BAR1
車に戻った2人は、真っ直ぐ御所に向かう。
「姉御、ただいま」
と、安道が言うと、
「どうだった?」
竹田が返す。
「ゼロで間違いない」
「なら、明日にはコッチに引っ張れるように、上に連絡いれとくわ。後は何かある?」
「お嬢ちゃんを資料室に連れていって、ある程度教えといてくれよ。おれは地域調査に行くからよ」
と、安道が地域調査の部分を、声を大きくして言ったのだが、
「調査って、ただ呑みたいだけでしょう!」
と、安道の言葉に、竹田の声が大きくなる。
「俺が飲み屋でどれだけ魑魅魍魎潰したか、数えた事あるか?」
横目で竹田を見ながら、安道が声のトーンを落として言った。
「うぐっ……」
と、言葉に詰まる竹田。
「奴らが飲み屋で獲物物色してるのは、紛れもない事実だ。俺だって毎日呑みたいわけじゃねーよ。仕事なんだよこれも」
「それで女口説かなきゃ、認めるんだけどね!」
「俺が口説いてるんじゃねーよ。向こうが俺を口説いてくるの! じゃあな!」
そう言って、部屋を出る安道。
「まったく!」
と、悪態をつく竹田。
「あの? 竹田課長?」
と、菊池が問いかける。
「何? 菊池さん」
「安道さんって、いつもあんな調子ですか?」
「いつもあんな調子よ。腕は良いんだけど、人格に問題有りなのよ」
「ていうか、全然女性にモテそうに見えないんですけど?」
「確かに見えないわね。でも菊池さんも気をつけてね」
「フシミさんって人にも、似たような事いわれましたけど、あり得ませんから大丈夫です! で、資料室ってどこなんでしょう?」
と、自分は安道に興味ないと宣言する菊池。
「美琴も忠告済みか……資料室はこっちよ」
そう言って席を立ち、菊池を案内する竹田だった。
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京都御所にある、宮内省京都事務所から出た安道は、京都市地下鉄の駅に向かって歩き出す。
地下鉄今出川駅から電車に乗り、竹田駅で近鉄線に連絡し、近鉄小倉駅で降りた安道は、駅の西側にある飲み屋の多い地域を歩く。
時刻は夕方の6時。
一件のBARのドアを開ける。BAR kayamaと看板に書いてある。
「いらっしゃいって、なんだ安道か」
カウンターの中に居る男が、安道を見てそう言う。
「なんだはないだろターチン、友達によ」
安道が軽い感じで言い返す。
「友達だからだよ。お前は安くしてやってるから儲け少ないんだよ」
ターチンと呼ばれた男は、ぶっきらぼうにそう言った。
「さんきゅ!」
「昨日はどこで飲んでた?」
「宇治駅の近くで飲んでたのまでは覚えてる」
「目が覚めたのは?」
「観月橋……」
「また女にお持ち帰りされたのかよ。羨ましいこって」
と、笑いながら言われると、
「なんかガンガン飲まされてな。俺の何がいいのかねぇ? 見た目だって良くねえし、ムキムキマッチョでもねぇし、若いわけでもねぇしよ」
と、安道が自分を客観視して言う。
「男の俺に分かるわけない」
「そりゃそうか、ターチン、ハチミツ梅酒ロックで」
そう言って、カウンターの隅に座る安道。
「あいよ!」
「最近マッチャン来てるか?」
「マッチャンは来てないなぁ。忙しいんじゃね? 今分裂騒動の真っ只中だしさ。心配なら電話してみろよ」
「だろうなぁ。まあ生きてるなら良いんだけどよ。まあ、メールでもしてみるかねぇ」
と、スマホを操作する安道。
「死んだらニュースで流れるから分かるよ。良くも悪くも有名人だしな」
そう言って、安道の前に梅酒ロックが入ったグラスを置く、ターチンと呼ばれた男。
「一部の、という限定付きだがな」
そう言ってグラスを手に取り、クイっと一口飲む安道。