【63話】氷◾️くまと黒ねこ
◾️◾️氷歌視点◾️◾️
真っ暗な森の中の木々の隙間を抜けると開かれた場所に出た
その場所を照らす大きな月に目を向ける
【氷歌】
「・・・・・・・・」
・・・上手くいかない
・・・頑張ってるはずなのに結果が出ない
・・・やっぱり、私には向いてないのだろうか?
・・・でも
【氷歌】
「・・・私は悪くないよね?」
・・・私はしっかり鷹様の話しを聞いた
・・・その上で、鷹様を支えようとしただけ
・・・少しでも鷹様の為になればと思っただけなのに
・・・いきなり、火が付いたように不機嫌になるなんて
【氷歌】
「・・・・・・お兄ちゃん」
・・・もう
・・・疲れちゃったし
・・・帰ろうかな
【氷歌】
「・・・・・・・」
その時、背後に気配を感じ振り向いた
そこには、木の陰からこちらを覗く
・・・茶色いくまの着ぐるみ
【くま】
「・・・・・・・・」
くまは少し怯えたようにゆっくりと私に向かって来る
【氷歌】
「・・・・・・来ないで」
そのくまに言葉を向けた
【氷歌】
「・・・それ以上、近づくと・・・逃げたくなる・・・私、もう少しここに居たいの」
【くま】
「・・・・・・・・・・」
私の言葉にくまは足を止め
【くま】
「・・・・・・・大丈夫?」
見た目に似合わない男の声で話しかけてきた
【氷歌】
「・・・・・・お前の代わりはいくらでもいるって言われた」
そんなクマに深く考える事なく言葉を告げた
【氷歌】
「・・・最悪でしょ?・・・技能者にとっては一番の侮辱よね」
【くま】
「・・・・・・・・・・」
【氷歌】
「・・・もうやってらんないから・・・やめようと思ってる」
【くま】
「・・・いいと思う」
ずっと黙っていたくまが小さく言葉を発した
【くま】
「・・・それで君が楽になるなら・・・それがいいと思う」
「・・・お前にアイツを避難する資格は無い」
くまの言葉に続くように苛立ったような男の声が響いた
「・・・お前はアイツになにを求めてるんだ?」
その声の主は森の中から姿を見せた黒ねこの着ぐるみだった
【氷歌】
「・・・・・・っ」
でも、その姿より言葉に戸惑った
【氷歌】
「・・・なに?・・・どういう意味?」
・・・私にはその意味が分からない
【黒ねこ】
「・・・自分の不安を消し去ってくれるような優しい言葉を向けて欲しいのか?・・・恋人のように居心地よくいさせてくれる気遣いをかけて欲しいのか?」
戸惑う私を馬鹿にするような言葉で返してきた
【氷歌】
「・・・そんな事、思ってないわよ!」
そんな男の言葉に苛立ちをぶつけるように怒鳴り返した
【黒ねこ】
「・・・なら、何故アイツの思ったままの言葉を避難する?・・・お前の求める言葉ではないから、ではないのか?」
静かで落ち着いた言葉で返してきた
【氷歌】
「・・・違う」
そんな男から少し視線をそらし、小さく言葉を返した
【氷歌】
「・・・私じゃなくても・・・みんな思うと思うわ・・・酷すぎるでしょ?お前の代わりはいくらでもいる、なんて」
・・・そう、これはきっと大多数の人がそう感じると思う
・・・私が悪いんじゃない
【黒ねこ】
「・・・なら・・・教えてくれるか?」
私の言葉に少し苛立ったように声発し
【黒ねこ】
「・・・お前がアイツになにを与えたのかを」
真っ直ぐに私に視線を向けて問いた
【黒ねこ】
「・・・お前はアイツになにをしてやった?・・・アイツの求める事をしたのか?・・・お前が必要だと言わせるような事をしてやったのか?・・・他の人間には無いお前の魅力はなんなんだ?」
【氷歌】
「っ・・・・・・・・」
畳み掛けるような男の言葉になんて返したら良いのか分からなかった
・・・いや、返せなかったのかもしれない
・・・その問の答えが私には思いつかなかったから
【氷歌】
「・・・・・・・・・」
・・・私は
・・・鷹様になにをしてあげただろうか?
・・・他の者には無い、私にしか無い魅力はどこだっただろう?
・・・鷹様は私になにを求めていただろうか?
【黒ねこ】
「・・・アイツの言葉は間違ってない、アイツの技能者と言う名誉に群がる技能者はいくらでもいる・・・アイツにとってはお前もその一人だと感じただけの話だ」
なにも答えない私に苛立ったように言葉を告げ、背を向けた
・・・そして
【黒ねこ】
「・・・自分にとっての無二になって欲しいと押し付ける割に・・・自分は相手にとっての無二になろうとはしない・・・そんなお前にアイツを避難されたくない」
憎しみを込めるような言葉を残し、黒ネコは暗い森の中に入って行った
【氷歌】
「・・・・私は鷹様を避難なんてっ」
そんな黒ネコに言い返そうとした
・・・でも
【氷歌】
「・・・・・・・」
・・・私は鷹様を避難してないと断言できるのだろうか?
