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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第四章 嵐流航路
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  競争者③

 カリクレスはタナシスの本営を後にした。軍内は緊張しつつも、戦意をどこに向ければ分からないもどかしさを孕んで見える。


 ――七月までチベ軍を押し留めてくれ。


 出陣前にマヌエル執政官がテオドロスに言った言葉だ。オリビア祭が開かれるのが八月。その前後の月も含めた三ヶ月は、神聖な祭りのための準備と移動期間として全ヘラス人都市が軍事行動を停止する。マヌエルたちはこの停戦期間にチベ側やカクトス市と落とし所を見つけるつもりだろう。

 戦ってはならない戦い。それは軍人にとってある種の矛盾だがテオドロスはどう対処するか。カリクレスにも分からないが楽しみでもある。


(閣下ならばなんとかしてしまう、そんな気にさせてくれるから貴方の部下になったのだ)


 テオドロス傭兵隊の陣に戻り幕営に入る。そこでテオドロスは地図に見入っていた。


(……)


 物見の知らせを受けてチベ勢の陣容、そしてパラス勢の配置を考えている。その様子を見てカリクレスはため息をついた。


「閣下、おやめください」

「まだ何も言っていないぞカリクレス」

「伏兵の配置を考えるのをやめてください。奴らを殺す気ですか?」

「いざという時のために……」

「マヌエル氏と話したことをお忘れですか?」


 テオドロスが悪戯をたしなめられた子供のような顔で黙り込む。

 この春からリリスたちがオリビア祭に出るのを支援してきた。テオドロスは存外に熱心だったようで、出撃が決まってからの不機嫌ぶりは悩みの種だった。今のところテオドロスの行動が理性の枠を超えることはなさそうだが、彼が時折見せる衝動的な面をカリクレスは知っている。執政たちが同じ思いか分からないが、司令官にタナシスを選んだのは正解だったかもしれない。


(頼むからチベ軍は余計なことをするなよ……)


 それが最低の条件だが、停戦が成ったとしても足止めをくらえばオリビアへは行けないのだ。


(リリスの方でも残念に思うだろうな)



***



「確かにテオドロスが来ているのだな?」

「はい、あの傭兵隊は見間違えようがありません」

「ならば司令官はテオドロスに違いない」


 チベ軍司令官のペロニダス将軍は内心で拳を握りしめた。


「司令、あの男が出てきたなら厄介ですぞ」


 報告を聞いてチベ勢の将軍たちは顔色を変えていた。彼らの中にはテオドロスと同じ戦場に出て、その戦いぶりを目の当たりにした者もいる。

 ペロニダスは鼻を鳴らした。なるほどテオドロスはここ数年の間に帝国、自治領、スキティアと次々撃破してきた。その勇名は今さら語るまでもないが、目の前にいる司令官を甘く見てはいないかと。


「面白いではないか。この機会にパラスとテオドロスの手腕を見せてもらおう」

「戦いを仕掛けるのですか?」

「まさか、これは“演習”だとも」


 無論チベ軍も他都市との衝突は戒められている。だがカクトス市民がパラス軍の姿を見て勇気を奮い立たせれば対陣が長引く。このまま何もしないわけにはいかないのだった。

 

「なぁに任せておけ。諸君は私を信じてついてくれば良い」


 司令官が自信に満ちているのとは裏腹に、将軍たちが半信半疑な視線を交わす中で軍議は幕を閉じていった。




(ようやく時が来た)


 ペロニダスの軍歴はテオドロスが都市連合に帰還するより前に始まった。軍学を学び、体力と精神にも自信があった。異民族相手に負けることは無かったが、自治領や帝国といった大敵に当てられる機会に恵まれなかった。

 逆にテオドロスはこれらの敵相手に目覚ましい戦果を上げ、自身の傭兵隊とともに名を上げていった。それに伴って都市連合内の均衡もパラス市に傾いていく。


 そうした時の経過をペロニダスは辺境の戦場から眺めることしかできなかった。自分がいれば。同じ戦場にいればテオドロスだけに名を成さしめることもないのに。鬱屈した想いを抑え続け、今ようやく目の前にあの男を捉えた。


 ペロニダスは直属部隊である<聖盾隊>を視察した。彼とともに多くの戦場を戦った精鋭たち。兵数は五百ほどだが、練度においてはテオドロスの傭兵隊に劣らないと自負している。そしてペロニダス自身も。


 翌日、チベ軍の使者がパラスの陣営を訪れ口上を伝えた。チベとパラス、ヘラス人の覇者たらんとする二都市の鍔迫り合いが始まる。

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