかける。

 「そういえばお姉ちゃん、スワヴォータの人は外の人に厳しいって言ってたのに、どうして私たちには優しくしてくれたの? まさかお姉ちゃんもスト……じゃなくてメフィスみたいに……?」

 「違う違う。私たちがもともとここで暮らしてたって言ったと思うんだけど、昔この地に天災が起きたの。雪崩とか地盤が崩れたりとかして、彼らは食べ物も住める場所もなくなったの。その時、お父さんとお母さんが筆頭になって、村のみんなで彼らの復興のお手伝いをしたの。言葉はあんまり通じなかったみたいだけど、それ以降、彼らは村のみんなにはとても優しくしてくれるようになったの」

 リアニは彼らに初めて会った時を思い出す。

 カリスに連れられスワヴォータが集まる集落に向かうと、そこには身長がリアニの二、三倍はありそうな人たちが焚火を囲んで変な踊りを踊っていた。

 その奥に祭司と呼ばれる人が杖のようなものを振り、その杖の先から禍々しい魔法力が集まっていた。

 最初にその様を見た時は怖くてカリスの後ろに隠れてしまったが、彼らはカリスが来たことに気づくと、温かく迎え入れてくれた。

 その後カリスからリアニは自分の妹であると紹介された彼らは、まるで自分たちの子供のように喜び、いろんな果物や野菜を分け与えてくれた。

 何を言っているかは全く分からなかったが、彼らが自分の訪問を喜んでくれているのははっきりとわかった。

 後にカリスは、彼らは仮面をかぶって顔を隠していたり、変な踊りを踊っていたりと、一見不気味な彼らだが、受けた恩義は忘れることがなく、その後は仲間のように受け入れ助けてくれる、それがスワヴォータという部族であると語った。


 そうこう話しているうちに、室内には腹の虫を刺激するような香りが漂い始める。

 蓋を開けるとその香りが一気に充満し、思わずリアニの腹の虫が鳴く。

 それを木の皿にそれぞれ盛り付ける。

 二人は手を合わせいつものように食材へ感謝を伝えた後、「いただきます」といい食事を始める。

 示し合わせたわけでもないのにも関わらず、息ぴったりに合わさったのは、二人が同じ親の元で育ったという証明になるだろう。

 リアニは木のさじでそれを掬い口へ運ぶ。

 口に入れた瞬間優しい温かさが野菜の甘さと共に口いっぱいに広がる。

 材料を切って煮込んだだけの簡単な料理だが、どこか母の味を想起させるそれは、残酷な真実を知った事件、そして長距離の慣れない移動で疲れ切った心と体を癒してくれる。

 「どう? 美味し……って泣いちゃってどうしたの!?」

 カリスはあたふたしながら布巾を取り出し、リアニの涙を拭いてやる。

 しかしリアニは、彼女に言われるまで自分が泣いていることにすら気づいていなかった。

 「わかんない……なんか……すごく……心がいっぱいになって……」

 カリスはリアニの横について「よしよし、頑張ったね」と言いながら彼女の背中をさすってやる。

 その後食べ終わったリアニは、疲れてしまったのか、ベッドで横になるとすぐに可愛い寝息を立て始めた。

 それに気づいたカリスは彼女にそっと布団をかけてやる。

 「う~ん……確かにどことなく私に似てるかも……? フフッ……ゆっくりお休み……リアニちゃん」


 カリスは鍋や食器の汚れを透明な袋にまとめてきれいに洗ってから片付ける。

 その汚れを父親が開発した”食べ残しを食べてくれるゴミ箱”に袋ごと放り込む。

 そうした後、寝室の明かりを消して実験室へ向かう。

 「え~っと……地図はどこに置いたかなぁ……」

 部屋中の棚という棚を探し回り、ボロボロになった地図を見つけ出すと、真ん中の机の上に広げる。

 次にメフィスが拠点としていた点にピンを差し、彼女が現れたフェリステア、その他彼女の目撃、接触情報があった場所にもピンを指す。

 「んん……あの人は本当に何がしたいんだ? エンデの調査にはそこまで本腰は入れてないように見える……。となると何か別の目的があるはず……実際私がフェリステアのエンデを操って南の城に集めた時、行先は分かっているはずだったのに深追いは全くしてこなかった……」

 彼女の目的さえわかれば、せこせこ情報を集めて追いかけっこなんてしなくてもよくなる。

 それにその目的次第では、万が一こちらが先にそれを抑えることができれば、大きなアドバンテージになり得る可能性もある。

 しかし、彼女が向かう先には全く共通点がなく、ただフラフラと飛び回っているようにしか思えない。

 カリスは一晩中これについて悩みながら、いつの間にか眠ってしまっていた――。

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