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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第三章 野望争覇
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  決戦②

挿絵(By みてみん)


 レヴァント州に放っていた間者から報告が相次ぐ。帝国軍に大きく、そして慌ただしい動きがあった。騎馬の群れや荷駄の列が相当数、東へ急行したという。

 ガランの策が察知された。死者の群れによる帝都スーシャ攻撃。だが驚きはない。ヘレの話からも分かっていたことで、遅いか早いかの違いでしかない。


 問題は大王がどこに主軸を置くか。帝都を取ってレヴァント州を捨ててくれれば楽だったが。


「確かに大王は留まっているのだな?」

「はい。複数の間者がそう申しております」


 どうやら大王ダリウスは臣下に帝都を守らせ、自らは前線に立ち続けるようだ。兵力を減らしながら一歩も退かないつもりか。

 ガランの知る帝国であれば大王がわざわざ出向くことすらなかったろう。そうした過去の認識はもう捨てた。今や大王はガランに立ちふさがる大敵である。


(そして奴さえ倒せば……)


 程良い高揚感。これより数日、ガランは傭兵隊長らと軍議を重ねつつ州境に戦力を展開していく。

 そんな中、ガランの元を訪ねてくる者があった。


「太守の密使だと?」


 レヴァント州の太守タテナイが接触を図ってきた。密使は大王への不満不信、貴族粛清への恐れなどを語り、ガランと手を組んでも良い、とするタテナイの意志を伝えてきた。


「要求するものは何だ?」

「レヴァント州を引き続き統治すること。それ以上は望まないと仰せでした」

「ふむ。使者を帰らせろ」


 一片の返答も無く交渉を打ち切った。ガランとすれば、この場の口約束など信用できない。話も全て口頭で、文書などの証拠を残そうとしないあたり、帝国と自治領の両端を持する腹積もりが見える。


 敵が寝返るなら本来歓迎すべきだが、不確定要素を当てにして軍略を立てはしない。まず帰らせる。だが危害は加えない。


(確実に機は熟してきている……)



***



 帝国軍も大きく動き出していた。

 ダリウスは州境近くまで進出すると陣を敷き、長大な防衛線を築かせた。要所にはすでに砦が整備してある。ここに兵を入れ、レヴァント州には入れない構えだ。


(だが兵力が足りない)


 ガランの方はまだ数を増やしているだろうか。遠く地平を眺めたクシャは、目に見えるはずもない敵の姿を想像した。


 いずれにせよ戦機は近い。兵站の苦しいガランは短期戦を狙っており、帝国軍が分散した今こそ絶好機である。それをダリウスも誘っていた。この決戦は両者が望んだ結果と言える。


 ただ帝国軍も減るばかりではなかった。

 六月下旬、クルハ州のゴバードが来援した。兵数は三千ほど、自慢のクルハ騎兵が何より心強い。


「よく来てくれたゴバード」

「遅れて申し訳ありません陛下。遅参の申し開きというわけではありませんが、あちらを」


 ゴバードはある客人を伴っていた。北方系騎馬民族の軍装はスキティア王国の戦士である。


「ドレアと申します。主君サイクラコス王の使者として参りました。聞けばダリウス陛下は戦の真っ最中とのこと、お力添えしたく馳せ参じました」


 彼らは七百ほどの騎兵を伴って来ていた。名目は使者の交換、交流であったが、現場の判断で加勢してくれたようだ。それが利益になると踏んだにしても、ゴバードが説得した結果だろう。


「これは有り難いことだ」

「王の親書はこちらに。クシャ殿にもよろしくと仰せでした」

「私などにはもったいない」


 クシャが都市連合との戦争で果たした仲裁が生きたのかもしれない。あるいは帝国の内情と戦況を偵察するつもりかもしれないが、少なくとも背後は気にしなくていい。


「ところでマディアス王子ですが、その後は変わりないでしょうか?」

「王子ですか……」


 ドレアの反応は鈍かった。一時は都市連合の捕虜となった王子は、帰還したものの軍権を奪われたという。今は都に留め置かれ、端から見れば冷遇と見えるようだが。


(だがサイクラコス王は王子を大事にしていた。時間が経てば……)


 防衛線の構築は進んでいた。工兵に土の魔術師も加えて工事が続けられている。

 約二ヶ月。それが勝敗の分かれ目と参謀たちは言う。各州の援軍が到着し、東へ向かった軍も戻ることができれば、反撃でガランを敗れるというのだ。


(だが決戦は近いだろう)


 クルハ騎兵とスキティア騎兵の参戦は頼もしかった。相変わらずゴバードとマフターブの兄妹は好意的な会話も無いが、戦時下である、敢えて険悪になろうともしない。今はそれでいい。


 クシャが己の幕舎に戻ると、呼んであった捕虜たちの姿があった。


「今日はどんな検査でしょうか?」


 捕虜の一人ヤムルは多少打ち解けたのか、自分から口を開くようになった。そこからは会話も増え互いを知る機会もできる。周囲の者たちも彼らの境遇を知り、また危険が小さいことも理解すると、接し方が温かくなった気がする。


「来てもらったのは検査のためではない。今日は色々と話したいことがあって」

「どんな話でしょうか……?」


 クシャは部下たちを下がらせ、自身と捕虜たちだけにした。ストラトスあたりが無警戒と呆れそうだが。しばらく考えた後、躊躇を振り切りながら会話を切り出す。


「これから私の言うことは卑劣と思われても仕方ないことだが」

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