エピローグ④
そこは薄暗い場所だった。それは陰気な空間だった。およそ人の近づかない寂れた地に隠匿された棲家があった。
「……ヨギは上手くやったな」
暗がりの中で掠れた声響く。影に溶け込みそうな黒衣の集団が、わずかな灯りだけ灯してそこに集まっている。世間を遠ざけ俗世を遠ざけ、彼らはそこに存在していた。
「ええ。都市連合の武力はこれから飛躍的に伸びるでしょう」
「良き芽を育てたようだ」
「問題はどれほどの野心を抱いているかだ。あの男からは覇気を感じにくい」
闇の中から次々と声が上がる。その姿はいずれも漆黒に包まれ、瞳だけが灯火を反射して金色に煌めく。
「スキティアでも力が芽吹きました。今の王は高い野心を持っています。必ずや大陸の覇権争いに名乗りを上げるでしょう」
「だが奴らに国を統べるほどの力量があるかね?」
「今まさに国家の形を整えつつあります」
「今後に期待させてもらおう」
「トゥネスは今少し時間がかかりそうです。どうにも商人たちは頭で考えすぎる」
「遅れれば覇権は他者のものとなるぞ。急がせろ」
「承知しております」
「残念なのは帝国だ。せっかくの芽が摘まれてしまった」
「ファルザード親子は存外、大した器ではなかったようで」
「人選に問題があったのだろう。その後はどうしている、次の目星はついたのか?」
「それはまだ。慎重に事を見つめているところのです」
「帝国は此度の敗戦で落ち目になるのではないか」
「ですが、なればこそ。帝国はより強い力を欲するでしょう。また野心を刺激された輩もいるはず。その中から“覇者の芽”は必ず出てきます」
「事態は煮詰まってきている。遅れは許されん、よく励むことだ」
「しかと心得ましてございます」
「皆も心せよ」
集団の中心にいた男が一同を見回し口を開く。
「我らの宿願はようやく実を結びつつある。暗く淀んだ時代は終りを迎え、千年の停滞は晴らされる。この大陸に再び栄華と永遠の平安をもたらさん……」
「失われた時代を取り戻せ」
「人類に繁栄を」
祝のような、呪いのような声で唱和する黒衣の者たち。それきり会話を終え、また闇に溶け込むように姿を消していった。
~第一章 終わり~




