駐車場
陰陽師たちは、自身の式神を放つ。
それは雀の姿だったり、鳩だったりする。
安道は、仲間の烏や鳩の視覚をチェックする。
退魔師達は、人混みを注意深く観察する。
件の女を探すためだ。
だが結局、その日は空振りに終わり、なんの成果も得られなかった。
御池通りの地下にある駐車場の車の中で、男の変死体が発見されたのが、翌日の朝の事だった。
その死体は内臓が無く、伏見区の観月橋駅近くのマンションで発見された変死体と、同一犯と思われるという事で、事件は死霊課に回ってきた。
「地下はさすがに式神では、探せません」
とは、晴明の言葉。
思念が地下に届かないのだ。
「という事は、安道に頼むしかないですね」
と言ったのは、竹田。
場所は、死霊課の会議室。
「なかなか手強い妖怪ですね」
安東晴秋が言うと、
「地下や建物内は、術師がその中に入りませんと、式神を動かせませんからな」
と、阿部晴清が言う。
「私が宇城久と八幡を、晴牙殿の代わりに担当して、晴牙殿には、地下駐車場の有る場所を担当してもらいましょうか?」
と、安部晴勝が提案する。
「晴勝さん、頼みます。では晴牙兄さんは、市内の地下駐車場を頼みます」
晴明が言うと、
「エサ代出してくれよ」
と、安道が言う。
「何が要るの?」
と、竹田が安道に問いかける。
「煮干しや魚の内臓や、豚の内臓とかでいい」
との安道の言葉に、
「ネズミ?」
と、晴秋が聞く。
「地下はネズミだな」
「ドブネズミ嫌いなんだけどなぁ。ハムスターとかなら可愛いのに」
と、竹田が言うと、
「ハムスター走らせたら、人に捕まえられるからダメ」
と、安道が答える。
「やってみたことあるの?」
と、晴秋が聞くと、
「ねぇよ」
と、安道が笑う。
「ではそういう配置でお願いします」
晴明がそう言って締めた。
安道はさっそく動き出す。
近所の魚屋で、捌いた後の内臓や骨を貰い、精肉店で商品にならない部位を、格安で譲ってもらう。
いつも、ペットの餌にしていると言って、貰ったりしているので、顔見知りになっているから、そのへんはスムーズである。
最初に訪れたのは、事件現場の御池の地下駐車場。
その後、京都市内にある、八条口駐車場や、円山公園駐車場、岡崎公園駐車場等、等など、地下に有る駐車場に、内臓を置いて回る。
知らない人が見たら、完全に不審者である。
そうして安道自身は、四条通りの鴨川沿いに1人座り、残ったエサを、仲間の鳶や烏に与えていた。
安道の回りに群がる、鳶や烏の数の多さに、四条の橋の上を歩いていた人々が、驚きの声を上げ、スマホを取り出し、写真を撮ってSNSにアップして、ネットが少し盛り上がったが、安道には関係のない事だった。
「アレ? これ晴牙さん?」
スマホを覗いていた何人かの女性が、リツイートで回ってきた写真を、見て声を上げた以外は。
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翌日、宇治市にある天ヶ瀬ダムの東側の山で、男性の変死体が、ハイキングをしていた男性2人によって発見された。
天ヶ瀬ダム〜大和国の国土交通省近畿地方整備局が管理する国土交通省直轄ダムで、西日本屈指の大河川・淀川本流の宇治川と呼ばれている河川域に建設された淀川本流唯一のダム。高さ73.0メートルのアーチ式コンクリートダムで、淀川の治水と宇治市への上水道供給、総出力59万8,000キロワットにも及ぶ水力発電を目的とした特定多目的ダムである。現在ダム機能の強化を目的にバイパストンネル建設を柱とするダム再開発事業を実施中である。
ダムによって形成された人造湖は鳳凰湖と命名され、平等院鳳凰堂などと共に、琵琶湖国定公園エリアでもある宇治地域の主要な観光地となっている。〜
パトカーが、サイレンを鳴らし走りゆく。
それは、宇治橋通り商店街にある、観光客目当てのアクセサリー店に、週に一度だけ出勤する途中の杏奈が、京阪宇治駅の改札を出て、宇治橋を歩いて渡っていた時だった。
そして、宇治署の前でパトカーが出ていくのを、1人の女がニヤリと笑いながら見ていたのだ。




