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真実

 バケツをひっくり返したような雨が地面を叩きつけるように降り注ぐ。

 雷鳴が鳴り響き、夜の闇の中を白い光が駆けずり回る。

 風はまるでこの地を吹き飛ばさんとするほど勢いを見せる。

 憤る二人と不安そうに見つめる友人の制止を、逃げるように振り切って店を出たリアニとカリスは荒れ狂う空の中を法器()に跨り一直線に駆ける。

 二人は魔力の壁を作り、体の周りを覆ってるため雨に濡れることも雷に打たれることもない。

 「あぁ……まさかリアニちゃんと一緒に仲良くお空を飛べるなんてねぇ。このままどこかへ連れ去って一緒に楽しく暮らしちゃおうかなぁ?」

 「私はまだあなたを許したわけじゃない。冗談はやめて素直に進んでください」

 「はいはい。わかってますよぉ~」


 ミルクヴァットの南方にはノクタルム(夜の森)と言われる森が広がっている。

 鬱蒼とした木々に覆われ、森の中には日の光が届かず、また木や植物、動物に擬態するエンデも多いことから、入ったが最後二度と生きて出られないと言われる地である。

 別名冥界への入り口(グレイブゲート)とも呼ばれるその森はゴスミアの北と南を分断するように広がっているため、同じ大陸に住んでいる者でもその文化や様式は全く異なる。

 またこの森については様々な言い伝えや伝説が語られており、『ノクタルムのどこかにあるとされる財宝を手にしたものは、不死の力を手に入れることができる』や『ノクタルムにはとある部族が住んでおり、その部族が森に入ってしまった人を連れ去ってしまう』、また『ノクタルムには巨大な主が住んでいる』などが古くから信じられている。

 辺りの放浪者や盗族が財宝の存在を信じて森へ入ってしまうことがあるが、その後の彼らの行方は誰にもわからない。


 ストラはカリスが教えてくれたノクタルムという森にいるようで、リアニも確かに目下に広がる森の中からかすかにストラが発した魔力を感じていた。

 「この森にお姉さんが……」

 「いるみたいね。ただ魔力が乱されててどこにいるかまではわかんないね。う~ん……どうしようか? なんとか出てきてもらえないかな?」

 暴雨が降りしきる中、魔力の壁に守られながら二人はストラを見つけ出す方法を考えようとする――。

 その時森の一角で大きな爆発が起こり、その一帯が轟音と共に吹き飛ぶ。

 「あらら……ほんとに出てきちゃったよ。探す手間が省けてよかったねぇ」

 「早くあそこへ連れて行って! なにか嫌な予感がするから!」

 リアニはカリスの後ろ髪を引っ張って彼女を急かす。

 その爆発に乗せられた魔力に、どす黒い負の感情が込められてるのを感じ取ったからである。

 「わかったから引っ張るなって! ……殺すよ?」


   *


 凝縮させた魔力を一気に解き放って起こした大爆発は、周囲の木々を燃やし尽くし、地面を大きく抉る。

 土煙が舞う中、その爆発の中心には一人の人間と何本もの触手を生やした二足歩行の化け物が一定の距離を保って立っていた。

 「はぁ……はぁ……これでも……消せないか……」

 「ハハ……ソレモ……ボクノダ……」

 魔力が尽きかけ、体の数か所に傷を負ったストラは一気に相手との勝負をつけるため、森の一角を吹き飛ばすほどの魔力を思い切り発散させたが、勝負をつけるどころか相手に目立った傷をつけることすらできなかった。

