6:リデア動乱①
大陸歴一〇四二年、十一月も後半。帝国と都市連合の和平交渉は平行線となった後、互いに特使を派遣して密な協議を行う取り決めとなった。
場所に選ばれたのは連合の手に落ちたレミタス市である。一応両国に縁ある地だが、因縁が反作用して友好に程遠い空気が漂っている。
会談の席に集った互いの特使は連日意見を交わした。だが帝国はレミタス市の独立までが限度とし、連合は他のヘラス系都市の独立、あるいは自治の承認を要求して譲らず、議論は進展しない。
だがある日、連合側の特使たちが会議を切り上げ、そそくさと退出するという事態が起きた。その非礼に憤慨した帝国の特使は、遅れて入った急報に血相を変えて帰国することになる。
「リデア半島で反乱?」
アリアナ帝国、月の宮殿に参内したクシャは、その報せに眉をしかめた。
「それも複数の都市で同時にだ」
対する大王ダリウスも苦々しく言う。この場にはクシャとダリウス、そして宦官のナヴィドしかおらず、こういうときダリウスはある程度感情を露わにする。
反乱はリデア半島の西岸で立て続けに起きた。この地にはヘラス人が建て、そして帝国に支配された都市がいくつも連なっており、百年来の抗争を重ねてきた。春に奪われたレミタスはそうした都市の中でも大きなものの一つだ。
そして今回の反乱はレミタスを中心にするように勃発し、野火のように広がりつつあった。
「レミタスが奪われたときから、そういう機運がヘラス人の間にあることは知っていたが。都市連合はファルザードの反乱にも介入しようとしていた。どうも一連の事がつながっているように思えてならない」
そう言われればクシャにも危機感が感じられた。連中が裏で反乱を扇動していてもおかしくはない。思えば連合が和平になかなか乗ってこなかったのも、根底にこうした動きがあったからではないか。そう思えてしまう。
「クシャ、なかなか平和を掴むことができないな……」
「ああ……」
まだ詳しい状況は分からないが、帝国への反乱はまず鎮圧しなければならない。だが都市連合が黙ってはいないだろう。各地の反乱軍を連合が支援すれば、そのまま帝国と連合の正面衝突に発展しかねない。和平など嵐の中の枯れ木のごとく吹き飛ばされてしまう。
「まず西部の太守たちに対処させるが、討伐軍を編成することになるかもしれん」
そのときにはクシャも出征に従う可能性がある。すまなそうにする友人にクシャは胸をたたいてやった。
「いつでも役に立ってみせるさ」
「……すまんな」
ちらりとナヴィドを見やると、仮面の下の表情は伺えないが、何かに頷いてくれたような気がした。




