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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第四章 嵐流航路
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  揺れる大陸②

 年末、帝都では群臣を集め連日会議が開かれている。リデア半島の変事は一旦落ち着いたが、都市連合は帝国の責任を追及する特使を寄越していた。


 ――帝国はチベ市と共謀して都市連合の分断を図ったのではないか?


 帝国にとっては寝耳に水の事態だったが、これを鎮めるため弁明に徹してきた。だが特使の態度は軟化せずひたすら謝罪を求めてくる。


「ヘラス人どもは、この機に再び戦争を起こして、今度こそ半島を奪うつもりなのだ」

「パラスの増長と覇権主義は今や誰の目にも明らか。ここは強い態度に出るべきでは?」


 大臣たちが都市連合を非難し強硬な対応を求めるようになった。中には慎重論を唱える者もいたが、帝国にすれば被害者は自身であり心象はすこぶる悪い。


「ここで戦争になれば和平の努力も水泡に帰するぞ」

「奴らの方でそれを望まないのであれば意味はない。それとも譲歩せよと言うのか、自治領の時のように」

「これっ」


 誰かが制する声を発した。周辺国との和平路線は大王ダリウスの主要政策の一つである。だが自治領への譲歩、ヌビア地方の放棄は結果としてガランに裏切られる形となっていた。

 それを批判するのは大王に憚られるが、口にせずにはいられないといった顔が見える。


 一方の大王は皆を集めておいて発言は少なく、周囲の意見に耳を傾けていた。


(陛下は議論の行方を見据えておられる)


 アシュカーンはそう見ていた。この帝国の宿将は現場復帰した後、明確な官職は無いが会議の末席に加わっている。


「ところで例のペロニダスはどうなりました? 奴を引き渡せば収まるのでは……」

「どうかな、そもそも母体たるチベ市が今まさに追及を受けているだろう」


 実態としてペロニダスが引き起こした事も、傍目にはチベ市が首謀者に見える。枝葉のペロニダスを差し出したところで効果は微妙なところだった。


(戦いは避けられそうにない……か)




 都市連合の特使に返事もできぬまま夜が更ける。すると大王の宦官がアシュカーンを訪ね、非公式の参内を求めた。

 裏口から宮殿に入るとすでに宰相のフシュマンド、魔術参謀クシャなど、大王の近臣が集められていた。群臣に図らず事を進めるのは大王の悪い癖だが、アシュカーンも大臣、すなわち貴族たちとは合わないと思っている。


「揃ったな」


 大王ダリウスは最近やつれ気味だが、夜は一層陰がさして見える。執務に追われているようだが最近は何やら連絡の行き来が多いようだった。


「ここにいる者にだけ話しておくことがある。心して聞け」


 翌日、アシュカーンとフシュマンドがわずかな供のみ連れ、帝都郊外の神殿に向かった。目立たぬよう粗末な馬車に幌をかけ、人気のない細道を行く。


「寒空の下、ご苦労さまです」


 神殿では宦官のナヴィドが出迎えた。周囲は人払いされているが、警護の兵が物陰で息を潜めているようだった。


「ナヴィド、他の者達は?」

「すでに揃っておいでです」

「では参ろうか」


 アシュカーンたちは一息入れようともせず広間に向かった。そこで待っていた顔ぶれには覚えもあれば知らぬ顔もある。


「帝国の宰相と大将軍が揃い踏みとは、本気と受け取って良さそうですな」

「マグーロ殿か。今のワシは無位無官の身よ」

「ですが大王の名代として来たのでしょう」


 それぞれが席についたところでナヴィドが紹介を始める。


「こちらはトゥネス自治領のマグーロ殿。そしてもう一方はスキティア王国のドレア殿」

「音に聞こえた大将軍にお会いできて光栄だ」

「両者とも、先の戦では世話になった」


 自治領のマグーロとスキティアのドレア。この二人はガランとの戦争の際に帝国に協力してくれた者たちで、その後もしばらく帝国内に留まっていた。


「此度は私、マグーロが提案した会談に集まっていただき感謝する。ここに来ていただいたということは、我ら三国、今後手を取り合って共に歩むことを了承したと見てよいか?」

「大王は承諾された」

「我が王も同じく」

「よろしい。ならばここに“反ヘラス都市連合同盟”を結成したい」


 反ヘラス都市連合同盟。大陸四大勢力などと呼ばれる国々のうち三国が、都市連合に対して共同戦線を張る同盟構想である。


 それはマグーロが都市連合に対抗するため企図したもので、ガランを討滅した段階で帝国に打診が行われていた。そこにスキティアの使者も居合わせていたことから、これを抱き込み三国による同盟という大陸規模の構想に発展させたのだった。


(陛下は、おそらく宰相と話を進めていたのだろう)


 それも外部に漏らさず秘密裏に。アシュカーンは唾を飲み込む。大王の肚は決まっていた。

 そこに扉を荒々しく開き、広間に乱入する男が一人。


「その話、少し待ってもらいたい!」


 男は若く雄大な風貌をしているが、ヘラス風の装束が場違いだった。


「ナヴィド殿、あれは?」

「これは……、折を見て紹介するつもりでしたが」

「失礼致した。このペロニダス、歴史的な場面に立ち遅れるわけにはいかぬと思い」


 チベ市のペロニダス。リデア半島で騒動を起こした後、どうやら大王の元までたどり着いたらしかった。


(大王はこの男にまで声をかけたのか)


 でなければペロニダスがこの場に現れるはずがない。使えるものは何でも使うつもりか。ともかくも、ここにアリアナ帝国、トゥネス自治領、スキティア王国、そしてチベ市の代表が集ったことになる。


(四国による反ヘラス同盟戦線……か)

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