王女の侍女は大国公爵令息にキスされました
「何で、魔王は死んだんじゃなかったの」
「死んではいないだろうって最初に言ったよね」
「でも、ダメージは受けたんでしょ。宮殿も全壊したって。なのに、どうして隣国に攻め込む力が残っているのよ」
教室でケチャにメリが食って掛かっていた。
「まあ、相手が魔王だからじゃない」
「不死身なの」
ケチャの言葉にメリが言った。
そう、魔王は不死身かもしれないって私は思った。
それに魔王に占領された北に我がインダル王国はあるのだ。
皆大丈夫だろうか。
私は新たな危険にとても不安に思っていた。
「アルバート様!」
廊下でアルバートを呼ぶ声が聞こえた。
「えっ?」
私がそちらを向くと近衛服姿の凛々しいアルバートが立っていて、私を手招きした。
「悪い、忙しいところ」
「いえ、この時間は授業がありませんから」
みんなが注目している。
特に貴族の女の子の視線が怖い。
私は単なる弟子なんだからそんな目をしないで。
私は叫びたくなった。
「少しだけ良いか」
「はい」
アルバートは流石に人目を気にしてくれて、空き教室に案内してくれた。
「どうされたのですか。お忙しいアルバート様が」
私は席につくなり聞いた。
「いや、ソニアが、インダルのことを気にしているかなと思って」
「えっ、心配して頂いてありがとうございます」
私はアルバートが未だに賭のことを気にしてくれているのを知って喜んだ。
そう、未だに約束が果たされないことを気にしてくれているのだ。
「で、何か判りましたか。故国とは検閲とか気になってあまり連絡していないんです」
「そうか。臣下の大半が王子派だもんな」
「はい」
「取り敢えず、魔王は今は占拠したクロチアの占領体制の確立に動いて近隣諸国まで手が回らないようだ」
「そうですか。良かったです」
私は少しホッとした。
「筆頭魔導師様も今回の件はとても憂いられておられる。せっかく魔王を雷撃したのに、即座に隣国に侵攻したのだからな」
「魔王には筆頭魔導師様の雷撃は効かなかったのでしょうか」
「そういうわけではないと思うが、魔王だからな」
言いにくそうにアルバートが答えてくれた。
「すいません。答えにくいこと聞いて」
私は慌てて謝った。
「いや良い。筆頭魔導師様も我々もそろそろ我慢は限界だ。もうすぐ魔王に攻撃を開始する」
「そうなのですか」
私はアルバートを見つめた。魔王と戦って大丈夫なのだろうか。
「これからは忙しくてこちらにも中々来れないだろう。
インダルの事は気になるとは思うが、私が帰ってくるまではこの地に留まっていて欲しい。この魔王戦が終われば絶対にインダルに連れて行くから。それだけを言いに来た」
「えっ、わざわざ、そんなことのために」
私は驚いてアルバートを見た。
「そんなことのためにって、ソニアはすぐに暴走しそうだからな」
「子供じゃないです。それにクロチアが占領されてクロチア川が使えないので、帰るルートが無いですから」
行きはクロチア川を船で下ってきたのだ。魔王の占領地を避けて陸路を取ると1ヶ月以上かかる。
「約束してくれるか。待っていてくれると」
「はい、判りました」
「はい、じゃあ指切り」
私はアルバートと小指を絡めた。なんか恋人みたいだ。
いや、絶対にそれは無い。何しろアルバートは超大国ドラフォード王国の公爵令息であり、その地位は小国の王子を上回る。下手したらマエッセン王国の王子並みなのだ。
私に恋心を持ってくれるとか絶対にありえなかった。
「それとこのペンダントを預かって欲しいんだ」
それは銀の鎖にバーミンガム公爵家の紋の風車をモチーフにした物だった。
「えっ、これって高価なものでは。こんな物お預かりするわけには」
「戦場に行く騎士の安全祈願のようなものだ。こんなの頼めるのはソニアしかいないのだが、駄目だろうか」
そんなふうに親切にしてもらっているアルバートに言われると断りにくい。
「判りました。お預かりしますね」
私はアルバートに頷いた。アルバートには無事に帰ってきて欲しい。
「じゃあ、つけよう」
「えっ・・・・」
アルバートは近づいて首の後に手を回す。
アルバートの凛々しい顔が直ぐ側にある。
近いっ、近いんだってば
私は恥ずかしさで真っ赤になった。
しかし、次の瞬間、それ以上に仰天することが起こった。
私の唇に温かいものが触れたのだ。
一瞬何が起こったか判らなかった。
そして、それがキスだと判った時、私の頭はスパークした。
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