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エピローグ

 例のゲームは残念ながら全く売れず、続編が開発される事もなく、負の遺産として会社の倉庫に眠っているらしい。蒼壱は安堵して、「あんな危険なゲームなんか売れない方がいい」と言っていたけれど、私達の様にゲーム内にトリップしてしまうような現象は、他では起きていない様だ。


「蒼壱ってば凄くモテるんだよ。この間も他校の生徒から『LIME交換してください!』って言われてたって、妃那がヤキモチ妬いてたの」


 私はヨハンとテレビ通話をする事が日課になっていた。タブレットに映るヨハンが心配そうに眉を寄せ、小さくため息をつく様子が、ゲームの中でつっけんどんで冷酷王子だった頃からは想像もつかない程に可愛らしくて、つい口元がほころんでしまう。


『しかし、そなたもモテるだろう?』

「女子高だから、女の子にはモテるよ!」


 無邪気に笑う私に、ヨハンは不満そうに唇を尖らせた。


『……だが、フォルカーやミゼンとはしょっちゅう会っているのだろう?』

「うん! フォルカーもミゼンも料理が上手なの! お母さんからも信頼されてて、蒼壱が留守の時は家に食事を作りに来てくれるの」


 何故だか皆揃って私に料理をさせまいとする。

 皆に食べて貰おうとホットケーキを作り、ボヤ騒ぎになってからだろうか。でも、少し焦げただけなのに……。


『蒼壱は留守がちのようだな。身体の調子は良いのか?』

「うん。バイトを始めたらしいの。ゲームの世界に入って以来、蒼壱は喘息の発作が無くなって、とっても元気!」

『そうか。それだけでもゲームの世界に入れて良かったのだと言うべきだろうか。なによりそなたと出会えた事が私にとっては一番嬉しいが』


ヨハンが画面の奥から愛しそうに見つめた。その視線に、ついドキリとして、私は目を逸らす。


『私も、次の長期休暇には必ず日本に行くから、待っていて欲しい』

「あ、うん。勿論! 皆で遊びに行こうね!!」


ドギマギしながらそう言った私に、ヨハンはさらりと言葉を続けた。


『できることなら二人きりで出かけたい。嫌か?』


 顔が火照って行く。恐らく私の顔は真っ赤になっているはずだ。タブレットの前で姿勢を正して正座し、照れながらも答えた。


「全然嫌じゃない。とっても楽しみ」

『そうか!』


 嬉しそうに笑みを浮かべるヨハンを画面越しに見つめながら、私は早くヨハンに逢いたくて溜まらなくなった。

 来年には、ヨハンも日本の大学に編入する予定らしいけれど、ドイツと日本では遠すぎる。


 ドアフォンが鳴り、私は顔を上げた。液晶画面に映り込むフォルカーとミゼンを認め、オートロックを解除した。


「よぉ、嬢ちゃん。料理作らずお利口にしてたか?」


 いの一番に言ったフォルカーの言葉に、私はムッとして唇を尖らせた。


「何ソレ、どういう意味?」

「たはは、えーと……」

「手土産がありますという意味ですよ」


ミゼンがフォローしながら私に白い箱を手渡した。ずっしりとした重量感があり、私はパッと顔を明るくした。


「あ! 駅前のケーキ屋さんのプリン!?」

「ええ。華は甘い物がお好きでしょう?」

「うん! 大好きっ!! お茶淹れるね!」

『……華、私を忘れていないか?』


 いじけた様にヨハンがタブレットから声を出す。フォルカーがタブレットを手に取り、ニッカリと笑って見せた。


「なんだか、お前だけゲームの世界から出てこれて無い様に見えるな?」

『なんだと!? 私は現実に存在しているぞ!?』


焦った様に言うヨハンを、フォルカーは不憫そうに見つめた。


「華と食べさせ合いっこでもすっかなぁ~」

『絶対に許さんっ!!』

「華、お茶を淹れるならば手伝いますよ。貴方の美しい指が火傷でもしたら大変ですから」


ミゼンの申し出に、ヨハンは画面の奥から口をパクつかせた。


『貴様ら、華に近づくなっ!! ああ、私も早く日本に行きたいっ!!』


 半泣きになりながら言うヨハンに、フォルカーとミゼンは「冗談だからいじけるな」と笑い、ご丁寧にタブレットの前にお供え物の様にプリンとお茶を置いた。


「ただいまー。って、フォルカーとミゼン。来てたのか」


 蒼壱が気まずそうに言い、その後ろで妃那が小さく頭を下げた。


「よぉ、蒼壱。それと、妃那ちゃん。二人の分のプリンもあるぜ?」


 フォルカーはそう言うと、タブレットの前にお供えしていたプリンを取り上げて、妃那へと手渡した。


「ありがとうございます。ここのプリン、私大好き!」


嬉しそうに妃那が微笑み、ミゼンが「蒼壱の分もありますよ」と、白い箱から取り出した。


『私の分が無いではないか!』


タブレットの中で憤然とするヨハンに、「お前は食えねぇだろ……」と、フォルカーがあきれ顔で言い、私はくすくすと笑った。


「ヨハン、今度私が作ってあげるね!」

『む!? ……う……む………』

「何、その反応」

「止めてよね! ホットケーキですら爆発させるのに、プリンなんて作ったらマンションごと消し飛ぶからっ!!」


蒼壱が叫び、私は頬を膨らませて「酷いっ!!」と、怒った。


「まぁまぁ、プリンなら俺がいくらでも買って来てやるから」


 フォルカーが私を宥める様に頭を撫でた。ミゼンが「さあ、頂きましょう」と言い、蒼壱と妃那がソファへと座った。


 私達の休日はいつもこんな具合だ。


 何故、私や蒼壱。そしてヨハンやミゼン、フォルカーや妃那までもが不可解な体験をしたのかは分からないけれど、お陰で今は強い絆で結ばれている。

 もう二度と、ゲームの世界はこりごりだけれど、今では素敵な経験をしたと思える。


 皆と出会う事ができたから。

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