【38話】氷◾️達成感
◾️◾️氷歌視点◾️◾️
【鷹】
「・・・んじゃ~、なにが良いと思う?」
話が決まったところで鷹様が笑顔で訪ねてこられた
・・・食事の支援か
・・・私ならなにが嬉しいだろう?
【氷歌】
「・・・ステーキですかね?」
【鷹】
「・・・いや、ステーキはちょっと衛生問題とか色々ありそうだから微妙かな」
私の返答に苦笑いで返された
【氷歌】
「・・・では、お菓子などはどうでしょうか?」
路上生活者には子供が多く見られた
子供が一番喜ぶのはチョコなどの菓子類だろう
【鷹】
「ん~・・・ちょっと子供に視点を向けすぎかな、子供だけじゃなく、大人もいるからな、そもそもお菓子は食事には当たらないだろ」
更に苦笑いで返されてしまった
【鷹】
「でも、お菓子を配るのも悪くないね、メインじゃなくオマケとしてだけど」
そう言って少し楽しいそうな笑顔を見せた
・・・今日一日お供させていただいたが
・・・鷹様は本当によく喋り、よく笑うお方だ
・・・正直、初めてお会いした時とは全然印象が違う
・・・もっと、怖い方かと思っていたから
・・・まぁ、初めてお会いした時みたいに毎回殴られたらたまらないから良い事なんだけど
当然、屋敷の扉が開き、姿を見せたのはメガネの男
・・・さっき、散々私を怒鳴りつけた上層幹部だ
【幹部】
「・・・氷歌、秘書を解雇にしたらしいな」
そして、低い声で私に話しかけてきた
【氷歌】
「っはい・・・ちょっと、不適切だと思いましたので」
慌ててかけより視線を下げながら言葉を返した
【幹部】
「・・・後任も決めず、仕事の引継ぎもせずに・・・私からしたら、お前も不適切だと思うが?」
睨みつけるように叱りの言葉を向けられた
【氷歌】
「・・・後任に関しては私が務めます・・・引継ぎは・・・解雇した秘書がいなくとも残った資料で可能かと」
【幹部】
「・・・謝罪が先だろう?」
私の言葉を塞ぎ言葉をはさんできた
【氷歌】
「・・・勝手な行動をとって申し訳ありませんでした」
男の言葉に深く頭を下げ、謝罪した
【鷹】
「ん~?なんに関しての謝罪なんだよ?」
私たちのやりとりに鷹様が不思議そうに声を上げた
【幹部】
「・・・勝手な行動をとった事にですよ」
そんな鷹様にため息混じり返している
【鷹】
「俺が良いって言ってんだからお前に謝る必要ないだろ?後任だってそいつがやるって言ってんじゃん」
【幹部】
「・・・組織に属する者の最低限の決まりがあるのですよ、事を動かす前に上司に許可をとる、当然の行動でしょう?」
【鷹】
「・・・はぁ?こいつは国英軍じゃなければ使用人でもないだろ?いつからお前がこいつの上に立ったんだよ?」
幹部の言葉に鷹様の様子が一気に不機嫌なものに変わり
【幹部】
「・・・では、この者が正式にあなたと契約されたら、私はこの者の下になる、と言う事でしょうか?」
そんな鷹様の言葉に幹部も苛立ちを押し殺すように返している
【鷹】
「少なくともお前の下に位置する事はないんじゃない?俺の技能者なら、その行動は俺の意思だろうしね?」
【幹部】
「・・・・・・・・・」
笑いながら返した鷹様の言葉に怒りを抑えるように押し黙り
【幹部】
「・・・鷹様に使えるのなら、お前の言動がそのまま鷹様の評価に繋がる事をよく覚えておけ」
睨みながら私に言葉を告げ、出て来た扉の中へと入って行った
・・・恐ろしいわ
・・・どうやったらあんな怖い顔ができるかしら?
