【65話】氷◾️罰と償い
◾️◾️氷歌視点◾️◾️
ゼル様に教えて頂いた場所に着くと
真っ暗な森の中に隠されたようにある洞窟あった
【氷歌】
「・・・・・・・・」
優しく肌をなでるような風に運ばれ
鼻を覆いたくなるような生臭い血の臭いを感じた
【氷歌】
「・・・・・・・・」
ゆっくりと中に足を向けると
壁に付けられた蝋燭に照らされ
床、壁、天井は
侵食するように血肉が飛び散っていた
【氷歌】
「・・・・・・・・」
足元に広がる切り刻まれたような焼かれたような人間の肉がまとっている服に目を向けた
・・・ルルーカ軍の服はない
・・・という事は、この遺体はここを住処にした組織のものだろう
・・・状況を見る限り、すでに制圧されてる?
【氷歌】
「・・・・・・・・」
踏み荒らされた血肉をできる限り避けながら先に進んだ
【氷歌】
「・・・・・・・・」
物音に誘われるように薄暗い道を進むと
天井に付けられたライトの弱い灯りの中、ルルーカ軍の制服を着ている人が数人見えた
「・・・氷歌?」
その中の一人の男性が私の名を呼んだ
メガネをかけた幹部様だ
【氷歌】
「・・・遅くなってすみません・・・鷹様はどちらにおられますか?」
幹部に軽く頭を下げ尋ねた
【幹部】
「・・・ここの指導者であろう人物を追っている」
私の問いに視線をそらしながら答えてきた
その視線を追うよう目の前の部屋の中へと目を向けた
【氷歌】
「・・・・・・・・」
その中にはかすり傷一つない数十人のルルーカ軍の姿と
【氷歌】
「っ・・・・!」
息を呑むような得体の知れない物体
それを見た瞬間、自分の心臓が激しく音を立てたのが聞こえた
【氷歌】
「・・・なっなんですか?・・・あれはっ」
頭痛がするような自分の脈の音を聴きながら身震いを抑えるように体を抱き尋ねた
【幹部】
「・・・人間・・・いや・・・元は一人の人間だった生き物だ」
部屋の中心には巨大な肉の塊
いや、正しくは
無数に縫合された数十体の男と女の胴体
手、足の切り離された数十体の胴体が、皮膚が剥がされた様々な部分を結合するように縫合され一つの塊のようになっていた
その目と口はもう2度と光を見ることも、食事を取ることもであろう縫い目があった
体の縫合部分から腫れ上がる様にはみ出た肉は
肉そのものが生きているかのように脈をうっている
・・・つまり
【氷歌】
「・・・・・っ」
・・・この手足を失い結合された人達は
・・・まだ生きてる?
【氷歌】
「・・・・・っ!」
常軌を逸したその光景は脳にまで達するような恐怖を私に与え
生臭い匂いに刺激されて口に溢れ出してくる液体を必死に抑えた
【幹部】
「・・・魔力を持っていない肉体に魔力ある肉体を結合させ・・・魔力を伝達させる為の実験・・・遥か昔に禁止された人体実験だ」
・・・魔力の無い人間に魔力を伝達させる?
・・・だから、生きたままの人間を繋ぎ合わせてるって事?
【氷歌】
「っ・・・なんで・・・そんな事っ」
恐怖か呆れか、自分でも分からない震えを抑えながら言葉がもれた
理解しようにもできない
何故そこまでして魔力の無い人間に魔力を持たせたいのか
何故、そんな事の為にこんなイカれた実験をするのか
・・・どうして、こんな事が出来るのかも
【幹部】
「・・・あって当たり前だと思っている人間がいるからだ・・・自分が持っているから当たり前・・・持ってない無いのはおかしいとね」
そんな私の言葉に答えるように静かに言葉を続けた
【幹部】
「・・・魔力が無いのは一種の病気だと思い込んでいる人間も居れば・・・魔力の無い人間を同等の人間だと思ってない人間もいる・・・魔力の無い人間を奴隷として使っている国もあれば・・・魔力の無い人間は生まれながらに呪われていると赤子のうちに葬る国もある」
・・・話しくらいには聞いた事はある
・・・周辺国ではみられないが、宗教的信仰が根付いた孤立国では魔力の無い人間に対しての非道な差別が決して珍しい事では無いと
【幹部】
「・・・そんな、生まれながらに差別を受ける人間を救う為・・・それが、この実験の目的だ」
・・・救う為?
つまり、魔力無い人間に魔力を持たせる事ができれば、魔力の有無による非道な差別が無くなる?
だから、この実験は魔力の無い人間を救う為の実験?
