アルバート視線7 大国侯爵令息は王女の侍女からハンカチをもらいました
魔王のカロエの街襲撃の知らせは衝撃的だった。
モルロイなどなどという小国に復活した魔王が、我が国のカロエの街を襲撃して100名のこの学園の受験生を殺したらしい。我らの最強騎士ジャスティンが決死の攻撃で魔王は退避したらしいが、学生が殺されたことについて怒りが宮廷には満ちていた。
クリス様は直ちにカロエの街へ弔問に向かわれたが、一部住民からは非難にさらされた。しかし、大半の住民は前皇帝の失政を倒し、飢饉を解消してくれたクリス様の味方だった。本来魔王には恐怖しか感じないはずなのに。
魔王、人間の醜い心全てを体現した存在とも言われていた。その存在は太古より怖れられていた。千年前に無敵の戦神シャラザールによって封印された諸悪の根源だ。
ボフミエ魔導帝国が復活を目指して封印された石を掘り返したのだ。本当に余計なことをする。その石を投げ捨てた者も者だが・・・・・。それがモルロイまで飛んで復活したらしい。
帝国自体はクリス様が制圧、現在のボフミエ魔導国となっているのだが。
本来ならば魔王は世界全体で退治すべきものだが、この国には世界最強の戦士というか狂気が揃っていた。
破れはしたが、対抗できた正義の騎士ジャスティン、ボフミエの誇る騎士で、何故かクリス様の騎士でもある。一応形だけは近衛騎士の筆頭だが、今は師団を率いている。
そして、赤い死神こと、ノルディン帝国皇太子、ちなみに今はうちの外務卿、存在自体が狂気で、見た目は華奢で温厚なクリス様に成り代わって周辺諸国を脅しまくっている
最後が暴風王女、マーマレード王国皇太子でうちの魔導師団長。ノルディンとの戦いでは赤い死神と互角の戦いをして周りを焼き野原にしたという伝説の持ち主だ。
これが世界のトップ3だ。そしてそれが全て揃っている。
更に見た目は可憐だが、保有魔力量は世界一のクリス様がいる。GAFA戦では一閃で世界の4箇所あった大商会の巨大本拠地を殲滅させた。シャラザール山を見せしめのために一瞬で破壊されたあの威力は恐怖以外の何物でもない。
魔王かバカ王か知らないが、この史上最強の戦力を誇る我らに攻撃してくるとは愚かも良いところだ。
降伏勧告の使者など送ってきた魔王も魔王だが、暴風王女、赤い死神、果てはクリス様の怒りの雷撃受けてボロボロの状態で人間ロケットに乗せられて撃ち返されていた。
はっきり言って魔王は馬鹿なのか。こちらにはいざという時は最終兵器が控えているのだ。
降伏なんてするわけはないではないか。
敵の次のターゲットがワットの村だと知れて、その出陣準備に追われていた時だ。
同僚の護衛騎士のメイがソニアを連れてきたのだ。
「あっ、ソニアどうしたの」
ミアの声に俺は慌てて入口を見る。そこにはおどおどしたソニアがいた。いつも自信満々に行動してるのに、人見知りするなんてソニアらしくない。
「あのう、アルバート様とクリスにお守り代わりにハンカチに刺繍したの」
ソニアがおどおどして言うのを聞いた。
えっ、ハンカチに刺繍してくれたんだ。そんなの女の子からもらったことがない。
「アルバート様とクリスさん?」
ミアが首を傾げる。
「あら、ソニアじゃない。どうしたのこんなところまで」
ミアの後ろから変装しない金髪碧眼のままのクリス様が顔を出した。
おいおい、もう変装するのはやめるのですか。
でも、ソニアは固まっていた。いつも話している友達のクリスだって気付かないみたいだ。
「あ、筆頭魔導師様。ソニアがアルバート様とクリスさんにこれを」
ミアが機転を利かして話す。
「まあ、わざわざありがとう」
でも、クリス様は全く判っていないみたいだ。そのまま自分がもらおうとしている。まだソニアには自分が筆頭魔道士だって言ってないですよねと余程言いたかった。
