正体
『死んでたまるかああ!』
そう叫んだ絡新婦が、激しく体をよじりあちこちに糸を発射する。
「ぐっ、結界がっ!」
晴市が叫ぶ。
「マズイ、崩壊する!」
晴秋が叫ぶ。
「結界、解いていいぞ!」
その言葉に、
「晴牙兄さん! よし、解放!」
晴明を言うと、それぞれの陰陽師が、札に力を送り込むのをやめた。
途端に光の線は切れ、札はヒラヒラと陰陽師の手に戻ってくる。
『この人間がぁ!』
絡新婦が、安道に突進してくる。
自身の体で体当たりをしてくるが、当たっているにもかかわらず、微動だにしない赤刀蛇。
『なぜじゃ、なぜ吹き飛ばん!』
絡新婦がそう声を上げながら、少し下がり前側2本の脚で必死に殴りつける。
それを交わしながら、ナイフで少しずつ脚に傷をつける赤刀蛇。
出来るだけ、同じ場所を。
そんな攻防が数分続いた時、絡新婦の脚の一本が途中から折れた。
いや、折られたのだ。
『くっ、脚が!』
と、声を漏らした絡新婦。
だが、脚はまだ5本ある。
新たに、一本の脚を攻撃に使う絡新婦だが、先に使っていた脚が、先ほどと同じように折られた。
『何故じゃあ! 何故ワシの脚が、たかがナイフごときに!』
と、声を上げた絡新婦に、
「お前、脚に痛覚が無いだろ? だから同じ場所を切りつけられても、全く気が付かない。痛みとは危機回避において重要なのだがな。まあ、いまさらだがな」
と、馬鹿にした顔で赤刀蛇が言うと、
『やかましいっ!』
と叫びながら、絡新婦が4本の脚でジャンプし、飛びかかってくる。
それを避けた赤刀蛇は、
「虫ケラが如きが、俺に向かって喚くな!」
そう言って、絡新婦の脚の一本を掴んで背負い投げのように投げ飛ばし、仰向けになった絡新婦を、蛇の姿で押さえつけた赤刀蛇は、絡新婦の脚を安道の体を使い、1本ずつ引っこ抜いていく。
残っていた脚を、全て引っこ抜かれ、呻きながら地面でジタバタと腹を動かす絡新婦。
腹から糸を街灯に向けて射出して、その場から逃げようとするが、その糸は右手から伸びた蛇によって噛み切られる。
『化け物……化け物じゃ! ワシらよりも化け物じゃ! 人のフリした化け物を野放しにしていいのか貴様ら!』
遠巻きに見ていた晴明達に向かって、絡新婦が訴えるように喚く。
赤刀蛇は、絡新婦を見下ろし、
「化け物が、何をほざいてやがる。晴牙は人間じゃ。ただし安道家のな。安道の中でも最高の資質を持つ人間じゃ。神であるワシをその身に宿せるくらいのな」
と、言い放つ。
『神じゃと⁉︎』
「ああ神さ。蛇神、まあ邪神とも言われるが、れっきとした神さ。てめえごとき虫ケラ妖怪とは格が違うのよ。あの世で後悔しろ」
赤刀蛇はそう言って、紅く光る脚を振り上げ、踵落としの要領で、絡新婦の頭を潰した。
ピクピクと痙攣する絡新婦に、封印石を押し当てる。
その途端、絡新婦の体が人の姿に戻る。
かつて、ミキだった体だ。
そしてその体は崩れだし、風に吹かれてサラサラと散っていく。