・・・私は本当に鷹様を避難してなかっただろうか?
・・・私は一瞬でも鷹様をおかしいと思わなかっただろうか?
【氷歌】
「・・・・・・っ」
・・・あの秘書と同じように
・・・今の私は手のひらを返したように鷹様を避難しているのではないだろうか?
【くま】
「・・・えっと・・・普段はあんな事言う奴じゃないんだけど・・・ちょっと今日は・・・なんか機嫌が悪いのかな?・・・ごめんね」
視線を下げた私に口早に言葉をかけ、慌てたように黒ネコの後を追い始めた
【氷歌】
「っ待って!」
が、そんなクマに声をかけた
そんな私にクマは足を止め、視線を向けた
【氷歌】
「・・・最後に・・・一つだけ・・・教えて欲しいの」
・・・知ってる確証なんてない
ただ・・・聞かなくてはいけない気がした
【氷歌】
「・・・ルナと言う少女を知ってる?」
・・・この人たちだけが本当の鷹様を知ってる気がするから
【くま】
「・・・・・・・・・」
私の言葉にクマは少し頭を下げ
【くま】
「・・・・・・俺は知らない」
つぶやくように小さく言葉を返してきた
【くま】
「・・・でも」
そして
【くま】
「・・・俺が契約したいと思ってる人も・・・ずっと、その子を待ってる」
静かな言葉ではっきりと告げた
【氷歌】
「っ・・・・・・・・」
そんなクマの言葉に息が止まった気がした
【氷歌】
「・・・それならっ・・・鷹様は」
・・・やっぱり嘘なんてついて無かった?
・・・鷹様の言葉は全部真実だったって事?
【くま】
「・・・俺が言うのもなんだけど・・・鷹は嘘つくような奴じゃない」
戸惑う私の心を読むように言葉を続けた
【くま】
「・・・アイツはお世辞や気遣いとかでも嘘を言わない奴じゃん・・・それは周囲にいる人間が一番分かってるんじゃないの?」
・・・そう、鷹様はいつも自分の意見を
・・・本当に自分が思った事を嘘偽りなく言葉にされる方だった
・・・その言葉で相手が自分をどう思うかなんて考えず
・・・ただ、自分の気持ちを言葉にしていた
【くま】
「・・・それなのにさ・・・アイツの純粋な部分だけを嘘つき呼ばわりして攻めるの止めてやってよ・・・別に悪い事じゃないじゃん・・・行方不明の友達の帰りを待ってる事はさ・・・むしろ、存在したのに存在を認めない、そっちの国の方が気持ち悪い」
そう言って少し苛立ったように言葉を発し
【くま】
「・・・俺たちから見ると・・・国ぐるみで鷹を異常者扱いにして、みんなで虐めてるようにしか見えないよ?」
【氷歌】
「っ私はそんな事・・・・」
・・・思ってない?
・・・私は本当に思って無かっただろうか?
【氷歌】
「っ・・・・・・・!」
・・・私は
・・・あの真っ白に染まった瞬間
・・・どんな目で鷹様を見ていたのだろう?
・・・本当に怯えていたのは
・・・鷹様に睨まれた私じゃなく
・・・信じてもらえなかった鷹様だったんじゃないだろうか?
【氷歌】
「・・・・・」
・・・いや
・・・あの時の鷹様は
・・・本当に私を睨んでいただろうか?
【氷歌】
「っ!!」
クマをその場に残し、真っ直ぐに真っ暗な森を走り出した
・・・謝らなくちゃいけない
・・・信じてあげられなかった事を
・・・鷹様の期待に答えられなかった事を
【氷歌】
「バカ!バカバカバカバカ!!!!」
自分の愚かさに腹が立ち、森を走りながら声をあげた
・・・少し考えたら分かった事
・・・鷹様は少女が誘拐されたのを見た人物の名を言えなかったんじゃなく
・・・言いたくなかったんだ
・・・鷹様の言葉通り
・・・その人物が、あの人だから
・・・敵と評している、あの竜輝と言うなの男だから
・・・そして、その人物がルルーカと対立しているヴィザールの人間だから
・・・それを言ってしまえば、更に避難される事が分かっているから
・・・ルルーカにはルナを知る人物は居ないと聞いた時点でルルーカ以外の人間だと気づけた事だったのに
・・・私はそれに気づいてあげられなかった
【氷歌】
「・・・・わたしはっ」
・・・あの男の言葉通り
・・・私は鷹様に一方的に多くを求めてた
・・・慰めの言葉を無意識に求め
・・・私の力を信じて欲しいと求め
・・・強くあって欲しいと理想を求めた
・・・それなのに私は
・・・自分が求められる側になったら
・・・それを拒否したんだ
【氷歌】
「・・・最低っ」
・・・私も他の人と同じ
・・・なにも知らずに、ただ目の前にある言葉だけで全てを知った気になってる
・・・多数派の意見に流されるだけ
・・・それだけで、自分は正しいと思い込んでた
【氷歌】
「・・・本当にバカっ」
・・・そんな自分が
・・・他の人間となにも変わらない私が
・・・鷹様にとっての特別な人間になれるはずがなかったんだ




