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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第五章 同盟戦争
208/235

4.白海に翻る旗①

「サンダー提督、西から使者が来ております」

「コルス島か、シケリア島か」

「両方です」

「……はぁ、指揮所に通せ」


 都市連合の連合艦隊を指揮するサンダー提督は苛立ちを滲ませていた。使者の用件は聞くまでもなく救援の要請に決まっている。だが艦隊は未だ動くことができすにいた。


 “同盟戦争”は白海にも広がり大小さまざまな戦いが展開されている。特に自治領の艦隊が西方の島々に進出していることが喫緊の課題だった。

 それ自体は数十年続いてきた抗争である。問題は東の帝国艦隊だ。今回は明らかに自治領と連携した動きをしており、隙を見せれば足元をすくわれかねない。


挿絵(By みてみん)


 サンダーは港の指揮所に使者を呼び、まとめて面会した。


「サンダー提督には再三要請しておりますが」

「分かっている。救援に来てほしいのだろう」

「はい……。今コルス島では自治領になびく都市まで現れ、内紛に近い状態です」

「それはシケリアも同様。海上に自治領の艦隊がひしめいていて、この状態が続けば民衆の心が持ちません」


 彼らは自治領の攻撃をかいくぐって来たのだろう。その苦労には同情するが、サンダーとて理由もなく艦隊を留めているのではない。


 帝国艦隊に対しサンダーは何度か攻勢に出た。だが帝国はその都度決戦を避け東へ逃走してしまう。しかし、サンダーが深追いせず西に転進を命じると、帝国艦隊は反転して追いすがってくる。その繰り返しだった。


「同盟軍は我らと戦わず、だが圧力は緩めず、徐々に締め上げるつもりだろう」

「では我々は自力で防戦しなければなりませんか?」


 それは無理だし結果は見えていた。ある程度抵抗した末に自治領へ降り、その矛先を都市連合に翻す。そうなる前に救援に向かい自治領艦隊を打破する必要があった。


「安心しろ、遠からず貴様らの町は救ってやる」


 使者に対して堂々と宣言したサンダー。ただし彼にも懸念材料が残っていた。


(チベの艦隊をどう扱うか)


 連合艦隊は都市連合各地から集めた艦船で編成されており、その中にはチベ艦隊も加わっていた。だがチベ市の思惑についてはテオドロスから警告をもらっている。




「チベ軍を全面的に信用して良いか不安がある」

「総司令は奴らが裏切ると思っているのか?」

「あのペロニダスの行方がハッキリしないのだ。奴が三国同盟に紛れ込んでいれば、裏でチベ市に裏切りを指嗾(しそう)している可能性がある」

「なるほど有り得る話だ」




 よってサンダーはチベ艦隊およそ七十隻を信用していなかった。露骨な裏切りと言わずとも非協力な態度を取ることもあろう。だが艦艇数三百三十隻という連合艦隊にとってチベ艦隊は貴重な戦力だった。


(だがそれも使い方次第だ)



***



 帝国の白海艦隊を率いるのはダヴド提督。白海艦隊は元々大貴族の派閥に属していたが、“ファルザードの乱”においてダヴドは司令官を放逐し大王ダリウスの側についた。その後の“リデア動乱”では都市連合の艦隊に敗北。四百を超えた艦艇の半数以上を失う大敗であったが、それでもなお大王からは信任され艦隊を預かっていた。


 敗北後ダヴドは艦隊の再建を目指して修繕、新造、そして船乗りの育成に努めていたが、時間が絶対的に足りなかった。


(大小合わせてようやく二百五隻。それも老朽艦や徴発した輸送船も混じっている)


