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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第二章 戦意交錯
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  早春の波乱⑤

「クインタスは精鋭千騎を選び出し先発。船で北上しアルボア市へ入れ。そこで防御を固めてスキティア軍の攻撃に備えよ」


 テオドロスの示したアルボア市は青海沿いの主要都市であり、歴史的に対異民族戦で要衝となってきた。これより西は人口の多い城市が連なるため、ここで敵を防ぎ止める必要がある。


「アルボアでよろしいのですね?」


 それでもクインタスが尋ねたのは、以東の町や村は救援するのか、ということだった。


「敵の進軍速度からいって難しい。兵力も乏しい。アルボア市に入ったら守りに専念せよ、これは命令だ」


 テオドロスは念を押すように言った。クインタスの真面目な性格上、救えない命まで救いに行きかねない。命令であればやり遂げる男だ。


「魔導砲は優先して装備させる。輸出予定だったものを一部差し止めて戦力に当てさせよう」


 テオドロス隊が誇る魔導の兵器は同盟市に少しずつ輸出が始まっていた。先の戦争の結果、パラス市は同盟市を増やし経済的にもより豊かになっていくであろうが、それはまだ先の話である。今はただ時間が足りない。


「マルコスは騎馬隊で陸路を進め」


 マルコスに示されたのはアルボア市より北の地域。この辺りは河川が多いがその上流に向かうことを指示した。軽く訝しむマルコスだったが個別に作戦を伝えられると納得したようだ。


「試みに尋ねるが」

「何か、ファルザード卿?」

「我らの騎馬隊が同数のスキティア騎兵と戦えば、どちらが勝つかね?」

「ハハハッ」


 一度笑ったマルコスだが、その表情はすぐ真顔になった。


「絶対に勝てないね。去年の帝国騎兵ですら互角だったのに、今度は生粋の騎馬軍団だぜ」

「――とマルコス騎馬隊長は自信有りげに語り」

「……書記官、いちいち記録すんの?」



***



 一週間後、港から軍艦、輸送船が出港していく。参謀カリクレスの手際の良さで短期間にできる限りの備えをしてある。

 港では乗船するクインタスをマルコスらが見送った。


「北で会おうぜ」

「お互い無事にな」


 再会を期して各人はそれぞれの戦場へ向かった。


 少し遅れて支度を整えたのはテオドロスが率いる本隊である。こちらは戦場へ急行はせず、道すがら援軍を募りながら進軍する手筈になっている。


「テオドロス、どうしても貴方が行かないといけないの?」


 屋敷を訪ねたリリスが曇った顔で言う。


「敵がいる以上戦わねばならない」

「でも、よりによって……」


 言葉は濁したが彼女の言いたいことは伝わった。

 辺境の地はテオドロス一家が追放され、折り悪くスキティアの攻撃を受けた場所である。捕虜となった彼は奴隷として売られ、逃亡と流浪を繰り返した。あの日から全てが一変したのだった。


「連中を相手に冷静さを失うのではないかと、そう思うのかい?」

「貴方だって人間よ」

「それは真理だね」

「そんな言い方して……」


 フザケているのでないことはリリスにも分かる。テオドロスは自己を客観的に俯瞰できる反面、個としての執着に欠けるところがあった。


「分かった。君が気にかけてくれたことを忘れないようにして、この戦いに臨もう。そして必ず生きて戻る」


 目を潤ませているリリスに、テオドロスは優しく頭をなでてやった。

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