悪質な少年
寒い朝の澄んだ空の雲の形が昔買ってもらったぬいぐるみの物とよく似ていた。
少年は女の子ではなく、欲しい物はそんな物ではなくて、けれど当時はそれを両親に伝える言葉も持ち合わせてはいなかった。
母親は女の子を欲していたのだ。だから幼い頃はワンピースのスカートなどをよく着せられていたのを覚えている。
当時の少年は自分が何をされているのかもよくわかっていなかったのだが、折角の誕生日に与えられたのが欲しくもない女児向けのぬいぐるみで、それが悔しかったのか、祖母から寝物語に聞かされた童話を真似て近所の池にぬいぐるみを沈めた。
勿論、泉の精など出て来はしなかった。
もし出てきたら正直に言おうと思ったのに。
自分が落としたのはぬいぐるみだと言って、正直者へのご褒美として別の玩具をもらいたかった。
けれどぬいぐるみは何か代わりが貰えるわけでもなく、ただ音もなく沈んで行った。
本来、ぬいぐるみは水に浮かぶ物だが沈んで行ったのだ。
それは何故か?
少年はぬいぐるみの綿を抜いて、代わりに石ころを沢山詰め込んでいたからだ。童話のように正直者へのご褒美が欲しかったのだ。
もしも泉の精が出てきたら言うだろう。
君が落としたのはこの石ころを詰め込まれたぬいぐるみですか?それとも流行りのゲーム機ですか?
はい、ボクが沈めたのはその石ころを詰め込んだぬいぐるみです。流行りのゲーム機をご褒美にください。
完