【氷歌】
「っそんなのおかしいです!」
自分の頭で整理した考えに怒りが湧き、反論するように声を上げた
【氷歌】
「魔力の有無による差別を無くす為だとしても!こんな狂った実験で沢山の人を犠牲にしたら意味無いじゃないないですか!救うなんて言葉は間違っていますっ!」
【幹部】
「・・・そんな怒鳴らなくても聞こえる・・・もっと静かに話せ」
思わず怒鳴りつけるように言葉を返した私に呆れた様子で注意をされた
【幹部】
「・・・もちろん、救う為の実験なんて思っていない・・・だからこそ、人体実験は世界で違法とされたんだ」
そう言って、廊下に散らばった肉片に目を向けた
【幹部】
「・・・だが、この組織の人間は自分たちが正義だと思いこんでいる・・・魔力の無い人間の未来に繋る実験、自分たちが神に与えられた使命だと」
・・・魔力の無い人間の未来に繋る実験
・・・もし
・・・仮に
・・・その実験が成功すれば
・・・魔力の無い人間にも魔力が宿り、魔法が使えるようになる
【幹部】
「・・・それに反対する私たちは、新たな魔力保持者の誕生に驚異を感じ、魔力での格差が無い世界を拒み、自分たちが優位の世界を守ろうとしている悪人だと思い込んでるようだ」
・・・この実験でどれだけの犠牲が出ようとも
成功さえすれば、新たに手に入った力に歓喜する人々がいるのだろう
・・・そして、創設者は神と崇められるのかも知れない
そうなれば、それに反対し、阻止しようとした私たちは
・・・どう評価されるだろうか?
【幹部】
「・・・時々、自分が本当に正しいのか分からなくなるよ」
突然、思い悩むように小さく呟いた
【幹部】
「・・・私がいる立場から見れば、彼らは悪人だ・・・でも、彼らからすれば私たちが悪」
そう言って、闇が支配する廊下に目を向けた
そこには、まだ温もりが残っているであろう血肉が廊下を染めるように散らばっていた
【幹部】
「・・・彼らが数え切れない人間を殺していたとしても・・・私たちも同じ数の人間を殺している」
【氷歌】
「っ・・・でも、私たちは無闇に人を殺したりしない!・・・同じ命を奪う行為でも、そこにある意味が違います!」
何かに取り憑かれたように静かに語る幹部の言葉に反論するように自分の意見で返した
【幹部】
「・・・なら・・・彼らの命を奪う意味はなんだ?」
そう言ってゆっくりと私に目を向けた
【幹部】
「・・・彼らが死ななければいけない意味はなんだ?」
静かに遠くを見通すような目で尋ねて来る姿に少し恐怖を感じた
・・・どうしたのだろうか?
・・・いつもの、この人とは少し雰囲気が違う気がする
【氷歌】
「・・・償いだと思います・・・自分の願望を満たす為に人の命を奪った罰ではないでしょうか?」
その姿に少し警戒をしつつ自分の言葉を告げた
【幹部】
「・・・償いに罰か・・・そうかも知れないな」
そんな私に言葉に心のこもっていないような納得の言葉を返し
【幹部】
「・・・だとすれば・・・いつか我々も、その罰を受け、償う時が来るのだろうな」
そう言う声は少し笑っているように聞こえた
【幹部】
「・・・ならば、それまで私は私の信じた道を進もう」
【氷歌】
「・・・・・・その道とは・・・なんですか?」
静かに呟いた幹部に少し不信感を感じ、隠す事なく尋ねた
・・・なんとなく
・・・今のこの人は危ない雰囲気も感じた
【幹部】
「・・・・・・ゼル様だ」
ゼル様の名を口にした時、少し表情が和らいだ気がした
【幹部】
「・・・あの方が歩む道・・・それが私の信じる道だ」
強い意思を感じる言葉を告げる声からは揺るぎない忠義を感じさせ
発していた危ない雰囲気が消え去った気がした
【氷歌】
「・・・・・・・・・」
・・・人の死を目の前で見て人の死を感じる道
そんな道にいる人間でも、今のこの状況は心に迫り来るものがあり
深く考えさせられるのだろう
今のこの人の様子を見ていたら、そう思う他なかった
・・・だとすれば
【氷歌】
「・・・・・・あの・・・鷹様はどちらですか?」
・・・こんな場所にお一人でいらっしゃるであろう鷹様の身が心配になった
【幹部】
「・・・奥の階段を上った上階にいらっしゃるだろう」
【氷歌】
「・・・分かりました」
疲れたように返して来た幹部に軽く頭を下げ、避けるように廊下を駆け出した
【幹部】
「待て!」
が、すぐに声を上げ止められた
【幹部】
「・・・行くつもりか?・・・お前はあの方に殺されかけたんだぞ?・・・打ち所が悪ければ命を落として可能性もあるんだ」
少し戸惑ったようにも聞こえる声で尋ねて来た
・・・確かに
・・・怖く無いと言えば嘘になる
・・・あんな至近距離で攻撃を向けるなんて
・・・本気で殺そうとしていたとしか思えない
・・・でも
【氷歌】
「・・・平気です、私そんなに弱くないですから」
・・・もし、また攻撃をされたとしても
・・・死なないように耐えれば良いだけ
・・・簡単な事
・・・私には、それができるんだから
【幹部】
「・・・あの方に選ばれただけはあるな・・・変わった奴だ」
そんな私を少し呆れたように笑った
【幹部】
「・・・組織の人間は全員、人とは思えぬ言動だったようだ・・・おそらく、事前に察知され薬物で脳を破壊されたのだろう・・・だから、鷹様は身を守る為にも処刑と言う形を取った」
そう言って私に目を向けた
【幹部】
「・・・これ以上非道な研究をさせる訳にはいかない・・・なにを犠牲しても指導者を生け捕りにしろ・・・必ず、その口から核を吐かせるんだ・・・この者たちの死と鷹様の罪を無駄にしない為にもな」
怒りを込めた言葉で私に告げた
【氷歌】
「・・・分かりました」
その言葉を真から受け取り深く頭を下げ
鷹様の姿を探し足早に上階を目指した




