送迎
30分後、店のドアが開き、1人の男がポッチャリした女性を連れてやってきた。
「頭、お待たせしました」
そう言った男に、
「頭じゃねー! 社長って呼べっつてんだろうがっ!」
と、まっちゃんが怒鳴る。
「すいません社長!」
と、男が詫びる。
「で? その娘か?」
「はい。うちのナンバー1のアヤメちゃんです」
アヤメと呼ばれた女は、20歳そこそこの160センチぐらいの身長で、体重80キロぐらいはありそうな人物だった。
決して美人ではないが、愛嬌のある可愛らしい顔をしていた。
「安道、どうだ?」
と、少し警戒している上村が、安道に聞く。
「雑魚が1匹憑いてるだけだな。憑きたてホヤホヤだな。取るか?」
と、まっちゃんに向かって、安道が聞く。
「ああ、頼む」
「オッケー、お嬢ちゃん、ちょっとジッとしてろよ」
そう言って席を立ち、女の背後に回り、髪の毛に指を差し入れる、握りしめるようにして取り出した黒いモヤを、そのまま握りしめて、封印石に封印する。
「ほい、おわり! お嬢ちゃん、あのマンションに行ったときに、変わった事無かった? 変な女見かけたとか、なんでもいいんだけど?」
と、安道がアヤメに聞くと、
「え? 今何したの? 変な女? そういえばあの日、送迎の運転手が女の人だったなぁ。いつもの男の人じゃなかったよ」
と、アヤメが言った。
「ん? 女が送迎? それはおかしいぞ? 変な客だった時のために、送迎は男と決めてある。おい、ちょっと調べてこい!」
まっちゃんが、女を連れてきた組の者に指示する。
スマホを取り出した手下が、電話をかけに外に出る。
数分後戻ってくると、
「分かりました! 古賀の野郎がその日の送迎サボって、臨時で雇っていた野郎に、送迎を押し付けたようで、その野郎が途中から、自分の女に運転させたようです」
その報告に、
「その野郎と女、引っ張ってこい!」
と、まっちゃんが言い、そう言われた男が、慌てて店から出て行く。
連れてきた女を残して。
「あのぅ、私どうしたら?」
アヤメが、訳がわからないといった表情で、聞いてくる。
「あの馬鹿」
まっちゃんが呟き、
「とりあえず飲むかい?」
と、安道が言うと、
「いいんですか?」
と、聞き返すアヤメ。
「まっちゃんの奢りね」
と、笑いながら安道が言うと、
「しゃーねーな。飲んでいいから、頑張って働いてくれよ」
と、まっちゃんが了承した。
「はーい! やったー! えっとねぇ、私ビール!」
と、カウンターに向かってアヤメが言う。
「はいよ」
と、加山が瓶ビールを持ってきた。
1時間後、
「社長、男しかガラ押さえられませんでした」
と言って、男を連れて戻ってきた手下。
目の前に連れてこられた男は、少し震えている。
「おい、女はどこの女だ?」
まっちゃんが聞くと、
「そ、それが、SNSで会った女で、どこの誰か分からないんです」
と、震える男が答える。
「はあ? てめぇ、バイトをやる時に書類読んだよな? なに勝手に他人にやらせてんだよ!」
と、まっちゃんが言うと、
「だって女の子が、アンダーグラウンドな仕事を取材したいとか言って、二万くれるからって……」
と、男がそう言った。
「はあ? おい、コイツ、シメとけ」
まっちゃんが言うと、
「おいおい、殺すなよ?」
と、上村が制す。
「大丈夫。多額の借金背負わすだけだから」
「ならいいか」
「いいのかよ」
安道が上村にツッコむ。
「いいさ。裏には裏の流儀があるだろ。あ、女の人相だけ吐かせといて」
と言った上村に、
「だとよ!」
と、まっちゃんが手下に言う。
「へい!」
と答えた手下が、絶望感漂う男を引きずるようにして、店を出て行った。




