筆頭魔導師は魔王の本拠地を雷撃しました
しかし、戦況はそれから膠着していた。
何故か魔王も攻めてこなかったが、こちらからモルロイに攻撃に転じることもなかった。
それは絶対に学園長や保守派の面々が反対しているからだろうことは容易に想像がついた。
また、国境の街に進出するために魔王が暗躍しているとか不穏な噂も流れた。
国境付近に領地のある貴族の子らは不安そうにしていた。
私の唯一の救いはモルロイと国境を接するマエッセンが我々のインダルに構う余裕が無くなったことだけだった。
このままこの状況が続けばマエッセンもインダルに手は出せない。
でもそれだとアルバートやクリスらがずうーっと戦場に拘束されることになる。
それも嫌だ。
私としては魔王がさっさと筆頭魔導師様に退治されてリーナ王女を助けてくれるのが一番いいんだけど。
でも、筆頭魔導師様と話せば話すほど魔王なんかに勝てるようには思えなくなっている。
だって部下の学園長のほうが強いっておかしくない?
「うーん、確かに筆頭魔導師様は黒死病を浄化されたけれど、やっぱり魔王と戦うのは難しいんじゃないかな」
ケチャが数学の授業の前に私に言う。当然彼女も最低クラスにいた。
「そうよね。見た感じあんな華奢だし」
メリが頷く。メリも私と同じで最低クラスだった。
私達は黒死病浄化の時の高揚感は消えて、魔王の恐怖が再び強くなっていた。
学園から他国へ留学する貴族の子弟もポロポロ出だした。
「国境に領地のある貴族の所にモルロイから使者が入っているそうよ」
物知り顔でケチャが言った。
「なんでそんなの知っているのよ」
メリが聞く。
「知り合いの騎士の先輩が教えてくれたの」
「でも、それ、あなたが知っているってことは、当然上も掴んでいるんでしょ。暴風王女や赤い死神に知れたら、ただじゃ済まないんじゃない?」
私が言う。
「そうよね。ここで手を下さないと魔王を怖れて捕縛しないんだってことになるし」
「ふんっ、赤い死神も暴風王女も魔王を怖れているんだよ」
私達の話に隣で聞いていたフォルシャフト伯爵令息だったかが言い放った。
「えっ、どういう事?」
ケチャが聞く。
「どうもこうも無いよ。魔王は無敵だぞ。赤い死神や暴風王女では勝てないよ」
「そうそう、たとえ筆頭魔導師様といえども黒死病菌には勝てても、魔王には勝てないよ」
貴族たちが頷く。
私達もそういう不安を感じていたのだが、他人に言われるのはなぜか我慢が出来なかった。
「何言っているのよ。筆頭魔導師様は絶対に魔王よりもお強いわ」
私は思わず声を出していた。
「何だお前は。確か淫乱とかいう小国から来た平民か」
「はんっ、貴族って本当に馬鹿ばかりね。そのワンパターンしか言えないの」
私はあまりにもバカらしくって言い返していた。
「何だと。貴様。今回は守ってくれるアルバートもいないんだぞ」
「そうだ!やるのか」
「何言っているのよ。筆頭魔導師様はあんたたちが飢えようとしていたのを雷撃で一閃、悪徳商人たちを一掃してくれたのよ。自国のトップを信じられなくてあなた達はそれでもボフミエ人なの!」
「そうだ。前皇帝の悪政もお前ら貴族共が不甲斐なかったからだろうが。それを筆頭魔導師様が倒していただいたんだぞ。お前ら皇帝の悪政の時は何も出来ずに静かにしていただけじゃないか」
「そうだそうだ」
私の周りには平民を中心に一致団結して言った。
「ふんっ、今のうちに吠えておくが良い。後で吠え面かくなよ」
フォルスト伯爵令息が言った。
「何だと」
「今日我が父上が、無駄な抵抗を止めて降伏するように筆頭魔導師様と面談している。どちらが正しいかはすぐに判るさ」
フォルスト伯爵令息が言った。
えっ、この伯爵家、完全に魔王についたって今言ったよね。絶対馬鹿だ。そんなの赤い死神が許すわけないじゃない。
私がそう思った時だ。
ドカーン
巨大な爆発音が宮廷の方からした。
「何事だ!」
「どうした?」
「敵襲か?」
皆、慌てて窓に張り付くが、こちらからは城壁が邪魔になって殆ど見えない。
怒った赤い死神が裏切った伯爵を血祭りにあげたんだ、と私はその時思った。
そして、次の瞬間凄まじい光がの束が宮廷から空へ向けて放たれたのだ。
一瞬にして空が真っ白になる。
「ら、雷撃だ」
「ついに出た!」
「筆頭魔導師様の雷撃だ」
そうか、これが筆頭魔導師様の雷撃なんだ。
そのあまりの凄まじさに私は呆然とした。
あの華奢な筆頭魔導師様がこんな凄い魔術を使えるなんて。
これなら魔王に勝てるかもしれない。
私は本気で思った。
そして、事実この雷撃で魔王の本拠地のモルロイの宮殿は一瞬でこの世から消滅していた。
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