 次の瞬間、いくつもの触手がストラの体を貫かんと一斉に放たれる。

 それを潜り抜けるように避け、その触手の主へと距離を詰める。

 右掌で小さな火球を作り出すと、一気に跳びあがりそれを相手の頭に押し当てるように突っ込む。

 しかしその火球もまた吸収されるように消えると、エンデは眼前に飛び出してきたストラを掴んで投げ飛ばす。

 強烈な勢いで投げ飛ばされ、木に叩きつけられた彼女は、その衝撃に耐え切れず意識を失ってしまう。

 エンデはゆっくりと近づき、とどめを刺そうと触手を構える。

 ――しかしその触手が放たれることはなかった。


 突如辺りの空気が変わり、肌を突き刺すような冷たさにさらされ、ストラは目を覚ます。

 目の前のエンデは全身が氷の結晶の中に包まれていた。

 「師匠~。生きてますかぁ? まあ私としては死んでくれてた方がありがたいですけど」

 その声の主は氷の結晶の裏から姿を見せる。

 「なっ! カリス……! どうしてここに……?」

 「はぁ……そのくだり前にもやったんで。心配しなくても今日は殺しに来たんじゃないんで」

 カリスは両手を上げ攻撃の意思がないことを見せるも、ストラはそれを信じず手を前に突き出して、いつでも魔法が打てるようにする。

 しかしカリスの後ろから出てきた人を見た瞬間、その手は下げられる。

 「お姉さん、久しぶりだね」

 「リ、リアニちゃん!? お店で待っててって言ったのに……それに、なんでカリスと一緒に……」

 ストラはリアニへ近づこうとするも、その足をカリスに凍らされてしまう。

 「クッ! こんなもの……すぐに……!」

 ストラは自分の足を縛るカリスの魔力でできた氷を魔力で打ち砕こうとするも、魔力が尽きてしまっていて何もできなかった。

 「――お姉さん、聞きたいことがあるの。お姉さんは昔、国を滅ぼし、多くの人を殺したのってほんと?」

 いきなりのリアニの問いかけに動揺し、動悸が激しくなり嫌な汗が顔から滴り落ちる。

 答える隙もなくリアニはさらに質問を投げかける。

 「お姉さんは自分が助けた人だけを集めて、あのミルクヴァットの町を作ったのってほんと?」

 「ち、違う! リアニちゃん! 確かにミルクヴァットの町は私が助けた人々の居場所になればと思って作り上げた町ではあるけど、国を滅ぼしたり、人を殺したりなんて……」

 必死に弁明する彼女に容赦することなく、リアニはさらに質問を投げかける。

 「あの正門前にいた人たち、あの人達を町に入れてあげなかったのは本当にエンデが原因なの?」

 「ほ、本当よ! その凍ったエンデが今回の事態の元凶! そいつは人に化けることができるの! リアニちゃんも聞いたでしょ? 村を襲ってきたエンデは女に化けてたって!」

 「ハハッ。こんなにみっともない師匠は初めて見るよ。ありがとう、リアニちゃん。珍しいものが見れて私はとっても愉快だ」

 ストラはリアニの横で笑うカリスを思い切りにらみつける。

 「カリス……! お前がリアニちゃんにデタラメを吹き込んだんだな……!」

 「デタラメも何もすべて本当の事じゃないですか。あなたも私と同じなんですから、いい顔するのはやめましょうよ、ストラ様? いや、”始まりの魔女メフィス様”?」

 カリスがストラを別の名前で呼ぶと、大きく目を見開き、頭を抑えて発狂しだす。

 その声は店でカリスが放ったあの不協和音によく似ていた。

 リアニは耳障りなその音に耳をふさぐも、まるで脳に直接届くようなその音を遮ることはできなかった。

 「うるっさ……癇癪起こすのやめてくださいよ。いい歳したババァが泣きわめいてんじゃねぇよ!」

 カリスはメフィスの口を塞ぐため、彼女の足元を固めていた氷の出力を強めていき、徐々に体全体を凍らせていく。

 首元まで凍らせた瞬間、その氷が一瞬で砕かれ、彼女の身は自由になる。

 その身からは尽きかけだったはずの魔力が溢れ出し、周囲一帯は魔力の霧で覆われる。

 「まじかぁ……ちょっとこれはヤバいかも……」

 メフィスは全力で地面を蹴り、リアニの元へ近づこうとする。

 「リアニちゃん、そいつを信じちゃダメ! 私はストラ! エンデをこの世界から根絶させるために……!」

 「もういいよ、お姉さん……。よくわかった……。もう……いいよ……」


 俯いたリアニは消え入りそうな声でそう呟くと、内から出て来るどす黒い魔力を解き放つ。

 「信じてたのに! 嬉しかったのに! 楽しかったのに!」

 リアニの傍にいたカリスはとんでもない魔力の圧力に吹き飛ばされ、横にあったエンデを凍らせた結晶は中身もろとも粉々に砕かれる。

 メフィスも吹き飛ばされはしなかったものの、身動きが取れないでいた。

 「――もう、お姉さんなんか、嫌い!」

ここまでお読みいただきありがとうございました。




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よろしくお願いいたしやす。

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