 帝国東西の海を守る二つの艦隊もその一翼が砕けた。それでもダヴドは大王の期待に応えるため都市連合に戦いを挑んでいる。


「決戦は挑まぬ。ただ嫌がらせをしてやれば良い」


 大王は時を稼げと念を押した。その言葉に従い、細心の注意を払いながら連合艦隊を釘付けにしてきた。その間にどこかの戦局が好転すればそれで良い。


「ダヴド提督、連合艦隊が接近してくる模様」


 前線の艦艇からの報告である。都市連合の側では度々決戦の糸口を得ようと進出してくるが、ダヴドは相手にしない。


「全艦反転、敵と距離をとれ」


 もう何度目かのいたちごっこである。帝国側には魔術師が乗船し風や波を操る。例の<魔導船>にさえ注意すれば追いつかれることはなかった。


 だが今回の後退はなかなか終わらなかった。


「都市連合の艦隊、未だ追撃を止めません」

「奴らどういうつもりだ?」


 帝国の制圧する海域までも踏み込んでくる都市連合。これでは地勢や補給面で不利なうえ隊列も伸びつつあった。


「いよいよ焦ったか」


 こうしている間にも各地の戦線で同盟軍の圧力が強まっているはずである。業を煮やしてこちらを討ちに来たならば反撃の好機。


「各艦隊に伝達、合図とともに敵を取り込め」


 ダヴドは敵を近くまで引き付けるとともに、命令を飛ばし熟練の艦隊運動を見せた。急速に転舵した艦艇は鳥のように翼を広げ、連合艦隊の先端を半包囲態勢に陥れる。


「いいか、三隻で一隻を狙え!」


 それがダヴドの対連合艦隊の戦術だった。敵には危険な<魔導の兵器>がある。だが数の優位を保てば対処できない敵ではないと踏んでいた。一隻が敵の攻撃を引き付け、残りの二隻が側背から攻める。そんな戦術を各艦の艦長たちに叩き込んでおいた。


 そして帝国艦隊が一斉に襲い掛かる。ダヴドも乗艦を積極的に前進させると、乗船している魔術師にあれこれ指示を出した。


「あちらの艦隊にぶつける強風を起こせ。敵の攻撃に対しては風と水で防壁を作るのだ」


 櫂の音頭を取る太鼓の音が辺りで響き、時折り船の破壊される音が遠くまで届いた。都市連合の先鋒は見る見る数を減らしていき味方に余裕の色が浮かぶ。

 だがダヴドは背筋に冷たいものを感じていた。


(<魔導の兵器>を使ってこない……)


 手応えが無さ過ぎた。都市連合の指揮官はこんなもののはずはない。疑念からダヴドは敵の状況を探らせた。ほどなく都市連合の後続艦隊の接近が確認されたが、それとは別に動く艦艇群が発見された時、ダヴドは予感が最悪の形で実現したと悟る。


 それは遠く沖に出て迂回してきた<魔導船>の一団だった。帝国艦隊の側面に回り込み、そのまま高速で槍のように突きかかる。ダヴドは守りを固めようとしたが遅かった。


「退避!」

「ダメです!」


 帝国の艦列が乱れた。そこに連合艦隊の後続が距離を詰め襲い掛かる。今度は間違いなく<魔導の兵器>を装備した精鋭たちである。


(奴らなんと酷いことをする!)


 都市連合は先鋒を完全に捨て駒としたのだ。撒き餌に食らいついている間にこちらを捕捉撃滅する構え。足を止めた時点でダヴドは負けていた。

 それにしても。ダヴドがゾッとするのはこれほどの数の味方を容赦なく敵に食らわせる非情さだった。もっとも都市連合の先鋒をやらされたのはチベ市の艦隊であり、彼らの抱える相互不信まではダヴドも看破できなかった。


 今度は帝国の艦艇が次々と破壊されていく。訓練を重ねた戦術も統制を失うと効果が無かった。それでも。それでもダヴドは目から闘志を消さなかった。


(どうせ一度、いや二度は死んだ身か)


 一度目は敗北し船から投げ出された時。幸運にも岸まで泳ぎ着き助かったが、その命は大王によって処断されるものと覚悟を決めていた。だがそうはならなかった。大王ダリウスはダヴドの命は取らず、引き続き艦隊を任せてくれた。


(大王、これが最後の奉公です)


 徹底抗戦の命令を下した。一隻でも多く一人でも多くヘラス人を地獄の道連れにする。

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