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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第三章 野望争覇
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  決戦⑥

 ガランは死なず。帝国軍の張った罠の中でガランはもがき、孤軍奮闘の末に首を打たれた。――はずだったが。


「これが秘術の行き着く先だと言うのか?」


 猛将マフターブが打ち震える。今やガランは筋肉が岩石のように盛り上がり、以前より一回りも二回りも大きくなったようである。肌は土苔た色になり人相まで変わってしまった。まるで御伽噺に出てくる化け物のようだ。


「弓だ!」


 ゴバードが冷静さをギリギリで保ち、兵士たちに殊更大声で命令を出す。そうして放たれた矢はガランに通じない。肉も皮も硬くなったようで矢が尽く弾かれる。

 ならばと槍が投げ込まれたが、これもやはり通じない。ガランは身を守る素振りも見せず立ったまま弾き返す。


「化け物……!」


 帝国兵が青ざめるのに反してガランは静かだった。この異様な変化に彼自身が驚いているような。確かめるように手を開閉し、身体を巡らし、そして動き出した。


「――ッ」


 走った。それだけで大地が揺らぎ、暴風となった剛腕が兵士数人を吹き飛ばす。地面を転がった兵士はその時点で血肉の塊と化していた。


「ひぃぃっ!」


 もう兵士たちは腰が引けてしまい、今にも逃げ出しそうである。そうなればこの場の戦線は崩壊し、ガランは大王を追うだろう。


(だが、どう戦えばいい?)


 マフターブにゴバード、ロスタムも打つ手が無く、ただ武器を構えることしかできない。そしてガランは、自身の生まれ変わった力を確認すると、己のなすべきことを思い出していた。大王を討つ。

 重々しい体が間道を再び歩みだす。もはや帝国兵には目もくれず、視線は大王の走った先へ。


「行かせるか!」


 マフターブがガランに飛びかかる。先刻のように首へ剣を打ち込むが、多少の傷がつくだけで効果がない。それでもまとわりつくようにして斬りつけ、その足を止めようとした。


 ガランはものともせず、蝿でも払うように腕を振るった。飛び退いて避けるマフターブを、ガランはようやく敵として再認識したようだ。足を止め拳を高々と上げる。


(不味い!)


 巨石が飛んでくるようだ。人の頭よりも肥大化した拳。振り下ろされる。その刹那、マフターブは馬蹄の(とどろき)を聞いた。


「マフターブ!」


 馬で駆けつけたクシャがマフターブを拾い上げた。代わりに地面がガランの拳を喰らい抉れる。


「クシャか!?」

「また無茶をする!」


 クシャの方こそ無茶をする男だが、それより別のことが気になる。クシャは大王の側について後退していたはずだ。それが今ここにいることに嫌な予感がした。


「魔術師隊、構えよ!」


 そこに大王がいた。ガランを討つため引き返して来たのだ。マフターブは頭が真っ白になった。特に大王の近衛たるロスタムは悲鳴を上げたい気持ちだろう。


「陛下、お下がりください!」

「違うぞロスタム。ガランはここで討つ、ここで倒さねばならん!」


 確かに、ガランの変身は事態を一変させてしまった。あの化け物をここで逃せば、今後もう討ち取る機会は絶無ではないか。


「大王ぅ!」


 討つべき敵を見つけガランもいきり立つ。だが、地面に打ち込んだ拳が深く刺さり、僅かな時間が生じた。千載一遇の好機、逃してはならない。

 土魔術師たちが地面に亀裂を生じさせる。ガランの足がはまり込むと、そこに携行していた“黒油”が投げ込まれた。


「放て!」


 魔術師の炎が炸裂する。黒油に次々と燃え広がりガランを包み込んだ。周囲に黒煙と熱波が広がり、巻き込まれそうになった兵士が慌てて逃げ出す。


「これが黒油の威力か……!」


 目を焼くほどの炎は離れていてもチリチリと熱が伝わる。扱いを間違えれば大火災になりかねない危険な代物だ。それをたった一人焼き殺すため潤沢にバラ撒いていたが、誰もやりすぎだとは思わない。


「クシャ、マフターブ!」


 ダリウスが二人を呼び寄せた。手には弓矢があり、それをマフターブに押し付ける。


「へ、陛下?」

「この場で最も強弓が射れるのは、そなただ」

「……まさか、ガランが」

「うむ……」


 ――――ッ!!!!


 言葉にもならない叫びは獣の咆哮ですらない。この世のものとも思えない声を響かせ、炎の塊が身を乗り出す。全身を焼かれ赤熱した炭になりつつも、なおガランは前に進む。


「本当に化け物か……」


 全身を焼かれているが、(ただ)れた皮膚は剥がれ落ち、その下からすでに再生が始まっている。焼かれては回復し、また焼かれるのを繰り返しながら、ガランは炎の巨人となって大王に迫った。


「マフターブ、構えよ」


 ダリウスは手にした矢を黒油に浸し、マフターブにつがえさせた。


「目ですね」


 矢が通るとすれば脆い部分しかない。ガランの瞳に狙いを定め限界まで弓を引き絞る。そんなマフターブに、ダリウスが背後から手を添えた。


「ひゃい!?」

「そのまま。ただ射るだけでは足りぬ」


 黒油で黒く染まった(やじり)。そこにダリウスの魔力が流れ込む。


 ――ヒュウッ。


 放たれた矢は真っすぐガランの目を居抜き、その瞬間に発火した。ダリウスが風とともに得意とする火の魔術である。


「――――だい、おう」


 止まった。ガランの意識は熱とともに弾け飛んだ。黒油によって消えない炎。今や彼の頭中は業火よって灼熱し続けている。どれだけ身体を変化させようとも、頭の仕組みは人のそれと同じなのだ。

 勢いの失せたガランはついに膝をつき猛火の中に沈む。大木が倒れるような振動を響かせながら。


「――ヘレ……」


 轟の中に声がかすれて消えた。

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