【氷歌】
「・・・すみません、私のせいでご面倒をかけて」
とりあえず鷹様に謝った
・・・私のせいで険悪な雰囲気になったのは間違いないだろう
【鷹】
「・・・別にいいんだけどさ~、もっと、ビシッとできない?なよなよしてるから舐められるんだよ」
そんな私に不愉快そうに叱られてしまった
【氷歌】
「・・・すみません」
・・・そう言われても、少し難しい
・・・鷹様は私は下ではないと言って下さったが
・・・あの方と私の立場では違いは明白だ
・・・さすがに上層幹部のあの方に言い返す事などしてはいけないだろう
【鷹】
「ん~・・・お前ってそーゆーとこはつまんないよね~」
そんな私に残念そうにため息をつかれた
【鷹】
「んで、どこまで話したっけ?」
そう言って改めて報告書に目を向けている
【氷歌】
「・・・・・・・・・」
それに少し驚いた
・・・報告書にはいつの間にかびっしりと文字が書かれていた
・・・鷹様はしっかりと私のとの会話を文字にまとめ記していらしたんだ
【鷹】
「やっぱり、一番良いのはパンかな?保存も効くし、運送にも囚われないしな」
【氷歌】
「・・・炊き出しなども行ってはいかがでしょう?」
そんな鷹様を改めて尊敬しながら提案した
【氷歌】
「その街でしっかり調理したお肉なら問題ないですよね?」
【鷹】
「・・・お前ってそんなに肉が好きなのか?」
私の提案に少し笑いながら返された
・・・私的には、やはりお肉が一番だと思ったのだが
【氷歌】
「・・・鷹様はお嫌いですか?」
その言葉に少し戸惑いながら返した
【鷹】
「いや~、別に嫌いじゃないけど、やけにこだわるな~と」
【氷歌】
「・・・お肉を取らないと元気が出ないのではと思いまして」
・・・いくら空腹を満たしても
・・・やはり、肉を摂取しなけば体力が回復しない気がする
【鷹】
「まぁ、それも一理あるかな?炊き出しなら大人も子供も喜ぶだろうしね」
私の言葉に笑いながら納得されたようだ
まとめる文を考えるように文字に記し始め
【鷹】
「・・・どこまで支援できるかは分からないけど・・・少しでも変わるといいな」
その手を止める事なく小さくつぶやいた
【氷歌】
「・・・そうですね、少しでも街が活気づいてくれたらいいですね」
その言葉に静かに返したが
【鷹】
「ん?ん~、街はそう簡単には変わらないと思うね」
苦笑いで返されてしまった
・・・鷹様のつぶやきは街に向けてのものでは無かったのだろうか?
【氷歌】
「・・・街以外にはなにが変わるのでしょう?」
答えが見つからず、少し遠慮がちにお尋ねした
【鷹】
「・・・世界だよ」
そんな私の問いに少し笑いながらお答え下さった
【鷹】
「・・・街に住む誰か一人の世界だけでも変わってくれたら・・・この支援に価値が生まれるからな」
小さくつぶやくように告げた鷹様の言葉には願いを込めるような想いを感じた
・・・その人から見える世界か
・・・あの街で路上に座り込む人から見える世界は
・・・一体、どんな世界なのだろう?
・・地面に座り込んで見上げる高いビルは
・・・その人の目には、どんな風に映っているのだろう?
【氷歌】
「・・・・・」
・・・その世界に産まれ、生きる子供は、チョコレートの甘さを知り、アイスの冷たさを知っているだろうか?
・・・おもちゃで遊ぶ楽しさや、本で得る知恵を感じた事はあるのだろうか?
【鷹】
「・・・街自体もゆっくりだけど変わって行ってくれるといいな」
・・・ここから始まる私たちの支援は、そんな大した事ではないかも知れない
・・・でも、例えどんな小さな事でも
・・・もしかしたら
・・・誰かの世界を大きく変えるのかもしれない
【鷹】
「・・・ん~・・・こんなもんかな~」
少し疲れたようにペンを置いた
【氷歌】
「お疲れ様です」
【鷹】
「・・・うん・・・疲れた」
私の言葉に続くように返し
【鷹】
「んじゃ、後よろしく!」
そう言って席を立たれた
【氷歌】
「え?」
【鷹】
「それを、さっきの奴に渡しといて~」
突然の言葉に戸惑う私に流れるように言葉を続けた
・・・さっきの奴、と言うのは
・・・私が一番苦手な幹部様のことだろうか?
