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父親

 穏やかな風がそよぎ、鮮やかな緑の絨毯は見る者の心を和ませる。

 リアニはクロニスの横にぴったりと腰を掛け、彼にもたれかかる。

 初めて感じる父親の温もりは、母親のものとはまた違った安心感を与えてくれる。

 それに甘えて一眠りしてしまいそうになるも、亡くなってしまっている父親とこんなにまったり話せる機会はもう二度とないと、その両頬を叩いて眠気を追い払う。

 その仕草に懐かしさを覚えたクロニスは静かに微笑む。

 「フフッ……そうやってほっぺを叩いて眠気を覚まそうとするところ、メルにそっくりだ」

 「えへへ……お母さんがよくこうしてるの見て、私にも移っちゃった」

 メルティスに似ているという言葉に喜びを隠せなかったリアニは、恥ずかしそうに笑う。

 「リアニはお母さん似なんだな……まあ僕がいなかったから当然と言えば当然なんだけど。逆にカリスは僕によく似ていたな……」

 「カリ……お、お姉ちゃんは……どういう子だったの?」

 未だにカリスを”お姉ちゃん”と呼び慣れていないリアニは、その呼び方に詰まりながらもクロニスに過去の彼女について聞いてみる。

 クロニスはしばらく唸った後、おもむろに口を開く。

 「どういう子か……そうだなぁ。今のリアニとあんまり変わらなかったかな。元気いっぱいの甘えん坊で、手伝いを自分から進んでやってくれる優しい子だった。とっても強い子なんだけど、実は寂しがり屋さんなんだよ」

 普段見ていた彼女からは想像もつかない言葉を並べられ、リアニの中の彼女はますます謎が深い人になってしまった。

 ただクロニスがカリスのことを語るときに見せる、彼女を幾度も見守ってきた優しい目は嘘など一つもないと思わせるものだった。

 「お姉ちゃんが……寂しがりや……」

 「信じられないかい?」

 「……いや。前にお姉ちゃんが私たちに攻撃してきた時に、独りの寂しさとか辛さをぶつけてきたなと思って……」

 カリスはあの時、とても大きな負の感情をぶつけてきた。

 メルティスに置いて行かれた恐怖と悲しみ、そんな自分を差し置いて幸せそうに暮らすリアニへの妬みや怒りなど。

 リアニはそれらに恐怖を感じつつも、受け止めなければならないものでもあると思っていた。

 「お父さん……私、お姉ちゃんに謝らなきゃいけない……けど……」

 「カリスが許してくれるか分からない?」

 リアニはコクリと頷く。

 クロニスは彼女の小さな頭に手を置き、自分の方へ少し引き寄せるて、そのサラサラな白い髪の毛に沿ってゆっくり丁寧に撫でる。

 「大丈夫だ。カリスもきっとわかってくれる。むしろカリスの方がリアニに謝りたいと思っていると思うよ」

 「お姉ちゃんが……?」

 「そう。これまでカリスはメフィス討伐のためにいろんなことをしてきた。命令されたからっていうのが大きいとは思うけど、彼女の意思も少なからずあったはずだ。ただその途中、偶然にも出会った相手を妹だとは知らずに傷つけてしまった。カリスはすごく後悔してたよ」

 クロニスが語るカリスの様子に一つ納得できない点を指摘する。

 「でも……お姉ちゃんは私の名前知ってたんじゃないの……? なのに後から気づいたの?」

 「そうだな……リアニ。嫌だったらごめんね。メフィスの裏の顔を知った時、リアニはどんなことを考えてた?」

 リアニは彼女へ失望したあの場面を思い出す。

 今でもその怒りや悲しみが沸々と燃え上がってくる。

 「えっと……とにかく許せなくて、嫌いって気持ちでいっぱいだった」

 「そうだろう? おそらくカリスも同じだったと思う。メフィスと……メルへの怒りや悲しみ、憎しみでいっぱいだったんだろう。そういう時って、そのことしか考えられないだろう?」

 言われてみればそうだった。

 カリスが語った”メフィスのやってきたこと”がすべて真実だと分かったとき、メフィスへの失望から来る怒りや悲しみに囚われていた。

 「その時に全く意識していない名前を言われたとして……その人のことについて考える余裕はあるかな?」

 リアニは首を横に振る。

 あの時はあの怒りに身を任せていた。

 他のことなどどうでもよく、毛ほども考えていなかった。

 「カリスもそれと同じだったんだ。すぐに気付いてあげられなかったのは、確かにカリスの落ち度ではあるけれども、許してやって」

 大きく頷いたリアニの頭をクロニスは「よし! 偉いぞ!」といい撫でまわしてやる。


 「さて、そろそろ時間だね」

 クロニスはおもむろに立ち上がると、リアニへ背を向けて歩き始める。

 リアニもそれを追いかけようとするも、急に隣に現れた謎の白い光の人影がリアニを掴んで離さなかった。

 「離して! 待ってお父さん! 行かないで!」

 リアニは離れていくクロニスへ必死に手を伸ばす。

 するとクロニスは立ち止まって振り返る。

 「リアニ。お前はまだこちらに来てはいけない。今ここでは僕と離れ離れになってしまうかもしれない。でも大丈夫。僕はずっとお前の傍にいる。ずっと傍で守ってやるからな、お前は一人じゃないんだ」

 段々とその人影の力が強くなっていく――。

 リアニの視界はまばゆい光に包まれる――。


 「ちょっとのお別れだ。リアニ、そしてカリス。元気でな――」

 「――――! ――――!」


   *


 まっさらな大地に横たわるリアニは目を覚ます。

 誰かに抱きかかえられているようで、目の前はその人の服でいっぱいだった。

 「あぁ……りあにちゃん……おきたのね……」

 自分を抱きかかえていたのは、全身傷だらけのカリスだった。

 「え……? お、お姉ちゃん! しっかりして!」

 「ははは……りあにちゃんに……おねえちゃんって……よばれる……ひがくる……なんてね……」

 リアニはすぐに起き上がり、カリスへ自分の魔力を流し込む。

 メフィスほどの速さではないものの、その傷は着実に治っていった。

 「リアニちゃん……どうして……? 君と君のお母さんを殺そうとしたやつだよ……?」

 「……私、さっきお父さんに会ったの」

 「お、父さん……って……もしかして!」

 「そう。名前はクロニス。私と……お姉ちゃんのお父さん」

 カリスは驚きのあまり言葉が出なかった。

 その後リアニはカリスの傷を癒しながら、天国で体験した父親との団欒を話す。

 それを語るリアニの嬉しそうな笑顔はとても眩しくて、彼女を曇らせていた真っ黒な感情はもうどこにも見られなかった――。

 

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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