報酬は?
あらかた倒した後、数匹残る子蜘蛛を他の陰陽師達が、上手く相手しているのを確認した安道は、
「おい! 起きてるか?」
と、背中に問いかける。
{ああ、なかなかの大物じゃないか}
と背中から、安道にだけ聞こえる声がする。
「力を貸せ」
{報酬は?}
「いつもの1日」
{それで奴を倒すのは無理だと思うぞ?}
「ちっ! ならどれだけ要るんだ?」
{5日}
「多過ぎるだろ!」
{ワシの見立てでは、それでもギリギリだと思うぞ? 5日なら8割の48分だが、本当なら6日は欲しいところだ}
「そんなにか?」
{奴の眼は10。前の6眼とは格が違う。強さは比べもんにならん!}
「じゃあ5日で!」
{負けそうになったら割合増やすからな。それでも良いな?}
「仕方ねえな。負けるわけにはいかねぇしな!」
{では、五体預かる}
服で分からないが、安道の背中の刺青が、両腕、両脚と胴体に広がり、鱗状の模様が浮き出る。
「くっ」
と、痛みに耐える声を漏らした安道。
{晴牙、良いぞ}
赤刀蛇の声に、
「晴明! 全員退避!」
と、安道が叫ぶ。
「晴牙兄さん⁉︎ わかりました! 総員距離を取れ!」
晴明が周りに指示を出すと、皆が距離を取った。
「初代、安倍晴明の血を受け継ぎながら、安倍家とは別の道を歩みし一族の1人。真名、安道晴牙の名において命ずる。十の眼を持つ絡新婦を殺して封印せよ! 赤刀蛇!」
安道がそう叫んだ。
その刹那、安道の身体が紅く輝いたかと思うと、凄まじいスピードで、絡新婦に迫りゆく。
安道の右手には、ナイフが握られている。
絡新婦は脚で安道に殴りかかるが、その脚をナイフで弾くと、もう1本迫ってきた脚を、左手で掴み取る。
掴んだ左手が紅く光ると、そこから紅い蛇が出てきて、脚に絡み付いた。
べキィ
と、音がしたかと思うと、蛇に巻き付かれていた脚が、砕け散る。
『この程度でワシが倒せると思うなああ!』
絡新婦が叫びながら、別の脚で安道を殴る。
吹き飛ばされた安道は、地面に転がりながらも、ナイフを左手に持ち替え、右手でグロッグ17を抜き、絡新婦に向かって銃弾を放つ。
3発発射した銃弾のうち、1発が絡新婦の腹に当たる。
黄色い体液が流れ出るが、絡新婦は気にもせずに安道に迫り来る。
その場から飛び跳ねるように立ち上がった安道は、振り下ろされた脚を避け、一旦距離をとるように後ろに下がると、そこに迫ってきた子蜘蛛を踏み潰す。
「子蜘蛛で俺をどうにかできると思ったのか? 所詮は虫ケラかよ」
と、吐き捨てるように言う安道に、
『ワシの子蜘蛛は優秀でな、ほれ見てみい。そこに倒れてる女子を』
と、言った絡新婦が脚で方向を指す。
そこには、吹き飛ばされた伏見の体。
だが、頭部がどこかおかしい。
人の頭部ではなかった。
それは子蜘蛛。
伏見の首から上が、子蜘蛛にとって変わっていた。
「美琴……」
安道が小さく呟く。




