王女の侍女は大国公爵令息を障壁で弾き飛ばしました
「ああ、食った食った」
デザートまで完食してジャンヌが言った。
女性の言葉としてはどうかとは思うが、アレクはそれを見てもなんとも思っていないようだ。アレク自体超イケメンで体つきも精悍な感じで女生徒の人気も高そうだ。そんなアレクを従えているなんて余程何かを持っているのだろう。王女やクリスとはまた違うタイプだ。ジャンヌにしてもクリスにしても、どちらもとびっきりの美女ではなくてもイケメンを従えられるなんて、女は顔だけではないのかもしれない。私は少し安心した。
「お姉さま。ソニアはリーナ王女を守れるようになりたいそうです」
「リーナ王女?」
「インダルの王女だ」
クリスの話にリーナって誰だと問いかけたジャンヌをオウがぶった斬るように言う。いやいや、インダルの王女殿下の名前知らなくても普通だと思うんですけど。
「それで出来たら魔導1組でトップのお姉さまにみていただきたいんですけど」
「うーん、でも、私は教えるのは苦手だぞ。この前も一人廃人にしかけたし・・・」
ジャンヌは見た目にかけず、凶暴らしい。というか、相手は私だ。私もいきなり廃人にはなりたくない。というか、どれだけ凄いことしているんだ。学生だろう!と私は叫びそうになった。
「剣術はある程度使えるそうなんです」
「でも、インダルのレベルだろう」
ジャンヌの言葉に一瞬私はムッとした。一応親衛隊のルドラと訓練してきたのだ。ここボフミエは魔導国家。剣術はもう一つのはずだと私は思ったのだ・・・・
でもそれは間違いだった。
学園の訓練場では、休みなのに、多くのものが皆訓練していた。
それを見て、私が見ていたのは事務クラスの訓練だったと初めて理解した。授業でアルが最初に出していたファイヤーボールがとても小さいと思えるほど皆巨大なファイヤーボールを皆出していたのだ。
そして剣術だ。凄まじい太刀筋で皆斬り合っていた。でも、それならまだイケルと思ったのだが、
「ジャンヌ、俺らもやるか」
「ふんっ、今日こそは目にもの見せてくれるわ」
アレクとジャンヌが嬉々として模擬剣を持って戦い出した。
「えっ」
その凄まじさに私は唖然とした。うそ、これがボフミエの学生レベルなの。
その凄まじさに私はただ棒立ちするしか無かった。
なおそれにプラスして簡単に転移して斬りつけるのだ。転移なんて出来る人は少ないはずだった。更に二人は剣を交えながら、魔術を攻撃に防御に使っていた。その魔術1つ受けたら私は絶対に死んでいる。そんなレベルだった。
剣にしても凄まじい速さと強さだった。手加減されずにやったら確実に死ぬレベルだ。
これがボフミエの学生レベルなの?