「申し訳ありません。お忙しいところこのような所に罷り越しまして、インダルから参りましたソニア・サンスクリットと申します」
ソニアが慌てて挨拶した。
「えっ、あっ、そうね」
やっとクリス様は気付いたみたいだ。
「アルバート。あなたにもソニアがハンカチ刺繍してくれたそうよ」
クリス様が誤魔化したついでに俺を呼ぶ。
「えっ、わざわざ刺繍なんてしてくれたのか」
俺は嬉しさのあまり顔が崩れそうなので精一杯平静心で話す。ちょっとブスッとしたみたいだ。
「すいません。あまりうまく出来てはおりませんが、今までのお礼を兼ねて致しました」
「えっ、でもこれアルバートのとぜんぜん違うよ」
クリス様が平民クリス用のを開けてアルバートのと比べているのだ。おいおい、勝手に人のものを開けるなよ。と俺は言いたかった。
「すいません。それは友達用に作ったので」
ソニアは筆頭魔導師様がクリス本人だとは全く気づいていない。
「そうだよね。ごめんなさいね。私が開けてしまって。クリスにはきっちり渡すから。でも、何故アルバートと扱いが違うのよ・・・」
クリス様が俺のと比べて俺のがとても凝って手間隙かかっているのを見て怒っている。これは延々と言われそうだ。
そこへ都合よくイザベラがクリス様に声をかけた。
「ゴメン。ソニア、ゆっくりあなたとお話したいけれど時間がなくて。また、お話しましょう」
「あ、ありがとうございます」
ちょっとちょっとクリス様、平民クリスではなくて今は筆頭魔道士だということをわすているでしょう。
「アルバート、ソニアを門まで送ってあげて」
俺はソニアを送っていくことにした。
「はあ」
部屋を出るとソニアは思わずほっとしてため息をついた。
「どうした。ため息なんかついて」
「すいません。偉い方とお話するのに慣れていなくて」
そうだよな。筆頭魔導師様と話すことなんて無いよな。でも、それは君がいつも話しているクリス様なんだけど・・・・・
「偉い人?」
「そう、世界最強の魔導師の筆頭魔導師様にお目にかかるのは初めてだったから、粗相があったらどうしようって緊張しちゃって」
「えっ、ああ、そうだったね」
俺も適当に笑って誤魔化す。本当にソニアは天然だ。でも、いい加減に気付かないのかな。
「アルバート様。出陣前でお忙しいのでしょう。ここから一人で帰れますから」
ソニアは言うが、俺は強引に門までソニアを送ることにした。少しでも長く一緒にいたいと何故か思ってしまった。
「ちょっと魔王の件が落ち着くまでは学園には顔を出せないけれど、インダルの件は絶対に何とかするからそれまで頑張って訓練していて欲しい」
俺はソニアに約束した。
「あの、アルバート様。魔王の件でお忙しいと思いますので、私のことよりもそちらを優先して下さい」
「すまん。しばらくはそうなるが、そちらのことを忘れたわけではないからな」
俺は念を押した。
「そう言っていただくだけで私は幸せです」
「それとハンカチありがとう。大切に使うから」
俺は嬉しそうに言ったと思う。戦場に女の子の刺繍したハンカチを持っていくなんて初めてだ。
「ご武運を。必ず生きて帰ってきて下さいね」
「当然だ」
俺はそう返事したが、そんなふうに見送られるのも初めてだった。ソニアが少し涙目だった。
なんか戦場に行く騎士と恋人の別れみたいだ。
ソニアも赤くなっていだか、俺も顔が火照っていた。
ちなみにクリスには史上最強最悪の戦神シャラザールが憑依しています。
このお話には出てこない予定ですが。予定です、はい。
魔王との戦いは
「皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!」
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の「第七章 魔王復活」に詳しく記載しています。
宜しければそちらもどうぞ
この話では流す予定です。




