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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第四章 嵐流航路
179/235

  揺れる大陸③

挿絵(By みてみん)


「……では改めて、四国による“反ヘラス都市連合同盟”の結成について協議したい」


 水を差された形のマグーロだが、飛び入りのペロニダスを座らせ会議を進行する。


「一つ意見したい」


 そこに再びペロニダスが声を上げた。一瞬マグーロの眉が上がるも、自治領の女傑は平静にこれを受け止めた。


「何か、ペロニダス殿?」

「その“反ヘラス都市連合同盟”という名称は変えてもらえぬか。我々チベ市が加わる以上、ヘラス人を敵とする名には問題がある」

「貴公の参加を認めはしたが、チベ市の代表と確認したわけではない」


 ペロニダスはチベ市の召還を蹴って逃亡した身である。政府の許しを得ているわけがない。


「それはその通り。だがこの同盟は主にパラス市の横暴を正すものであろう。チベには現状を憂える者が多く必ずや賛同してくれる。私が説得してみせよう」

「弁舌は好きなようだが空手形ではな」

「あぁ~、コホン。二人とも良いかな?」


 この場で最も年長なアシュカーンが宥め、結局“反パラス同盟”という名が会議の賛同を得ることとなる。

 “反パラス同盟”。あるいは“三国同盟”――チベ市を数えるかは議論がある――の名で知られる盟約は大陸の歴史上最大のものとなる。少なくとも記録が確認される中では比肩しうるもが無い空前の規模となった。


 これで話を進められると思ったマグーロだが、次にスキティア王国のドレアが発言を求めた。


「我らスキティアはトゥネス自治領と交流はなく、ましてチベなどは敵と言ってよい間柄。しかしアリアナ帝国が勧めるので盟約に名を連ねました」


 ドレアという男は精悍に見えるが言葉遣いは丁寧である。サイクラコス王が派遣する人物を選んだであろうことが伺えた。


「そのことはありがたく思っている」

「ですが帝国に一つだけ条件があります。かねてより延期が続いていた貴国のスタシラ姫と、我が国のマディアス王子の婚儀。これを実行に移したい」


 それは元々両国が和平の条件としていた件である。先年の輿入れが襲撃で有耶無耶になっていたが、水面下で交渉が続けられていた。

 これについてはフシュマンドが受けて答える。


「その件は大王陛下も気にかけておられた。一度は決めたこと、確実に履行しましょう」

「大王の決定ということでよろしいですか?」

「いかにも。襲撃の首謀者も処罰したと報告を受けています、帝国に依存はございません」


 ようやく懸案は片付いた。マグーロは地図を広げ皆に向き直る。


「この同盟の目的を明確にしておこう。ヘラス都市連合……その中でも主導的地位を得ようとするパラス市。彼らの覇権主義が我々を圧迫して久しい」


 覇権主義という表現には敵対国としての含みがあるが、国家間の抗争で優しい言葉は使われない。そして同盟する国々もそれぞれ望みを胸に抱いているのは無論のことだった。

 大王ダリウスは必ずしも戦いを望んではいなかった。だが都市連合の圧力が避けられないと肚を決め、この機に排除することに舵を切ったというところか。


 軍人として貫いてきたアシュカーンには主君の苦悩を肩代わりできなかった。だが戦うと決めたならば剣を取るだけである。


「彼奴らの野望と傲慢は目に余る。よって同盟各国で力を合わせ、ヘラス人に鉄槌を下すべし」


 そこでまず都市連合に対する要求がまとめられた。

 都市連合は周辺国への強硬姿勢を改めること。白海、青海、リデア半島の各都市から兵力を撤退させること。都市連合内における同盟のあり方を見直すこと、等である。彼らが撤退した土地に反パラス同盟が侵入することは問わずとも明らかだった。


「最終的にヘラス人の覇権はチベ市が握れば良い」


 まだ都市連合にはラケディという強国がいるものの、チベの背後に三国がつけば自ずと流れは定まる。


(ヘラス人はヘラス地方で内輪の覇権を争っておればよい)


 さらにパラスの執政官と将軍を解任のうえ追放すること等が加えられ、要求は大小合わせ十項目を超えた。

 問題はこの要求を都市連合に呑ませるには相応の圧力と武力が必要ということである。この点に関しスキティア側の考えは率直だった。


「大軍に兵法無しと言う。三国が三方から攻め寄せれば都市連合とて音を上げるでしょう」


 戦士らしいとも言えるがペロニダスが鼻で笑う。


「そう簡単に行けば苦労はない。そもそも貴公らスキティアはテオドロス一人に負けているではないか」

「ヘラス人は剣より口のほうが達者というが、それ故に貴殿も敗れたようだな」

「蛮族が何か言ったか?」


 二人が火花を散らすのを見てマグーロは咳払いをしてみせた。自治領を牽引する女傑もここでは調停役を務めねばならず、やり手の印象と違った側面を見せる。


「ドレア殿、我ら自治領も都市連合には煮え湯を飲まされているのだ。奴らの使う魔導の兵器は強力で、今後いっそう力をつけるに違いない。必勝の戦略で望む必要がある」


 その戦略については帝国に考えがあった。


「我ら三国……失礼、四国は地理的に離れていて連携を取りにくい。バラバラに動けば都市連合に付け入る隙を与えてしまう」

「ではどうされるアシュカーン殿?」

「大王陛下より策を授かっている」



***



 数日後、帝都は月の宮殿に都市連合の特使が現れた。拝謁の礼などは彼らの文化に無く、胸を反らせて大王ダリウスに向かい合う。


「だいぶ待たされましたが、今日は大王陛下より直々に弁明でもしていただけるので?」

「いかにも。望み通り返事をしてやろう」


 ダリウスが手を上げると謁見の間に人が踏み入る。トゥネス人と遊牧民という妙な取り合わせに特使は戸惑ったが、ほどなく意味を理解すると顔を蒼白にしてしまった。


「ここにアリアナ帝国、トゥネス自治領、スキティア王国の三国は連名にてヘラス都市連合の罪状を糾弾し、また以下の要求を宣する」


 側に立つフシュマンドが条文を読み上げる。複数言語で署名された都市連合への明確な敵対宣言。それを特使に持たせると追い出すように帰らせた。


「関所は通れるようにしてやろう。速やかに帰国して人々に知らせるが良い」


 特使は走った。必死の形相で帝都を飛び出し、馬が潰れそうになるまで馬車を走らせた。――まさかあの三国が。悪夢を見る思いで帰還を急いだ。


 矢は放たれた。こうして大陸歴一〇四六年は激動と流血の年となることが約束されたのである。

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