「あれと比べたら駄目だよ。あれはおそらく世界トップレベル」
呆然と立ち尽くす私にオウが言ってくれた。
いやいや、何でボフミエなんて魔導国に世界トップクラスの剣士がいるんだよ。
それも学生で。私は訳が判らなくなった。
「くそ、また負けた」
髪を振り乱してジャンヌらが戻ってきた。
「ふふふ。まだまだ努力が足りんな」
アレクがふんぞりかえっていう。
なんてカップルなんだ。この二人がいればあるいはマエッセンの軍にも勝てるんじゃないかと私は一瞬思ってしまった。あの巨大爆裂魔術を衝撃波を纏った剣で弾くなんて普通は無理だ。
もう、今頼むしか無い。
「ジャンヌ様、アレク様、何卒我が王女リーナをお助け下さい」
私は二人に頭を下げた。
「えっ、おい、いきなり何やっているんだ」
ジャンヌの焦った声が聞こえた。
もう、プライドも何も無かった。マエッセンの圧力は強力だ。現王妃はますます力を持ってきている。このままいったらその子供の王子がリーナに代わって王位を継ぐだろう。
でも、アレクの話聞いたらそれだけでは済まない。前王妃は近隣諸国にも鳴り響いた絶世の美女だった。それをマエッセン国王は毒牙にかけようとしたと言う。マエッセン王は何人もの美姫を従えた欲望の塊の王だと聞いたことがあった。リーナも母に倣って美人になっている。近隣諸国からの婚姻の申込みも多い。このままいったら王位を簒奪されてその身もマエッセン王の慰みものにされるのは確実だった。
「無理言っているのは判っています。でもこのままだとリーナがマエッセン王の人身御供になってしまうんです」
「まあ、おそらく良いところ妾に囲われるっていう感じだろう」
冷たい表情でアレクが言った。
「でも、それがどうした。王侯貴族にとって政略結婚は当たり前の事だし、インダルなんて力のない国は当然の、ギャッ」
アレクの悲鳴で私は思わずアレクを見た。
アレクが足を抑えて悶ている。ジャンヌが思いっきり踏んでくれたようだ。でも何故?私はよく判らなかった。
「アレクは言いすぎ。それにソニア。いくら私達が出て行ったって王位継承権をひっくり返すなんて無理だ。内政干渉に当たるし」
ジャンヌが言う。
「判っているんです。それが難しいことは。でも、私の両親は王妃襲撃の時に王妃を守って死んだんです。名誉の戦死だと思っていました。でも、今のアレクの言葉を聞いたらマエッセンの色ボケ王の欲望のために死んだって事になって、そんなことのために両親は死んだんだって・・・・なんか悲しくなってきて」
私は目から涙が出て来た。
「判った。そこのアルと戦って勝てたらいざという時は助けよう」
ジャンヌが言ってくれた。うそ、こんな簡単にチャンスくれるなんて思ってもいなかった。
「えっ、お姉さま。いくら何でもそれは無理では」
「いえ、よろしくおねがいします」
クリスが援護してくれようとしたが、私は礼を言った。元々ダメモトで言ったのだ。少しでもチャンスが有ればやって見る価値がある。
「えっ、何で俺が」
アルが驚いて文句を言った。
「だって私とかアレクよりも可能性があるだろう。オウにしたらわざと負ける可能性があるし。でも近衛騎士のお前がまさか負けるわけはあるまい」
ジャンヌが言った。
確かにアルは筆頭魔導師様の近衛騎士。普通では絶対に勝てない。でも、私は一つだけ思いついたことがあったのだ。うまくいくかどうかは判らなかったが。
まあ、ダメでもともとだしやって見る価値はあった。
「アル様。よろしくお願いします」
私は頭を下げた。
「ちっ、仕方がないな。容赦はしないぞ」
アルは言った。
「えっ、容赦しないの。可愛そうなソニア、ご両親が殺されたのに」
クリスは憤ってくれた。
それを見てアルは少したじろいだ。
いつもクリスの側にいるアルだ。オウがいてもクリスに少しは好意があるはずだ。私は何でも利用するつもりになっていた。
「アルバート、近衛が負けるなよ」
ジャンヌが煽って来る。
アルは模造剣を構えて私と正対した。
しかし、私は模造剣を横に捨てた。
「えっ」
アルや皆は目を見張った。
特にアルは動揺した。丸腰の私に斬りかかるなんて騎士なら絶対に無理だろう。
思わず剣の構えを解く。
私はその時を待っていた。
私は手を前に構える。
「出でよ。障壁」
アルは私の構えを見て少し身構えたが、障壁と聞いて更に戸惑った顔をしていた。普通の障壁を目の前に張ったところで攻撃にはならないし、それで勝てはしないのだろから。攻撃も受けていないのに障壁なんて張ってどうするつもりだと戸惑ったはずだった。
でも、私の障壁はクリスの障壁を参考にしていた。そうクリスほどの巨大障壁を築くのは無理だったから、縦長の障壁をアルバートの目の前に張ったのだった。それも持てる力のすべてをかけて。
巨大な縦長の障壁が一瞬でアルを飲み込んで弾き飛ばすのを意識が真っ白になる前に視界の端で捕らえて私は気を失っていた。
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