乾杯
「おう! ターチン来たぞ」
「たーちん、久しぶり」
店のドアを開けて、2人がそう声をかけると、マスターの加山が、
「おう、安道にまっちゃん。まっちゃん久しぶりだな。元気そうで安心したよ。カウンターか? ボックスか?」
カウンターの中で、女性客の相手をしていたが、2人を見てそう言う。
「たーちんも元気そうだな。後でうえっこも来るから、ボックスで」
と、まっちゃんが言うと、
「なら、1番奥に。その方がまっちゃんも都合良いだろ?」
とのたーちんこと加山の言葉に、
「ああ、その方が良いな」
と、まっちゃんが言う。
「酒は?」
と、加山が二人に聞く。
「俺とまっちゃんのボトルをとりあえず出して」
安道がそう言うと、
「あいよ」
と、加山が答える。
2人は奥のボックス席に向かい、まっちゃんが奥側に座る。
店のドアを確認するためだ。
「で、うえっこはなんでまた、俺達を呼び出したんだろうな?」
まっちゃんがそう言うと、
「さあ? アイツ事件で忙しいはずなんだけどな」
との安道の言葉に、
「事件?」
と、眉をひそめるまっちゃん。
「さっき俺が送ってもらった娘が居たろ? あの娘のマンションの近くで、殺人事件があってよ。で、そこにうえっこが居たから、声かけに行ったんだ。それが今日の午前中。だから忙しいはずなんだよなぁ」
「へぇ。俺と安道を呼び出すくらいだし、何かあるんだろうけどなぁ」
そんな事を言ってると、
「ほい、安道の梅酒と、まっちゃんのブランデー。氷とミネはここに置いとくし、無くなったら勝手に取ってくれよ」
加山がそう言って酒と氷に、ミネラルウォーターを置いた。
「お、サンキュー」
と、安道が言い、
「たーちん、店が繁盛してて何よりだよ」
と、まっちゃんが加山の顔を見て言う。
「まっちゃんのおかげで、変な客来ねえからな」
と、笑顔で加山が言うと、
「来たらすぐ電話しろよ。すぐにウチのモン行かせるから」
「この辺のバカは、もう知らない奴居ないよ。ウチの店で暴れた奴のその後を知ってるからな」
「筋モンならもう知ってるだろうけど、半グレやただのバカも居るからなぁ」
「その時はまた頼むよ」
「おう! 任されて!」
と、軽い調子でまっちゃんが言うと、
「カイかよ!」
安道のツッコミに、三人が笑う。
その時、店のドアが開いて、上村警部の顔が見えた。
「おう! うえっこ! こっちこっち」
まっちゃんが手招きして、上村警部を呼んだ。
「おう、わりーな。遅れちまって」
上村がそう言うと、
「俺らも今来たとこだ」
と、安道が言い、
「ならよかった」
と、上村が笑う。
「で? 何があった?」
と、まっちゃんが言うと、
「まあ、それは後で。とりあえず一杯飲もうぜ」
と、上村がグラスを持つフリをして、口の前で手首を動かす。
「よし、たーちん、うえっこにビールな!」
安道が、カウンターの中に居る加山に向かって声をかける。
「あいよ!」
と、瓶ビールとグラスを持って、安道達のテーブルに置いた加山。
安道が上村にビールを注いでやり、
「では! 乾杯!」
と、上村が言うと、
「乾杯」
と、まっちゃんが言い、
「かんぱーい」
と、安道が2人とグラスをカチンと当てた。
「で?」
と言ったのはまっちゃん。
「安道は知ってるが、今日、観月橋駅の近くのマンションで、死体が見つかった」
と、上村が話し出す。
「ああ、さっき安道から聞いた」
と、まっちゃんが頷く。
「その死体だが、内臓が無かったんだが、現場に俺が入って気が付いた不審な点が二つ。一つは、死体が腐乱しているのに、真っ赤な血が残っていた事」
それを聞いて、安道の目が険しくなる。
「二つめは、ローションのボトルと破れたストッキングがあった事」
これを聞き、まっちゃんの眼が険しくなる。
「血の方は、安道の方が詳しいだろうし、おそらくそっちに事件が回るだろう。ローションとストッキングだが、おそらくデリヘルだろうとアタリをつけ、携帯の履歴の電話番号から最後の番号を調べた。デリヘルぷりんという店だ。まっちゃんの店だよな? 被害者のマンションに派遣された女性が誰か、確かめられるか?」
と上村が言った。
上村やまっちゃんは、安道の仕事内容を知っているようだ。たぶん加山も知っているのだろう。
「ちっ! ウチの店かよ。ぷりんに所属してる嬢は多いからなぁ。その野郎の携帯の番号と住所は?」
まっちゃんがスマホを取り出しながら、上村に聞く。
「おう、俺だ。ちょっと調べろ。ぷりんに住所が伏見区の〇〇マンションで、スマホの番号090%¥☆○××××の野郎から、電話あったかどうかを。それと有ったらそこに誰を行かせたかもな! 分かったら折り返せ。おう」
そう言って通話を切る、まっちゃん。




