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種族

 二人は町のはずれにあるストラがよく訪れる仕立て屋に顔を出す。

 中では大きなうさ耳を生やした店主が機械を使って服を仕立てている最中だった。

 その眼は目の前の機械から逸らすことはないが、独立して動く耳は二人の方へ向けられていた。

 「いらっしゃい……。その足音は……ストラさんと……もう一つは……初めてお客さんだね?」

 「こんにちは、ヘイゼンさん。相変わらず耳がいいね。この子はリアニ。私の大切な友人の子なの」

 ヘイゼンと呼ばれたその女性は、目の前の作業に区切りをつけると機械を止め、顔を二人へ向ける。

 顔と体は人間そのものであるが、頭から生えた大きなうさ耳は、リアニの目を釘付けにした。

 「あっ、リアニです……。よろしくお願いします」

 「私はヘイゼン、よろしくね。リアニちゃん、この耳が気になるのかい? ラパンを見るのは初めてかな?」

 「らぱん……?」

 初めて異種族を見るリアニのために、ストラがラパンについて説明をする。


 この世界には異種族、つまり通常の人間とは違った器官や特徴を持つもの、中には動物の顔と体を持ちながら人間と同じように生活を行う者が存在する。

 その種族はウサギの耳を持つラパン、犬の嗅覚と忠実な心を持つフィデリス、狼のような鋭い目と牙を持つフォルティスなど、多岐にわたるが、その起源についてはあまり詳しく解明されておらず、異種族の子は必ずその親である異種族の特徴を持って生まれてくる程度の事しか分かっていない。

 ラパンはウサギの耳を持つ種族の名前であり、その呼び方は地域によって大きく異なる。

 彼らの特徴は何といってもその大きな耳だろう。

 その耳は手や足などと同様に独立して動かすことができ、その聴力は人間のそれよりも遥かに上回る。

 周囲の音を聞き分けることは勿論のこと、小さな音を聞き分けたり、通常の人間の耳には捉えることのできない周波数の音を聞き取れたりする。

 噂によると、ラパンで最も優れたの聴力を持っていた者は、数十キロ離れた地点の音を正確に聞き分けることができたというが、その真相は明らかになっていない。


 ラパン、そして異種族について簡潔に語った後、ストラは今日訪れるに至った用件をヘイゼンに話す。

 「それで本題なんだけど、ヘイゼンさん、この子用の服を何着か見繕ってくれないかな。魔力はいつもみたいにこっちで組み込むから、それを考慮してくれたものだとありがたいんだけど……」

 ストラの注文を聞いたヘイゼンはあごに手を当てて唸り始める。

 そのまま奥の部屋へ消えて行ってしまうと、リアニが着れそうな服を何着か抱えて出てくる。

 「今あるのはこのくらいだけど……もっといい物をってなると新しく作らないと無いね。ストラさんぐらいのサイズなら要望に応えられるものは何着もあるんだけど……。この町の子供は魔力を組み込んだ服なんて着ないから、用意が少ないんだ……」

 「そりゃそうだよね……大丈夫、ありがとね。どれどれ……」

 ストラはその服を受け取ると、それへ自分の魔力をほんの少しだけ流し込んで、その変化を見る。

 その魔力は一瞬服になじみかけるも、すぐに霧散してしまう。

 全ての服で試したが、ストラが満足できるものは一つもなかった。

 「んん~……ごめん、新しく作ってもらうことになりそう。とりあえず新しい服ができるまでの繋ぎとして、何着かもらっていくね。リアニちゃん、どれがいい? 好きに選んでもいいし、全部でも大丈夫だよ」

 リアニは服で自分を着飾るなんてことは、今までに一度もしてこなかったため、服をどう選べばよいか分からず、結局すべてストラに任せてしまった。

 「リアニちゃんは可愛いから、何着ても絶対に似合う!」と言いながら、ヘイゼンが持ってきた服をすべて購入した。

 それに次いで、自分の服も選びだしたため、ヘイゼンはその間にリアニの体の寸法を採っていく。

 リアニの体の大きさはこの町の同年代の子供と比べると少々低めだった。

 フェリステアとこのミルクヴァットの食生活の差は比べるまでもなく、村人たちが分けてくれていた食料も、食い繋ぐには十分であっても、成長に必要な分の栄養素が十分に摂れるかと言わると、そうとは言えないほどの量であった。