【鷹】
「俺は他のやらなきゃいけない事が沢山あるんだよ~、それくらい一人でできるだろ?」
返事を返さない私に呆れたように言葉を続けた
・・・もちろん、それくらいなら私だけでもできることだ
・・・でも、あの人から文句を言われない事はないだろう
・・・もしかしたら、揚げ足を取るような、いちゃもんをつけられるかも知れない
【氷歌】
「・・・・分かりました」
色々考えて気分が重たくなりつつも返事をした
【鷹】
「じゃ~、俺は部屋にいるから」
そう言って鷹様は屋敷の中に入って行った
【氷歌】
「・・・・・はぁ」
報告書を手に目を通しながらため息をついた
・・・でも
【氷歌】
「・・・・・・綺麗」
報告書に記された鷹様の字は男性らしさを全く感じない
びっくりするくらい美しく整った文字だった
【氷歌】
「・・・・・・・・」
・・・今日の初任務は色々あったけど
・・・鷹様と会話をしながら作成したこの報告書を見ていると
【氷歌】
「・・・・・・・・」
・・・なんだか、嬉しく感じた
・・・いや、この感情は嬉しいとはちょっと違う気がする
・・・この感情を言葉にするなら・・・達成感かな?
【氷歌】
「・・・よし!」
自分に気合を入れるように屋敷に入った
・・・この報告書を手にとったら重たい気持ちが一気に吹っ飛んだ気がした
・・・でも
・・・廊下の先に見つけた幹部の姿に一気に胃が痛くなった
【氷歌】
「・・・・・・ふぅ」
少し、自分自身に呼吸をさせ
【氷歌】
「・・・お疲れ様です」
声をかけながら近づき頭を下げた
【幹部】
「・・・なんだ?」
そんな私に少し疲れた様子で返してこられた
【氷歌】
「・・・今日の報告書とそれに伴う提案書を作成しました」
他にも言葉をつけた方が良いのか悩んだが
・・・最低限の言葉を告げ、報告書を渡した
【幹部】
「・・・・・・・・」
私から受け取った報告書を無言でチェックしている
・・・どっか粗がないかチェックしているのだろうか?
・・・一体どんな文句を言われるだろう?
【幹部】
「・・・・・・・・」
報告書をチェックし終わった幹部は小さく息を吐き
【幹部】「・・・問題ない」
静かに言葉を告げた
【氷歌】
「・・・え?」
身構えていた私はその言葉に少し戸惑ってしまった
【幹部】
「・・・なんだ?」
【氷歌】
「い、いえ!何でもないです」
・・・てっきりいちゃもん付けられると思ったのに
・・・どうしてなにも言って来ないのだろう?
【幹部】
「支援の準備は私の方で進めておく、明日の朝には用意させるよう手配しておこう」
【氷歌】
「・・・はい、お願いします」
特に刺も感じない言葉をかけて来る幹部に頭を下げた
【幹部】
「・・・本当に分かっているのか?・・・つまり、明日の鷹様の予定が変更になったと言うことだからな?」
軽く答えた私に少し呆れたような目線を向けてきた
・・・そうか
・・・早急な支援が必要だから
・・・明日の鷹様の予定は急遽支援への派遣となるのか
【氷歌】
「もちろんです!鷹様にお伝えしておきます!」
分かってた感を出しつつ返事を返した
【幹部】
「・・・頼むから、お前が原因で鷹様の評価を下げる真似だけはするなよ」
そんな私に呆れたように言葉をかけ、廊下を歩いて行った
【氷歌】
「・・・・・・・・」
・・・そうよね
・・・私は秘書でもあるんだから
・・・もっと細かな確認と確実な報告を心がけないと
【氷歌】
「・・・・・・ふふふ・・・最高だわ」
如何わしい秘書を追い出し、更に鷹様にお使えできる事に笑がこぼれた
そして、早速鷹様に報告すべく部屋へと向かった




