王女の侍女はハッタリで近衛を撒こうとしましたが、宰相の登場に断念しました
その日の夜中、ドンドン、ドンドン
と王女の部屋のドアがノックされた。
私ははっと飛び起きた。
昨日は疲れ切っていて着の身着のままそのまま寝ていたのだ。
私の今いる部屋は王女の部屋に隣接している。というか、具体的には王女の部屋の中だ。
王女の部屋は安全のために、大扉があり、その外には2名の兵士が2交代で常駐していた。夜はその内側の応接室に更に1人いた。王女の親衛隊と言うか護衛騎士は全部で10名おり、その隊長はルドラだった。
大扉の内側が応接室。その左横が兵士たちの詰め所でここで仮眠も取れる。右横が侍女の控え部屋で私ともうひとりの侍女ラルがいた。
「どうしたの?」
私は部屋を飛び出して応接室にいたルドラに聞いた。
既に控室にいた騎士3名は応接にいた。
「王妃が動いたらしい。王妃の兵30名が部屋の前にいる。王女を王妃が呼んでいるということだ。いま王女が準備しているので少し待てと言っている。が、兵士を迎えに来させるところが怪しい。我々は手はず通りに動く」
私の問にルドラが答えた。
この奥の王女の部屋から秘密の通路を使って外に出るのだ。
そうか、想定外に王妃は素早く動いたんだ。
私は彼らが私が来たことで動いたことを知らなかった。
しかし、ここで逃げ出しても果たして無事に逃げられるかどうか。
誰かがここで足止めに残った方が良い。
私は腹をくくった。ここでリーナを彼らに取られるわけには行かない。
「判ったわ。ここは私が時間稼ぎする」
「何言っている、ソニア」
私の決意にルドラは慌てた。
「このまま逃げたってすぐに追いつかれるわ。私がここで少しでも引き伸ばす」
「いや、しかし」
ルドラはその言葉に躊躇した。
「行って、時間がないわ。私は平民。命まで取られないわよ」
私はそう言うとルドラを無視して、執務室の上に置かれている内務卿の親書を掴んだ。
「さあ、行って」
「判った」
私の言葉にルドラは何か言いたそうにしたが、頷いた。
そう、さっさと行って!
私の言葉を聞いたようにルドラらは慌てて王女の寝室に入って行った。
私はリーナとルドラが幸せな生活を送ってくれることを祈った。
私は侍女に自分が出た後に門の鍵を閉めるように言って、ボフミエの内務卿の親書を持って外に出た。
外では兵士たちが今にも切りかかりそうな具合に睨み合っていた。
「どうしたのです」
私は今にも剣を抜きそうな勢いの王妃の護衛隊長のアサーブに言った。
「王女の侍女風情が何を偉そうに。王妃殿下がお呼びだ。すぐに王女殿下を準備させよ」
私に大声でアサーブは言った。
侍女なんて大声で言えば聞くと思っているのだろう。巨大な体に鍛え上げられた体をこちらに向けて威圧する。今までの私ならばこの言葉に思わず縮こまっただろう。
でも、私はこの数ヶ月、アレクやジャンヌら化け物じみた友人と訓練してきたのだ。
彼らはそんなに筋力がなくても凄まじい魔力を浴びせてきたし、剣術もこのアサーブに比べれば天と地の差くらいすごかった。
アサーブなんて全然怖くなくなっていた。
「護衛隊長風情が気安く話すな」
私は叫んでいた。
「な、なんだと」
「私はボフミエ魔導国筆頭魔導師様の密使としてこの地に来たのだ。筆頭魔導師様は既に、このインダル王国のリーナ殿下を女王として任命されたのだ。王妃の護衛風情が偉そうに言うな」
「は?」
一瞬アサーブは何を言われたか判らなかったみたいだった。
まさか、か弱い侍女の私にこんなふうに言われるなんて思ってもいなかったのだろう。
「な、何を言う。ボフミエなどという他国は関係ないだろう」
噛んでアサーブが反論した。
絶対に反論なんてしないと思っていた私に反論されて、調子が崩れたのだ。
本当に馬鹿だ。こんなのが王妃の護衛で良いのか。まあ、護衛だから脳筋で良いのだろうか。
「何を言っているの。ボフミエ魔導国はノルデイン帝国、ドラフォード王国などの超大国の皇太子殿下が中枢にいる国家連合なのよ。その超大国がリーナ様のバックについたのよ。その証拠にここにボフミエ魔導国からの親書があるわ」
私は国王の印籠よろしく内務卿からの親書を兵士たちに掲げた。
中身は内政干渉できないとしか書かれていないが、ハッタリは大事だ。
味方の騎士たちの白い目が痛い。
でも、ここは時間稼ぎが全てだ。
兵士たちはどうすればわからないらしい。目を見合わせて指揮官を見る。
「ええい、何を言う。我々は大国マエッセンの国王陛下が後ろ盾となってくれているのだ。このような小娘の言うことなど、効かずとも良い」
「あんた馬鹿なの。マエッセンなんて小国、ノルデイン帝国に歯がたつわけ無いでしょ。私の後ろには赤い死神、ノルデイン帝国皇太子殿下がついているのよ」
私は胸を張って言った。どれだけ威張って言えるかどうかだ。こんな脳筋、上から目線には齢に違いない。マエッセン以上の強力な国の存在をちらつかせる。
「何故ボフミエにノルデインの皇太子殿下が関係する」
「本当に馬鹿ね。今ノルディン帝国の皇太子がボフミエの中枢にいるって言ったでしょ。ボフミエの外務卿が皇太子殿下なのよ。そんなのも知らないの?」
私は馬鹿にして言った。
「なっ」
脳筋はどうしていいかわからなくなったみたいだ。ここだ。
「女王陛下に逆らうということは国家反逆罪よ。あなた方、処刑されたいの」
私はひと押しした。
国家反逆罪と言われて兵士たちは動揺した。
兵士たちはおそらく王女を捕まえてこいと言われたはずだ。それが国家反逆罪に当たると言われて動揺している。もう一息だ。これは予想外にうまくいくかも知れない。
私が少し安心した時だ。
アサーブの後ろからいきなり大きな笑い声がしたのだ。
そこにはこの国の宰相イシャンがいた。
私はこの出たところ作戦がうまく行かなくなったことを思い知った。
陰険宰相の登場でソニアは危機に
次回は明朝更新予定です。