 その中でメルティスは、何とか捻出しようとエンデが蔓延る危険な大地で、少ない動物を狩ったり、自分の量を減らしたりして、少しでも多くリアニが食べれるようにと努力していたのである。


 リアニの体の寸法を採り終えたヘイゼンはストラにその旨を伝える。

 それを聞いたストラは、腕に抱えた自分用の服の会計を済ませる。

 二人は一つずつ自分の服が入った紙袋を持つと、ヘイゼンの店を後にして町の大通りへ歩く。

 「お姉さん、ありがとう。いつか絶対にお礼するね」

 「いいんだよ、リアニちゃん。リアニちゃんが幸せそうに生きてくれたら、それで十分。そのためなら私が何でもやってあげるから、遠慮なく言ってね」

 そう言ってリアニの頭を撫でると、二人は顔を合わせて微笑みあう。


 しかしストラのその微笑みの中にほんの一瞬、言いようのない何かが影を落とした。

 それをリアニへ悟らせまいと、すぐに優しい表情へ強引に戻すも、自分の手がかすかに震えていることに気づく。

 自然と頭を撫でるのをやめるように見せかけて、その震えに気づかれないようにと荷物を持ち替える。

 「さあ、行こっか。今日はエルちゃんと沢山お喋りしたいもんね」

 リアニは無邪気に頷くと、再び歩き出す。

 その足取りは軽く、毎日のように見せていた辛い涙の跡はもうどこにもなかった。

 一方でリアニを追うストラの足取りはどこか重く、その眼はいつもよりも潤んでいた。


 大通りは昨日と同じように、人で溢れかえって賑わっている。

 リアニは昨日は自分のことで精一杯だったので気づかなかったが、この町にはヘイゼンのような異種族もたくさん住んでいて、当たり前のように暮らしている。

 大きな声を上げて客を呼び込むフォルティス、人間と仲睦まじく食べ歩きを堪能するフィデリス、ヘイゼンのような耳を持ちそれをぴょこぴょこと動かすラパンなど。

 それ以外にもストラに教えてもらっていない種族の人が、この大通りの賑やかさを楽しんでいる。


 二人は行き交う人の流れに乗ったり掻き分けたりして、ようやく店の前に到着した。

 慣れない人の多さにリアニは少し疲れてしまったようで、少しふらついている。

 二人が店に入ると、昨日と変わらない「いらっしゃいませ!」という元気な声が出迎える。

 昼ご飯時ということもあり、店内は客でいっぱいで開いている席はなかった。

 ただ接客をしていたのはミシェルではなく、彼女に似た女性だった。

 「申し訳ありません、お客様。ただいま満席でございますので……ってストラ様! ごめんなさいね、今席が開いてなくって……もうちょっとで開くと思うので、ここでお待ちいただけます?」

 「わかりました。リアニちゃん、もうちょっとだけ待ってよっか」

 リアニはコクッと頷くと、会計カウンターの近くにある待機用の椅子に腰かける。

 ストラは待っている間、会計をしに来た客の何人かに話しかけられる。

 「ストラさん! あなたもここに来るんですね!」

 「ストラ先生! 今度魔法を教えに来てくださいね!」

 「ストラちゃん! 帰ってきてたなら教えてよぉ! また今度一緒にお話ししよ!」

 彼らに笑顔で対応する彼女の姿は、リアニの目にはとても輝いて見えた。


 しばらくしてようやく席の準備ができたようで、先ほどの女性が二人の元へやってくる。

 「ほんとにお待たせして申し訳ないです! あちらの奥の席にどうぞ!」

 二人は案内されたテーブル席に荷物を置いて腰を下ろす。

 「今日は別のおすすめをリアニちゃんに食べさせてあげるね」

 ストラは忙しなく働く店員を呼ぶと、「ハンバーグとパンにお水を二つずつで」と注文を済ませる。

 「ハンバーグとパンですね! ごめんなさい、ちょ~っと時間かかるけど大丈夫です?」

 「大丈夫だよ、急いでないからゆっくりやってもらっていいよ」

 その店員は救われたような表情でストラにお礼を言うと、キッチンへ注文を伝えに行き、またすぐ接客の仕事に戻る。


 その注文の品が出てきたのは、店の中の客が少なくなり、少し落ち着いてきたころだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。




ブックマーク登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどります。


よろしくお願いいたしやす。

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