王女の侍女はインダルに帰る手配をボフミエの文官にお願いしました
その知らせはルドラからの特別魔術便によってもたらされた。
インダルから持ってきた魔術紙にいきなり文字が現われたのだ。
国王死す ルドラ
とその紙には記されていた。
これだけ送るのにもとても魔力がいるものだ。下手したらルドラはこれを書いた後気を失ったかも知れなかった。
インダル王国、アールシュ・インダル国王陛下、今でこそ、現王妃カイラに尻に敷かれたどうしようもない王と呼ばれているが、昔、王妃と私の両親が殺された時に、王妃の忘れ形見リーナ姫に私を侍女兼友人にしてくれたのが国王陛下だった。
「その方にもつらい思いをさせた」
と10歳の私の頭を撫ぜてくれたのも国王陛下だった。
その当時は私のとっては優しい父のような方だった。
その国王陛下がどうやって亡くなったかは判らないが、絶対に王子派の王妃が何かしたに違いない。
そして、国王が亡くなった今、リーナ王女の命は風前の灯だった。
王女は両親がいない私には、唯一残った肉親のような方なのだ。
私は王女を助けるためにインダルに帰ることにした。
本来ならばアルバートに助けを頼むのだが、今はボフミエ魔導国は悪の権化の魔王と戦かうのに必死だ。到底インダルを助けてくれなんて言える状態ではなかった。
でも、出来たら最後に一目だけでもアルバートに会いたい。
当然死ぬつもりはなかったが、どうなるかは判らなかった。
国王陛下が暗殺された可能性は高い。リーナ姫もとても危険な状況だろう。
私が生きて再びこの地に帰れるかどうかも判らなかった。
最後にきちんとお別れだが言いたかった。
宮廷の門番に取次を頼むと、宮廷の応接間に案内された。
我がインダル王国の王宮の応接間とは比べようもないくらいとても立派な作りだった。
こんな所に案内されて、私は生きた心地がしなかった。
そこに扉が開いて何故かオウが入ってきた。
「どうした。ソニア嬢。今はクリスもアルバートも戦場に向かっていないのだが」
「やっぱりそうですか。出来たらお会いしたかったのですが」
私は残念に思った。
「それよりもその胸のペンダントだが」
「えっ、これですか。アルバート様に預かっておいてくれるように頼まれたのですが」
「そうなのか」
オウは驚いて言った。
「何かまずかったですか」
私が聞くと、
「いや、そんなことはない」
オウは頭を振っていってくれた。なんか引っかかるけど、今はそれどころではない。
私はインダルに帰る旨を理由も含めてオウに説明した。
「いや、ソニア、それは危険だろう」
「危険は承知しています」
私はオウの言葉に反論した。
「そもそもどうやって帰るつもりだ。クロチアへの道は閉鎖されているぞ」
「行けるところまで船で行って後は陸路を迂回しようかと」
「女一人でそんないきあたりばったりの行程うまくいくわけ無いだろう」
「そんなのやってみないとわからないじゃないですか」
「君はクリスの大切な友人だ。この戦いもすぐに終わる。それから我々が責任をもって当たるからそれまで待ってもらえないだろうか」
私は出来たら待ちたかった。でも今もリーナには刻々と危険が迫っているのだ。何日かかるかわからない戦争の終結なんて待てなかった。
「そんなこと言って、このまま待っていたらリーナ王女が殺されてしまったらどうするんですか。王女はもう私のたった一人の肉親のような方なんです。私、両親が王妃と一緒に殺されてからずうーっとどんな辛いときも王女と一緒でした。そんな王女が殺されるのをここで黙ってみているわけには行かないんです」
そう言うと私は泣き出しした。
両親が亡くなって私が一人ぼっちになった時に王女も一緒に泣いてくれたのだ。
それ以来辛い時も悲しい時もずうーっと王女とは共にしてきた。
その王女を今見捨てるわけには行かなかった。
オウは呆然とそれを見ていた。
ミアが入ってきて、泣く私の肩を抱きしめてくれた。
「判った。君がインダルに帰れるようになんとか手配ししてみよう。少し待ってくれるか」
オウの言葉に私は驚いてオウを見た。
「でも、今ボフミエは魔王戦の前で大変なのでは」
私が驚いて聞いた。
「そう、本当に大変だ。でも君は放っておくとそのまま考え無しでインダルに帰ってしまうだろう。そんな事させたら俺がクリスに二度と許されないし、アルバートに殺されてしまう」
オウは忌々しそうに言った。私が死ねばアルバートは悲しんでくれると思うが、殺されることはないと思う。何しろ私は弱小国の平民の侍女なのだから。
「本来ならば、クリスが帰ってくるまで待って欲しい。そうすれば王女を応援しよう。でも君は待てないっていうんだろう」
「はい。すいません。でも、帰ったら王女が死んでいたなんてことになったら私一生自分を許せません」
「でも、約束して欲しい。王女に会ったらなんとか王宮を出て潜伏させろ。魔王戦さえ終えれば何とかする。もし、君に何かあれば本当に私は命がやばくなるのだから」
私はオウの言う意味がよく判らなかったが、取り敢えず、オウの好意に甘えることにした。
下手に自分一人で行動しても無事にインダルに着ける保障もない。それよりは手を尽くしてくれるオウにすがってみようと思った。
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