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太陽の王冠 月の玉座  作者: ふぁん
第二章 戦意交錯
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  エピローグ⑤

 アリアナ帝国の帝都スーシャでは、都市連合とスキティアの停戦について討議が繰り返されていた。他国の戦争とはいえ注目すべき出来事であり、経過報告と分析が日夜進められている。


 その中でクシャの行いを越権行為ではないかと疑問を呈する者もいた。外交副使とはいえ戦争に帯同し、そこで交渉の仲介までしたのはやり過ぎではないかと。

 この点では宰相のフシュマンドが問題無しとした。


「仲介により両国に貸しを作ることができました。これは隣国との和平を進める大王の御心に叶うものです。機を逃さず行動した良き結果でしょう」

「宰相の言うとおりだ」


 大王ダリウスもクシャの功績を認めた。仲介だけでなくスタシラ姫の警護やスキティア王国の事情を調べ、正使のサドリと併せ大きな働きと称賛した。




 そのクシャがゴバードとともに帝都へ帰還した。すぐに参内して報告しようとした二人だが、案内されたのは大王の私室だった。

 そこにはすでに先客がいてスタシラとサドリ、さらにマフターブまで呼ばれていた。


「クシャ殿、ご無事で何よりです」

「元気そうだな。しかし我が兄まで連れてこなくてもよいのに」


 異郷の草原で苦楽を共にした者同士である。生きて再会できたことを喜びあった。

 やがてダリウスが入室してきたが、いつも側にいるナヴィドが今日はいない。代わりに連れ立って来たのは初老の貴婦人であるが、その顔を見て一部の者は目を見張った。


義母上(ははうえ)、こちらが我が忠臣にして友となる者たちです」

義母(はは)……まさかこの方が」


 その貴婦人はアンビス太后だった。先代大王の実母であり、ダリウスを戴冠させ自らが実権を握った人。よく見ればスタシラの面影があり歳を重ねていても美しい。


「アンビスです。陛下を助けてくれているようで、私からも礼を申します」


 長らく離宮に軟禁されていた太后だが、ダリウスと何らかの和解をした様子である。それはスタシラが異国へ嫁ぐ際に、義兄へ最後に願ったことだった。もっともそのスタシラは戻ってきてしまったわけだが、おかげで王家が揃って微笑む姿を見ることができた。


「余はこの者たちにはいつも助けられ、己の至らなさを痛感しております」

「そうそう、陛下ときたら私のいない間にスタシラの結婚まで決めてしまって。……失礼、政治には口を挟まないと約束したのでした」


 まだぎこちない所はあるが時間が解決してくれそうである。

 その後、酒食が運ばれてきて会食となった。料理は豪盛ではないものの丹精込めて作られたことが分かる。余人は交えず少人数でのささやかな席であり、無礼講とまでは行かないが和やかな時間が流れた。


「マフターブ、いつもの上がり症は大丈夫か?」

「実際、最初は倒れた」

「え?」

「もう何度かお呼びいただいて四度目になる。赤っ恥かいてさすがに慣れた」


 スタシラを助けるのに功のあったマフターブは大王たちから感謝され、たびたび宮殿に招かれるようになったようだ。

 クシャはマフターブの兄であるゴバードを見やる。この兄妹も王家のように仲良くなればと思うが、まだ溝がありそうである。


 そのゴバードといえば社交慣れした人物でダリウスたちとも会話が進む。今も報告すべき数々をクシャに代わり説明してくれていた。


「……そうか、マディアス王子は生きておられたか」

「報告が錯綜してしまい申し訳ございません」

「錯綜したのはスキティアと都市連合だ、そなたは気にするな。停戦といい王子の送還といい、つつがなく務めてくれたな」


 スタシラの襲撃事件によってスキティア王国内の和平反対派が浮上して見えた。それに加えて戦争による時間的空白もあり、王子との結婚も事実上の延期となっている。両国の和平がどうなるか、事件の真相解明は進んでいるのか、まずは使者を立てる必要がありそうだった。


「だがサドリやクシャのおかげで友好は保たれた。余からも礼を言うぞ」




「それで、どうしてストラトスが私の屋敷にいるのか?」

「クシャ殿が宮殿に直行するから、俺が代わりに無事を報せて差し上げてるんでしょうが」

「う、それはすまない……」


 クシャが屋敷に戻るとストラトスが勝手にくつろいでおり、執事のビザンが慣れた風に応対してくれていた。今は同じく入り浸っているファルジンや、何故か来ているナヴィドと卓を囲んでいる。


「ナヴィド殿、大王の影がこんな所で何をしているのです?」

「本日は暇をもらっています。クシャ殿は太后陛下と会われましたね?」

「ええ、まあ」


 ナヴィドは元々アンビス太后付きの宦官だったが、ダリウスに協力して政変を起こしたのも事実である。そのために太后と距離を取っているのか。クシャは深く聞かなかった。


「我々のことより、今は貴方を一番心配してくれていた人とお会いなされませ」


 ナヴィドに言われるまでもなく、クシャはその少女ククルを探すが見当たらない。奥に入ると自室で休んでいる彼女を見つけることができた。


「クシャ様……」

「や、やあ。戻ったよ」


 クシャの居候であり内弟子であり、何より家族である少女は、拗ねた膨れ面をしてしまった。


「ずっと心配してたんですよ。手紙でも良いので無事を知らせてくれたら良かったのに……」

「ごめん……本当にごめんね」


 また数ヶ月会えなかったがそのうちに背も伸びていた。家を空けてばかりいるとそのうち見違えてしまいそうである。


「ククルがマフターブに危険を知らせてくれたそうだね。今回は本当に助かったよ」

「マフターブ様もクシャ様も、私にとって一番大切な人ですから」


 目をうるませるククルの頭を撫でてやるクシャ。前にもそうした気がするが、その時よりも手の高さが変わっている。


 帰るべき場所に帰ってきた。そう実感できる触れ合いにクシャは安らぎを得る。この穏やかな時が長く続けば良いと思うが、世の流れがそれを許してくれるかどうか。

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