魔王は雷撃されたにもかかわらず、隣国クロチアを占拠しました。
翌日以降昨日の顛末の詳細がどんどん判ってきた。
あの私達に叫んでいた令息の父親、フォルスト伯爵はやはり魔王の手先になっていたらしい。
筆頭魔導師様の御前に出て、「命が惜しければ魔王に降伏したほうが良い」と言い放ったそうだ。
しかし、筆頭魔導師様の横にはボフミエ魔導国の誇る?最終兵器が控えていたのだ。
赤い死神と暴風王女のド怒りをかって爆裂魔術を浴びて半死半生の目に合わされたらしい。
本当に馬鹿だ。このボフミエ魔導国には世界の2大凶器と言われる赤い死神と暴風王女が揃っているのだ。そんな事を目の前で言えばどうなるかは私でも判るのに!
赤い死神や暴風王女が魔王を怖れるわけ無いじゃん。
貴族って本当に馬鹿なんだろうか。
いろんな陰謀が渦巻く宮廷内を泳ぎ回っているはずなのに。
だが、魔王も伯爵がそう言えば二人から攻撃を受けるのは判っていたらしい。
それを見越して伯爵の体に魔導爆弾を仕込んでいたらしい。
その凄まじい破裂音が我々が最初に聞いた爆発音の正体だったのだ。
「その後、魔王の声が響いたそうよ。
『われは魔王。ボフミエの愚か者共に注ぐ。直ちに降伏せよ。
貴様らが降伏しないのならば今度は嫌がる女子供を無理やり改造して貴様らの元に遣わしてやるわ』
と言ったそうなのよ。でも、それで我らの筆頭魔導師様の我慢の限界が来たんだって」
「えっ、どうなったの?」
ケチャの言葉に皆、興味津々に聞く。
「『黙れ。貴様のような者は私が許しません』とおっしゃられて渾身の雷撃をモルロイの宮殿に飛ばされたのよ」
「凄いじゃない」
それがあの光の束の正体だったんだ。でも、あの莫大な光の塊が、か弱そうな筆頭魔導師様から放たれたなんて到底信じられなかった。
「で魔王はどうなったの」
「『ギャーーーー』という悲鳴が聞こえてそれ以来声は聞こえなくなったッて。フォレスト伯爵と一緒に来ていた貴族共は驚いて筆頭魔導師様に平身低頭していたそうよ」
ケチャは臨場感を声に表して話した。
「魔王は死んじゃったのかな」
「あれじゃあ、死なないって騎士団の人は言っていたけど、ダメージは受けたはずよ」
「でも凄いわね。筆頭魔導師様。魔王に対して『黙れ。貴様のような悪逆非道な者は私が許しません』なんて言うなんて」
「本当。私も言ってみたいわ。『黙れ。貴様のような悪逆非道な者は天が許しても私が許しません』なんて」
なんか筆頭魔導師様のおっしゃられた言葉がどんどん誇張されて増えているんだけど。
噂ってこういうものなのだろうか。
その一週間後の休みに街のカフェで隣の女性たちが話していた話によると、
『黙れ魔王。このように人の命を弄ぶとは、貴様のような人倫にもとる悪逆非道な魔王は、天の戦神シャラザールがお許しになっても、このボフミエの古の3大魔導師よりこの地を治めることを命じられた筆頭魔導師クリスティーナ・ミハイルが許しません』
になっていた。多少は言葉が違うかも知れないけれど。
そんなに話していたら私が魔王ならば逃げていると思うんだけれど。もっとも大きなモルロイの王宮が一瞬で黒焦げになったそうだから逃げるのは難しかったかも知れないけれど。
「流石ボフミエ魔導国。筆頭魔導師様は世界一の魔導師よ」
「さすがの魔王も無敵の筆頭魔導師様の前に退治されたのね」
ケチャもメリも盛上っていた。おーい、二人共前日話していたことと180度違うんだけど。
まあ私としても、あの優しそうな筆頭魔導師様が悪逆非道の魔王を雷撃一発で黙らせてくれて、ホッとしていたんだけど。
正義は勝つんだと。
ついでに我が弱小国家のインダル王国のか弱いリーナ姫を助けて欲しい。
怖い怖い学園長を言い負かしてくれて。
魔王に対する雷撃攻撃で学校も街もお祝いムード一色になった。
広場には屋台が立ち並び、祝魔王雷撃とか、祝魔王撃破とか、ボフミエ魔導国の旗が林立し、至る所に横断幕が張られていた。
もう魔王を滅ぼせたかのようだった。
しかし、翌週、被害甚大だったはずの魔王軍は、ボフミエ魔導国の北方、隣国のクロチアを一瞬で占拠したのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
魔王雷撃しても不死身です。
そろそろインダルも影響受けるかも・・・・
次話は明朝更新予定です。
ブックマークまだの方はよろしくお願いします。




