理解に苦しむ
「ん?」
と、杏奈が首を傾げると、
「肉体関係?」
と、晴清が眼を剥いて聞く。
「そうですよ。伯父様」
と、あっけらかんと言う杏奈に、
「えっと、いつから?」
と、さらに尋ねる晴清。
「数ヶ月前からですね……流れ橋の事件の頃からです」
と、思い出すような表情で、杏奈が言った。
「晴牙兄さんは、杏奈さんの素性を知ってるんですか?」
と、晴明が口を挟むと、
「知らないと思いますよ。杏奈って名前しか教えてないし、姓も安納って阿部の分家の姓だし、小さな家だから安道さん、多分知らないでしょう?」
と、杏奈が答える。
「というか杏奈、何故この位置を?」
晴清が、もっともな質問すると、
「私だって非常勤とはいえ、退魔師です。あんなに大きな妖気が漂えば、何かあったと思いますよ。安道さんが居るだろうと思って、働いてる姿を見ようと思いついたので出てきたんですよ! 位置は、安道さんのカバンに、GPS装置を隠しておきましたからね! 男の人ってカバンの中を出して、入れ替えとかしないから、見つからないので楽ですねぇ! どこに居るのかは、いつでもわかります。別の女の所に居ても分かるから、その女のところに行って、二度と連絡取らないようにと、脅すのがチョー楽です」
と、恐ろしいことを説明した杏奈。
それを聞いていた周りの者達は、全員ドン引きである。
「女って怖い……」
童貞の晴市が、顔を青くして呟く。
「頭痛くなってきた」
と、晴清が額を押さえると、
「頭痛薬持ってますよ? 飲みます?」
と、自分のカバンの中から、頭痛薬を取り出して、晴清に見せる杏奈。
「要らん! 杏奈、お前なあ!」
と、責め寄ろうとする晴清に、
「あ、説教は遠慮しまーす。安道さんだけ貰っていきまーす」
そう言って杏奈が、素早く有無を言わせず、晴明から安道を奪い取り、担ぐようにして車の助手席に安道を乗せ、自分も運転席に乗り込む。
「あ! 私が退魔師っていうのは、安道さんには内緒にしといてくださいよ? 誰かがバラして、私と安道さんが別れるようなことがあれば、誰であろうとも仕返ししますからね? では皆さん、おやすみなさーい」
運転席の窓ガラスを下げて、その場にいる者達に忠告、いや、コレは脅しだろうか?
そう笑顔で言い、手を振って去っていく。
その場に残された陰陽師や退魔師達は、ただただ呆然と、それを見つめることしか出来なかった。
「変わり者とは聞いていましたけど……」
と、晴明が言葉を漏らすと、
「晴明様、申し訳ございません」
と、晴清が頭を下げる。
「いや、晴清さんが謝る事ではないですよ。あの娘って、坂井出の爺様が、晴牙兄さんとくっ付けようとしていた娘でしょう?」
と、晴秋の方を向いて晴明が言うと、
「そうみたいです。私は会ったことなかったんですけど、かなり個性的な女性ですね」
と、晴秋が少し呆れて言った。
「坂井出さんは会ってるはずだけど、何故あの女性に目星を付けたのか、理解に苦しみますね」
と、晴勝が言うと、皆がウンウンと首を縦に振るのだった。




