天井を見つめる
一応、最終話となります。
気が向けば、新しい話を考えるかもしれません。
あと、新作のハイファンタジーを連載開始しました。
後書きにURLを載せておきます。
鈴木家の神葬祭が、葬儀場で行われている。
鈴木家も、数多くある大和国の宮家の末裔であるので、葬儀は神道の葬儀である。
元宮家は全て神道である。
仏教、寺に墓があるのは、なのは安道家だけだ。
これも、別の道を進んだ初代からだが。
公安の制服に身を包んだ、陰陽師や退魔師達が参列する。
遺影には、公安の制服を着た、笑顔の鈴木女史。
別の葬儀場では、伏見家の神葬祭が行われている。
遺体の入っていない棺の上に、美琴の写真が置かれている。
こちらにも制服姿の退魔師や陰陽師が、多く姿を見せている。
しかし、そのどちらの神葬祭にも、安道の姿はなかった。
後日、
「貴様が我が娘に別れの挨拶など、許さん! 貴様がいなければ、我が娘が蜘蛛に取り憑かれることも、命を落とす事もなかったのだ! 闇の家の男の癖に、我が娘を誑かしよってからに! 帰れっ! 竹田家の娘が居なかったら、殺してるところだ! 竹田家に感謝しろ!」
この言葉は伏見家当主が、伏見家を訪れた安道に言った言葉である。
晴明からの、経緯の説明は既に終わっている。
皇室から1番最後に、民に降った伏見家。
当主の気持ちの中では、いまだに宮家なのだう。
光の家の娘が、闇の家の男と関係があった事など、認められないのだろう。
影の安倍家やその分家などは、民に降った宮家から妻を迎え入れたりしているので、邪険に扱われる事はほとんどないが、闇の安道家は、影の家との婚姻はあっても、元宮家との婚姻は無い。
それ故に、邪険に扱われる事もよくある。
「いえ、伏見さん、安道がいなければ絡新婦に、京都が蹂躙されていた可能性も!」
と、竹田が助け舟を出したのだが、
「妖怪など、安倍晴明が居るだろう! 闇の家など必要無い!」
と、伏見家の当主が言う。
「いえ、晴明様達では倒せない妖怪も居るんです!」
と、竹田が言ったのだが、
「絡新婦は、全国的に出没する妖怪だろう! 陰陽師が倒しているではないか!」
と、他の地域を引き合いに出す、伏見家当主。
「京都の妖怪は、他の地域の妖怪とは格が違うのです!」
そう、京都の妖怪は、他の地域に比べ、圧倒的に強力なのだ。
コレは長く都であった京都には、多くの妖気が渦巻いているからだ。
「それでも5人いるのだろう! こんな奴に頼らなくても倒せるはずだ!」
と、聞く耳持たない伏見家当主。
「ですから、力の違いが……」
「何を言おうが、私は認めん! 闇などこの国に必要無い!」
と、言う当主に、
「そうですか……分かりました……では失礼します」
そう言って、頭を下げて立ち去る安道の背中に、
「安道……」
と、安道を庇えなかった事を、申し訳無さそうな声を出した竹田。
「仕方ないさ。美琴を殺したのは……俺だしな」
振り向いた安道が、竹田に作り笑いを見せて、そう言って去っていく。
人通りの少ない道を、トボトボと歩く安道に、
「晴牙さん」
と、声がする。
声の方を見ると、車に乗った杏奈がいる。
杏奈は、安道と過ごした10日間(最初の1週間は赤刀蛇だが、残りの3日は晴牙の自覚はある)の時から、安道と呼ばずに、晴牙さんと名前で呼ぶようになっていた。
つまり、安道は7日どころか10日休んだのだ。
「あれ? 杏奈ちゃん、こんな所でどうしたの?」
と、安道が言うと、
「仕事の打ち合わせの帰りです。乗ってくださいよ」
と、杏奈が言った。
打ち合わせは確かにあったが、今居る場所は、かなり遠回りの道である。
「ありがとう」
安道がそう言って、助手席に座り、
「仕事って、いつも家でしてたやん。打ち合わせって?」
と、安道が杏奈に問いかける。
安道は目が覚めてから、ずっと杏奈の部屋に居たのだ。なので杏奈が仕事しているところも、その目で見ている。
「デザインや制作は家でするし、お店は宇治の商店街にありますけど、今度京極通りにお店出すんですよ」
と、杏奈が笑って言う。
「へえ! 凄いね」
と、安道が言う。
京極通りとは、京都市の三条通りと四条通りの間にある通りの事で、数多くの店が並んでおり、京都の若者が遊びに行く場所でもあるし、観光客が多く訪れる場所でもある。
「修学旅行の学生さん狙いの、安くて可愛いアクセサリーを作って売るんです。晴牙さんはなんであんなとこ歩いてたんです?」
との、杏奈の問いかけに、一瞬言葉を詰まらせた安道は、
「同僚が亡くなったから、お別れをと思ったんだけど、家に入れてさえもらえなかったよ」
と、正直に話した。
「え? なんで?」
と、杏奈が聞く。
「俺が守り切れなかったから……死んだんだ……」
と、さらに声のトーンを落とす安道に、
「守りきれなかったって、晴牙さん、仕事何してるんですか?」
と、杏奈は知っているのに、あえて聞いた。
「公安なんだ」
と、安道は表の身分を明かす。
「警察ですか……大変なんですね」
「まあな」
「この後の予定は?」
と、話を変える杏奈。
「見回りしないとなんだが、気分が乗らねえなぁ」
と、安道が言うと、
「じゃあ、気分転換にドライブでもしますか! 琵琶湖でも眺めて気分を落ち着かせて、どこかの道の駅でご飯食べましょうよ!」
と、明るく誘う杏奈に、
「それもいいね」
と、安道は少し声のトーンを戻して答えた。
「はい決まり! 行きましょう!」
元気よく言う杏奈の声に、安道の心は少し癒される。
杏奈の車は、滋賀県に向かって走り出した。
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次の日、死霊課に呼び出された安道は、
「異動?」
と、竹田に問いかけていた。
「ええ、亡くなった美琴の代わりに、菊池さんには山科区担当になって貰うわ」
と、竹田が菊池の異動の理由を、安道に説明した。
「宇城久以南担当は?」
と、聞いた安道に、
「また暫くアンタだけよ」
と、突き放したように言う竹田。
「マジかよ。楽できると思ってたのに」
と、呟いた安道に、
「また新人が来るって話が、上から出てるわ」
と、竹田が言うのだが、
「また一から、俺が教えるのか?」
と、不満を訴える安道。
「それはまだ未定よ」
と、竹田が言うと、
「せめて力の使い方くらいは、教えといて欲しいなぁ」
安道は死霊課のソファに、ドスンと座り天井を見つめながら言うのだった。
絡新婦編 完
安道の物語は、いかがだったでしょうか?
推理小説風に書いたのですが、現代モノって、やっぱり難しいですね。
読んで頂きありがとうございました。
https://ncode.syosetu.com/n6569gv/1/
新作のURLですので、よろしくお願いします。




